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谷宏美

日本在住/フリーランス ライター

エディター/ライター。ファッション誌の美容エディターを経て、2017年よりフリーに。渋谷のワインバー「ローディ」で店の仕入れや現場でのサービスをやりつつ、ワイン&ビューティの分野で取材・執筆を行なう。J.S.A.認定ワインエキスパート。バタークリームとあんこは飲み物。

2019.03.13
column

田崎真也が解説する「山梨ブランド食材と山梨ワインのマリアージュ」

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山梨県主催の「やまなしジビエ&富士の介」を紹介するイベントが2019年2月2日(土)に開かれ、ソムリエの田崎真也さんが、山梨ブランド食材と山梨県産のワインのマリアージュをナビゲートした。

世界遺産でもある富士山をはじめ、八ヶ岳や南アルプスなどの名峰を有し、その雪解け水による豊かな水資源に恵まれた山梨県。桃やブドウ、甲州牛や甲州地どりといった食材でも知られているが、このたび新たな山梨ブランドの滋味がお披露目された。「やまなしジビエ認証制度」による鹿肉、そしてキングサーモンとニジマスを交配して生まれた新魚「富士の介」だ。会場となった山梨ブランドのコンセプトレストランY-wine(ワイワイ)に、シェフや料理長、百貨店バイヤーといった食のプロが集まった。

野生鳥獣の農林被害が全国で報告されるなか、山梨県でも増加したニホンジカを適正数にすべく捕獲管理に取り組んでいる。その一環として、安心、安全を担保した食肉として活用する「やまなしジビエ認証制度」を創設、本年度より流通を開始した。安全面や衛生面、トレーサビリティなどにおいて厳重な審査を経た鹿肉のみが「やまなしジビエ」の認証マークを付与される仕組みだ。

また山梨県は、もとより清らかな水源を生かしたサケ・マス類の養殖が盛ん。このほど、全国生産量第3位を誇るニジマスとキングサーモンを掛け合わせた「富士の介」の開発に成功し、2020年の流通スタートを見据えて現在試験養殖中。約3年の生育期間を経て、大型淡水魚として市場に出回る予定だという。

田崎真也さんが、このニホンジカと富士の介を用いたメニューを考案し、山梨県産のワインのマリアージュを監修。田崎さん自ら料理とワインを説明しながら、会が進行した。

右から アルガブランカ クラレーザ 2017、醸し甲州 2017、シャルドネ 樽発酵 2017、ますかっとベーリーA Huit 2016

1 )
富士の介とヤギのミルクのムースのルーロー ビーツ風味
 ×
アルガブランカ クラレーザ 2017/勝沼醸造

2 )
富士の介とミ・キュイとクネル モクズガニのビスクソース
 ×
シャルドネ 樽発酵 2017/笹一酒造

3 )
薫香をまとった鹿肉と鹿レバーとムース
 ×
醸し甲州 2017/マルサン葡萄酒

4 )
鹿のフィレと鹿ロース肉のロースト 2種類のソースで
 ×
ますかっとベーリーA Huit 2016/ダイヤモンド酒造

田崎さんは「キングサーモンのしっかりとした肉質と、ニジマスの緻密で繊細な味わいのバランスがうまくとれた淡水魚」と富士の介を説明。これを軽くマリネし、山羊乳にレモン汁を加えて脱水したチーズをムース状にして詰め、ビーツのソースを添えた前菜を考案。柚子胡椒とマヨネーズをまとわせて、ヤマメの卵をトッピングした。富士の介は臭みもまったくなく、ねっとりとした食感が特徴的。合わせたのは、しっかりとした酸がのった2017年ヴィンテージの甲州。後味にほんのりと感じる土のニュアンスが、ビーツのソースにぴったりだ。

富士の介のもう一品は、半生に火を通したミ・キュイにモクズガニのビスクソース。溶かしバターで香りづけしたクネルを添えた。富士の介のしっかりとした肉質はミ・キュイでも味わえ、鮮烈なオレンジ色は見た目にも華やかで食欲をそそる。セレクトしたワインは、樽発酵のシャルドネ。甲殻類の濃厚なソースやバターの風味が、クリーミィなシャルドネにマッチし、互いのおいしさを引き出すペアリング。

続いて鹿肉。ロースやフィレは1キロあたり8,000円を超える高級食材だが、田崎さんは「スジやモモの細切れ肉はうま味があり、レバーはムースやペーストなどに使いやすい。骨からもいいスープが出るので、こうした安価な部位を活用したメニューを」と、ロース肉の約10分の1の原価という細切れ肉やレバーを使ったムースを提案。キクイモのピューレとチョコレートのソースを添え、果皮や種を果汁とともに長時間漬け込み、オレンジ色を帯びた甲州と合わせた。白ワインながら色とともにポリフェノールが抽出されて複雑味が増し、さらにスパイシーなアフターが、パンチのあるジビエと好相性。 

最後は、鹿肉のフィレ肉とロース肉の低温調理のローストが供された。ロースには鹿の出汁にスグリやブルーベリーをたっぷり使った濃厚なグランブルーヌソースを添えた。フォンにベリーのジャムを加えたクラシックなこのソースとジビエは、ヨーロッパでは定番の組み合わせなのだそう。合わせたワインは、マスカットベーリーAを新樽のみで24カ月と長期熟成させた赤ワイン。良質な鉄分を含む赤身の鹿肉に、赤いベリーのニュアンスを生かして仕上げたエレガントなマスカットベーリーAがマッチして、長い余韻を楽しむことができる組み合わせだ。

田崎さんは「釣った魚を締めるのと同様、獣肉も捕獲した直後の処理がとても重要」と語り、適切な処理がなされたやまなしジビエのおいしさと安全性を強調。国内(北海道を除く)に250万いるとされるニホンジカの生息数を適正化するためにも、サービスジビエのさまざまな食べ方やアレンジを提唱する必要があると述べた。

また富士の介を試食したシェフやバイヤーたちは「適度な資質と繊細な味わいがよい」「大型なので小骨が多く可食部が少ないという川魚のイメージを翻す」とポジティブなコメント。山梨から生まれた新たな食材に期待を寄せた。レストランのメニューに、また食卓に、山梨ブランドの鹿肉やハイブリッド淡水魚が並ぶ日も間近といえそうだ。

Text & Photo:Hiromi Tani