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Winart

日本在住/

1998年創刊のワイン雑誌。話題の産地の現地情報や、ワインはもとよりお酒全般に関連するさまざまな情報を、美しいビジュアルとともに発信することがモットー。ワインイベントもときどき開催(各イベントの詳細はPeatixページにて)。本ウェブサイトでは、誌面ではお届けできない情報を盛りだくさんでお届けします。【Twitter】@WinartWinart

2019.04.22
column

アートとワイン。春の箱根散策で楽しむ、箱根ラリック美術館「サラ・ベルナールの世界展」

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桜も終わり新緑が芽吹き、本格的に行楽シーズンが到来。4月のなかば、日常とはちがうハレの日のワインライフを求め、温泉や美術館がひしめく箱根に足を伸ばしてみました。

中心街から山道を奥へと登っていくと、仙石原エリアに今回のショートトリップの目的地、箱根ラリック美術館が現れます。フランスの工芸作家ルネ・ラリック。ジュエリー、香水瓶、室内装飾などさまざまな分野でため息のでるような美しい作品を遺しています。そんな多才なラリックですが、じつはシャンパーニュ地方アイ村の出身。ワイン好きのみなさまなら、眉山をピクリと上げてしまったやもしれませんね。

現在もブランドとしてその名を残す「ラリック」には、ワイングラスのラインナップも揃います。そう、箱根ラリック美術館こそ、アートとワインをともに楽しむにふさわしい場所ではないかとご提案したいのです。

現在開催中の特別展示は、19世紀末から20世紀初頭に世界的人気を博したフランスの舞台女優サラ・ベルナールにフォーカスしたもの。演劇界のみならず、文学や絵画、彫刻などアート全般に大きな影響を与えたこの大女優は、プロデュース能力にも長けていました。

アール・ヌーヴォ様式が華開く頃、若手ジュエリー職人として働いていたルネ・ラリックも、彼女に才能を見出されたひとり。サラは自身が出演する舞台の衣裳装具デザインをラリックに依頼。そのデザインを気に入ったサラは、ラリックにさまざまな仕事を発注していきます。大粒のダイヤモンドで装飾するジュエリーが全盛だった時代に、あえて石に頼らずにデザインで勝負。大女優サラの存在感に負けないデザインを次々と発表したラリックは、社交界やサロンでも注目のアーティストとなっていきます。

同時代に活躍したチェコ出身のアルフォンス・ミュシャもまた、サラに見出されて才覚を現した芸術家のひとり。1984年末に発注されたサラの出演舞台『ジスモンダ』のポスター画を短期間で仕上げ、完成したポスター画に目を留めたサラは、以後6年間、出演舞台のポスター作家としてミュシャと専属契約を交わしました。その『ジスモンダ』アメリカ公演版のポスター作品も、今回の会場に展示されています。30代にして、すでに世界公演をするほどの人気を博する大女優となっていたサラ。ミュシャの描いた別のポスターには、自身の華奢な体つきを魅力的にみせるために考案した、独特のS字ポーズをとる彼女の姿が描かれています。セルフプロデュース能力の高いサラだからこそ、見る者を惹きつけてやまない作品を生み出すことができたのでしょう。

ほかにも、サラに関する作品が80点ほど展示されており、彼女のさまざまな横顔を知ることができます。なかでも、ラリック(制作)とミュシャ(デザイン)の共作「ユリの冠」をかぶったそのビジュアルは、サラを象徴するイメージとして後世にも受け継がれていきました。

今回の企画展では、サラになった気分で「ユリの冠」を戴いた記念写真が撮影できるイベントも用意されています! 「サラ・ベルナールの世界展」は2019年6月30日(日)までの開催となりますが、1階の常設展フロアには、サラの彫刻作品などが展示された「サロン・ド・サラ」の部屋(この記事のトップ画像)もアリ。会期に間に合わなくても、箱根の四季を背景に、モネの風景画を彷彿とさせるような庭園とともに鑑賞する彼女の作品には、箱根の奥まで足を運ぶだけの価値はあります。

作品鑑賞後は、ゆっくりランチタイムといきましょうか。モーニングやランチのために訪問するお客様も多いという、美術館併設のカフェ・レストラン リスへ。企画展メニューとして用意されている「サラ・ベルナールに想いを寄せて ガレット・ド・ブルターニュ」をグラスの泡とともにオーダーしました。

公演の疲れを癒すため、ブルターニュ地方の小さな島にある別荘に滞在することの多かったサラ。野菜を好んで食べていたそうで、それにちなんで考案されたガレットは、野菜多めでヘルシーながらも、サーモンや卵ものって満足度の高い味わい。ガレットの香ばしさがグラスのカバとも合います。平日のグラススパークリングはカバのみの提供ですが、週末にはラリックの出身地にちなんでグラスシャンパーニュも登場するとのこと!

料理のメニューをしっかり読んでみると、チーズの盛り合わせなどワインのおつまみとして楽しめる皿や、ワイン煮込みなどしっかりワインとの相性を楽しみたい食事メニューも並んでいるではないですか! 専属のソムリエさんもいらっしゃるというので、ソムリエの山本順一さんにうかがってみると「フランスワインが8割くらいでしょうか。シャンパーニュ15種、白ワイン14種、ロゼ1種、赤50種をオンリストしています」との回答が。かなり本格的……。

さらに「いまは現場に出ることはありませんが、支配人の菊池はシニアソムリエでシャンパーニュ騎士団(シュヴァリエ)でもあります。ワインにはちょっとアツい店なのかもしれませんね」と山本ソムリエが笑う。ランチがいちばんの狙いどきですが、これからの季節ならのんびり午後から出かけて、つまみとボトルを頼んでテラス席でゆるりとワインを飲み進めるのもよさそう。ワインを楽しむ時間も計算して訪れたい美術館でした。

【infomation】

箱根ラリック美術館
所在地:神奈川県足柄下郡箱根町仙石原186-1
TEL:0460-84-2255
開館時間:9:00~17:00(最終入館16:30)
カフェ・レストランLYS(リス)
モーニング  9:00〜10:00(L.O.)
ランチ    11:00〜16:00(L.O.)
ティータイム 11:00〜16:30(L.O.)
※庭園・レストラン・ショップのみの利用は入館無料
URL:http://www.lalique-museum.com/

Text : Winart