• Top
  • Column
  • ブラインドテイスティングは「体験」になる
    日本ブライ…

池田美樹

日本在住/エディター・エッセイスト

マガジンハウスで22年間、雑誌・ウェブの編集に携わり、2017年よりフリー。現在は編集・執筆のほか、個人メディア「THE THIRD EDIT」を運営。仏シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ。

2026.08.17
column

ブラインドテイスティングは「体験」になる
日本ブラインドテイスティング協会が発足

  • facebook
  • twitter
  • line

    右から鈴木明人、沼田英之。


「ブラインドテイスティング=資格試験に向けた過酷な訓練」。そんなイメージをもつ人は少なくないだろう。2026年6月26日、一般社団法人日本ブラインドテイスティング協会主催のセミナー「体験が人を呼ぶ ブラインドテイスティングの新しい可能性」が開催された。

登壇したのは同協会代表理事の鈴木明人と、恵比寿の大型ワインショップ「WINE MARKET PARTY」店長の沼田英之。テーマは、ブラインドテイスティングを「誰もが楽しめる体験型エンタメ」としてとらえ直すことだった。

鈴木は『WINE ブラインドテイスティングの教科書』(グラフィック社)の著者で、ワインエキスパート・エクセレンス、SAKE DIPLOMAをもつ。今年4月に設立された協会は、ブラインドテイスティングの普及と技術向上を目的に、大会や講習、認定資格制度の整備を進めている。会員数はすでに約300名にのぼるという。

鈴木の著書『WINE ブラインドテイスティングの教科書』(グラフィック社)。

鈴木はまず、ブラインドテイスティングが「難解」「当たらない徒労感」というイメージによって敬遠されてきた背景を説明した。そのうえで、実際に人を惹きつける要素として、予測と正解のギャップが生み出すおもしろさ、ひらめきそのものの快感、自分の五感が評価される喜び、上達が目に見える実感の4点を挙げた。AIが瞬時に答えを出す時代だからこそ、自分の感覚と向き合う時間に価値が生まれる、という指摘があった。

セミナー後半では、ソーヴィニヨン・ブラン、シャルドネ、ヴィオニエの3品種を実際にブラインドで味わう時間が設けられた。ここで説明されたのが、鈴木が体系化した「Kun-Kun Blind Method」だ。

まず外観・香り・味わいを「考えずに」観察・記述する段階、次に集めたデータをもとに2、3品種の仮説を立てる段階、最後に仮説をデータと照らし合わせてFinal Answerを導く段階と、3つのステップに分けて進める。「感じる」と「考える」を混ぜないことが精度を上げる鍵だという。

今回のセミナーで使用された3品種。

もうひとつの柱が、沼田によるWINE MARKET PARTYの報告だ。同店は23年2月から、来店の少ない月曜、火曜を使ってブラインドテイスティングのイベントを続けている。特別な設備や追加スタッフを用意せず、店にあるワインだけで始めた企画は180回を超え、かつて「暇な曜日」だった月曜、火曜が、いまでは週末に迫る来店数を記録する曜日になっているという。

会場では参加者へのアンケート結果も紹介された。資格をもたない参加者が約3割を占め、「プロ向け」と思われがちなブラインドテイスティングが初心者の入り口としても機能していること。年齢層は20〜30代が中心で、酒類業界がなかなか取り込めずにいる若年層を惹きつけていること。参加は月に複数回のペースで習慣化しており、所要時間も短く、参加をきっかけに来店頻度が増えたという回答も多かった。

沼田は、従来型の試飲イベントが「店員の説明を聞く受動的な体験」であるのに対し、この企画は「自ら考え、答えを導き出す能動的な体験」である点が支持の理由だと分析する。参加コストの低さ、ゲーム性のある継続設計、体験した満足度が口コミやSNSでの発信につながる流れ。広告費をかけずに、この3つが噛み合って回っている。

協会としては今後、全国の店舗、レストランとの連携を強化していきたいと鈴木は話す。活動はまだ始まったばかりで、大会や認定資格制度といった仕組みはこれからかたちになっていく。すでに走り出している活動のひとつが「日本ブラインドテイスティングリーグ」で、2026シーズンは12月にかけて全7戦が組まれ、全国どこからでもオンラインで参加できる形式をとっている。ワインを「知識」ではなく「体験」として届ける動きが、今後どう広がっていくのか注目したい。

一般社団法人日本ブラインドテイスティング協会
https://blind-tasting.or.jp/

WINE MARKET PARTY
https://www.winemart.jp/pages/winemarketparty-ja

Text & Photo : Miki Ikeda

RELATED