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鹿取 みゆき

日本在住/ワイン&フードジャーナリスト

信州大学特任教授。食全般の生産現場の取材を続けながら、生産者支援にも注力。2019年、各地の生産者と共に(一社) 日本ワインブドウ栽培協会を設立。著書に『日本ワインガイド 純国産ワイナリーと造り手たち』『ワインの香り』(いずれも虹有社。後者は共著)など。Pen Online『ワインは、自然派。』連載中。

2020.08.04
column

発酵もフードロスへの解決策!? 映画「もったいないキッチン」が教えてくれること

コロナ禍で、期せずして食の生産現場におけるフードロス問題が明るみに。「もったいない」精神を美徳としながらも、日本は世界有数のフードロス大国となってしまった。その現状を、オーストリア人映画監督のまなざしとともに見つめてみよう。

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643万トン。日本国内において、食べられるのにもかかわらず捨てられている、1年間の食物の量だ。わかりやすく換算すると、日本ではおにぎりが1年間で1億2600万個廃棄されていることになるという。
今ではフードロス(食品ロス)という言葉を、頻繁に耳にするようになったものの、実際には、ほとんどの人がそのロスの実態を知らない。食物がどこでどのように廃棄されているのかなどに、関心を向けることなく、日々の暮らしを送っている。こうした問題に全く関心がないわけではないのだが、フードロスについての小難しい本を与えられても、それをわざわざ読んでみようという人はそうそうはいないだろう。この映画は、そんなフードロスの現状に加えて、この問題の解決のヒントを、堅苦しくなく伝えてくれる。

「もったいない」という言葉に惹かれて日本を訪れたオーストリア人映画監督のダーヴィド・グロスは、フードロスの実態を知ろうと4週間かけてキッチンカーで日本各地を訪ねていく。東京からスタートして、福島、大阪、京都、鳥取、熊本、鹿児島など、日本各地で食に関する取り組みを行う人を訪ね、時には出会う人に疑問を投げかけたりしながら、その取り組みの在りようを描き出す。

冒頭では、食品リサイクル施設の様子を映し出す。見たところ、十分に食べられそうな葉菜類がスーパーやデパートから次々と運ばれ、そして廃棄されていく様子が映し出される。初めて見る者にとっては衝撃的な光景だ。それを目の当たりにしたグロスのショックや悲しみは、映画を見ている私たちの気持ちともシンクロする。続いて訪れたコンビニエンスストアでは、賞味期限という、決して破ることのできない「神聖な」決めごとに従い、食べ物は決められた時刻になるとショーケースから片付けられてしまう。グロスはそのまま廃棄されてしまいそうな食べ物を「救出」して、それらを使って料理をする。日本はこのままで大丈夫なんだろうか? そんな思いが頭をかすめる。

けれどグロスはその一方で、日本でもフードロスを少なくしようとしている人、また食の原点とは何かを考え、それを取り戻そうと行動を起こしている人たちにも会いにいく。

京都で自ら摘んだ野草を料理して食べることで、食の原点に戻ることを提唱し続ける82歳の若杉友子さんは、野草料理でグロスらをもてなしてくれる。「食べ物を粗末にすると叱られた」と語る若杉さん。彼女と話をしながら、野草の滋味あふれる食事をすることで、グロスも食が自身を作るのだという言葉を改めて実感する。そしてその言葉は私たちの心にも刻まれる。

鳥取で、パン工房、ブルワリー、そしてカフェを営むタルマーリーの渡邉格さんの暮らし方もとりわけ印象的だった。渡邉さんは、自然栽培で麦を育てて、それを製粉し、パンを焼く。そして野生酵母でビールを発酵させている。さらにはパンとビールを出すカフェも開いている。発酵を利用した地域内循環を智頭町という里山で営みながらイキイキとしている渡邉さんを見ると、グロスのようにタルマーリーを訪ねてみたくなる。

ほかにも、地域ぐるみでコンポストを利用してゴミを減らす取り組みを行う町、地熱発電を利用してパクチーを栽培している町が登場する。日本を旅してきたグロスが旅の終わりに実感できたように、「もったいない」という言葉を持っている私たちの国もまだ捨てたもんじゃないと思えるようになってくる。
自然環境に関心のある人はもちろん、食に興味のある人にはぜひ見てほしい映画だ。

 

映画「もったいないキッチン」

8月8日(土)より、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか、全国順次公開
監督・脚本・出演:ダーヴィド・グロス
出演: 塚本 ニキ、井出 留美ほか
配給:ユナイテッドピープル
http://www.mottainai-kitchen.net/

©UNITED PEAPLE

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