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木原美芽

日本在住/ライター・編集者

東京・神田神保町生まれ。『LEON』、『料理王国』、『WINE-WHAT!?』副編集長などを経て、飲食旅専業のライター・編集者。介護経験から薬食同源の重要性を痛感し、国際中医薬膳師資格を取得。また琉球料理を学ぶため、毎月沖縄へ通う。趣味は猫と暗室作業。Instagram(@mimekihara)

2017.09.07
column

野田村産ヤマブドウの個性を最大限引き出したワインを! 岩手の新ワイナリー「涼海の丘ワイナリー」が誕生

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このところ、日本各地で立て続けに新ワイナリーが設立されています。じつは岩手県もそのひとつ。三陸沿岸に新しい文化を創りたいと2015年にファーストヴィンテージをリリースしたスリーピークスワイナリー、かつて明治38年に東北でいち早くワイン製造許可を取って生産を行ない、昨年16年に自家醸造を再開した神田葡萄園などがあります。さらにもうひとつ、ヤマブドウワインに特化した「涼海の丘ワイナリー」が同じく16年10月、県北の沿岸にある野田村に誕生しました。

(ヤマブドウ畑からは海が見える。現在11戸の契約農家が11haのブドウ畑で栽培)

ヤマブドウは日本在来の野生ブドウの一種。約40年前から、栽培が本格化しました。じつは岩手県はヤマブドウの生産量が全国1位。野田村は八幡平に続く、県内2位の生産量なのです。涼海の丘ワイナリー・所長の坂下誠さんは、生まれも育ちも野田村。20年ほど久慈グランドホテルに勤務し、その後、野田村の国民宿舎「えぼし荘」に転職。14年冬からワイナリー設立準備に入られました。

(ワイナリースタッフは3名。中央が所長の坂下誠さん)



(収穫中の様子。「涼海の丘ワイナリー」のワインは野田村産ヤマブドウ100%)

「元々野田村では、ヤマブドウは『酸っぱいけれど身体によい』とされ、古くからそのジュースは、正月やお盆、入院見舞いや出産祝の贈り物にする文化があったんです」と坂下さん。19世紀から富山では健康飲料として医者がヤマブドウワインを生産・販売していた事例があるそうですが、同様に、東北地方でもヤマブドウは薬効ある食材として知られ、誰しもにとって身近な存在だったのです。

(委託醸造時代の野田村産ワイン。13年、14年は国産ワインコンクール(現・日本ワインコンクール)で銅賞を受賞した)

野田村では12年から、くずまきワイナリーに委託醸造を依頼して甘口・辛口両方のヤマブドウワインを生産してきました。ブドウはすべて村内の契約農家の手がけたものです。しかし、小田祐士村長が掲げた「ブドウ造り、ワイン造り、ワイン販売、そのすべてをオール野田村で実現させよう」という目標と、ホテル勤務時代にソムリエ資格を取り、ワインにどっぷりと浸かってきた坂下さんの「お土産ワインに留まらない、ヤマブドウの個性を活かした辛口の食中酒が必要だ」という思いなどが結実。野田村山葡萄倶楽部が募ったワイナリーサポート会員も、全国各地から630名ほどが集まりました。そしてついに第三セクターによるワイナリーが、村に誕生しました。

(自社醸造された涼海の丘ワイナリーのワイン。左から紫雫 樽熟成、赤、ロゼ)

「涼海の丘ワイナリー」としてのファーストヴィンテージは、ロゼ、赤、赤の樽熟成の3種類。合計9500本ほどをリリース予定です。ロゼ、赤とも2017年4月1日より発売開始し、売れ行きも順調で、現在赤は完売、ロゼは残り1000本を切りました。赤の樽熟成は近隣のマリンローズ鉱山で熟成させ、17年末から18年初頭に販売開始予定です。

(博物館「マリンローズパーク野田玉川」入り口。鉱山は、現在は閉山しているが、坑道の一部に入ることができる)



(12年ヴィンテージは全部で5000本ほどだったが、今回は9500本へと大増産)



(2016年仕込みの様子)

坂下さんは15年後半の仕込み期間中、岡山の「ひるぜんワイン」で醸造を学びました。同ワイナリーは88年からヤマブドウ100%のワイン造りを続けている大先輩。赤は先輩同様、ストレートな造りを行なったそうです。ロゼを造ったのは、とくに「野田村産の魚介に合わせたかった」から。料理、食材、地元、飲み手のすべてをつなぐワインを、坂下さんはつねにイメージしているのです。

(収穫されたヤマブドウ)

「ワイン用の野田村産ヤマブドウの特徴は、遅摘み。10月中旬頃まで収穫を待ち、糖度が18〜20度以上になったものを栽培農家さんにお願いしています」と坂下さん。他地域の一般的なヤマブドウが15〜16度だそうですから、かなり高い。

「本当は全ブドウ20度越えを考えていたのですが、昨年の台風でブドウにも被害が出て、今回はその目標にまでは達しませんでした」。

例年、野田村のヤマブドウワインは、冷涼な気候を反映した心地よい酸味と沿岸部の地域性から来る塩味をもっています。坂下さんは、こんな風に言います。「野田村のヤマブドウのおいしさと個性をどこまで引き出してワインに反映できるか試行錯誤しながら、ようやくスタートラインに立つことができました。まだ立ち上げたばかりで歴史も浅いワイナリーですが、これからここでしか飲めない、こだわりのワインを追求し続け、今年もチャレンジしながら新たな歴史を刻み、成長していきたいと思います!」。

野田村はご存知の通り、東日本大震災で大津波の被害に遭っています。昨年8月末には台風10号による被害も。ヤマブドウワインは、これらの爪痕を癒やし、復興への道を拓く存在でもあります。村民や全国のファンからの期待は、それはそれは大きいことでしょう。新規ワイナリーの成り立ちには、それぞれの物語があります。「涼海の丘ワイナリー」のそれは、いま始まったばかりです。
 

いわて三陸のだむら・ぱあぷる
http://pa-puru.com

写真/涼海の丘ワイナリー提供

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