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2018.09.19
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「東御ワインフェスタ 2018」リポート Vol.1 玉村豊男さんインタビュー ワインフェスに見る長野ワインのこれまでとこれから

2018年9月1日(土)、長野県東御市のJA信州うえだ東御支所 ラ・ヴェリテ特設会場にて開かれた「東御ワインフェスタ 2018」。この主催者であり、長野と日本ワインの普及と発展に努めるヴィラデスト ガーデンファームアンドワイナリー主宰の玉村豊男さんに話を聞いた。

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ヴィラデスト ガーデンファームアンドワイナリー(以下ヴィラデスト)、リュードヴァン、はすみふぁーむなど東御市内のワイナリーのほか、マンズワインなど近郊のワイナリーやヴィンヤード、さらに地元飲食店も参加するイベント「東御ワインフェスタ」。
年々参加ワイナリーや出店者も増え、今年度は雨の予報にも関わらず1600人が来場。子供連れのファミリーやふらりと立ち寄った老夫婦など東御市近郊の住民や、遠方から訪れたコアな日本ワインファンが、思い思いに東御のワインと地元食材を使ったフードを楽しんだ。

「このワインフェスは、東御市や近隣など地元のワインファンを増やしたいと考えてスタートしたものなんです。私が2003年にヴィラデストを始めて以降、ワイナリーやヴィンヤードの数も増え、ワインの品質も上がり、ワイン業界やワイン愛好家の間ではだいぶ長野ワインが知られるようになりました。とはいえワイナリーを起こした人もヴィニフェラ(ワイン用ブドウ)を栽培しているのも皆、他府県からの移住者。地元の人たちはまだワインより日本酒という人も多いし、ワインを飲む習慣が根づいていません。そんな方に、長野で奮闘している生産者たちのワインを知ってもらうことが目的のひとつです。県外からわざわざ来てくれるコアなワインファンを見て、東御や近郊に住む人たちが“長野ではいいものを造っているらしい”と思ってくれるんです(笑)」(玉村)。

初回は東御の名産品である巨峰の祭りの一部として開催したワインフェスは、回を重ねるごとに出店者と来場者が増え、それにより会場も変えながら拡大してきた。グラスワインのみの販売で1杯200円からとカジュアルな価格設定。ワインだけでなく東御市内や近郊の飲食店が出店し、シャルキュトリー、チーズなどのローカルフードが供されるのも魅力だ。

「“ワインに合う料理”とか“マリアージュ”とか言われるとますます大層なイメージをもってしまい、それを用意しないとワインを飲めないと思われてしまいます。そうではなく日常の中で、普段の食事と一緒に楽しんでほしい。日本のワインは充分それでおいしいから」と玉村さん。

確かに、ワインを飲む習慣がない人からは「いつ飲んだらいいのかわからない」という声も聞く。裾野を広げていくには、まずワインの楽しさを知ってもらうことが肝要だ。「ワイン生産者たちは地元のお店でワイン会を開催したりもしているから、飲食店とのつながりも深いんです。ワインとともに特産物や名産品、地元のおいしいものもアピールできれば、東御としても一石二鳥ですしね」。

初回はヴィラデスト、リュードヴァン、はすみふぁーむ、マンズワイン小諸の4ワイナリーでスタートしたという東御ワインフェス。今回はワイナリーとヴィンヤードで10軒、飲食店や地域団体で20余りの出店者が集まった。認可ワイナリーも年々増え、東御では新たに、元自転車競技選手の飯島規之さんによるシクロヴィンヤードが建設予定。東御市周辺でも、小諸市のジオヒルズ、坂城町の坂城葡萄酒もそれぞれ清新な醸造所が完成する。

「千曲川ワインバレーとしては毎年2〜3つのワイナリーができ、その予備軍もたくさん活動しています。ワイナリーが増えればこのフェスもさらに盛り上がる」と玉村さんは続ける。「飲食店が協力してくれていますが、さらに駅前の(田中町の)商店街も巻き込みたいと思っています」。この古い町並みが残る風情たっぷりの地域が参加すれば、東御の魅力もより深く伝えることができるだろう。

取材が行なわれた「東御ワインチャペル」。結婚式場のチャペルを改造したワインレストランで、東京でイタリアンを経営していた夫妻が地元東御でオープン。BYOも歓迎し、東御と長野ワインのポータルとしての役割も担う。

ワインファンを増やし、地元のサポーターを作るワインフェスは、産地形成を後押しする意味でも重要と考える玉村さん。東御、小諸、上田の3市合同での開催も視野に入れつつ、長野で“シャルドネ・セレブレーション”を開催するという、近い将来の壮大な構想がある。

ピノ・ノワールの生産者にフォーカスした“ピノ・ノワール セレブレーション”は、アメリカのピノ・ノワール産地として知られるオレゴンで始まり、いまやブルゴーニュのドメーヌも参加、また日本でも開催されるなど大きなムーブメントとなっている。これをヒントに、大規模なシャルドネの祭典をやろうというわけだ。

「国内では長野といえばシャルドネ、シャルドネといえば長野と言われ、世界でも産地としてその名を知られるようになりました。拠点は軽井沢、ワインバレー各地を会場にして、長野市や松本市では世界のシャルドネのワイナリーがブースを出すなど、グローバルなイベントとして実現できたら」と目を輝かせる。

日本のワインフェスとしては破格の規模となる“シャルドネ・セレブレーション”は、資金の算段も必要だ。目標の2020年開催まであとわずか。しかし、玉村さんが『千曲川ワインバレー』を著し、当時雲を掴むようだとも言われたプロジェクトを発表してからわずか5年で、その構想は現実のものとなった。今回「東御ワインフェス」に参加したひとりひとりが、すでに長野ワインの頼もしいサポーターだ。たくさんと人と地域を巻き込んで、玉村さんはまたこの夢のイベントも実現に導くに違いない。

プロフィール
玉村 豊男(たまむら・とよお)
1945年、東京生まれ。画家、エッセイスト。ヴィラデスト ガーデンファームアンドワイナリー、アルカンヴィーニュのオーナー、千曲川ワインアカデミー主宰。1992年に東御(当時は東部町)に移住し、東御で初めてヴィニフェラを植える。千曲川ワインバレー構想を唱え、長野県における小規模ワイナリーと生産者の育成に尽力。長野ワインの産地形成のキーパーソン。

Photo:Kentaro Ishibashi Text : Hiromi Tani