• Top
  • Column
  • フランス無形文化遺産、アルマニャックの造り手を訪ねて(後編)

千石佳愛

フランス在住/マーケティングコンサルタント

慶應義塾大学文学部フランス文学専攻卒。フランスにて国際経営学修士号取得。 WSET ADVANCED。ワイナリー勤務を経て、現在、ヨーロッパにおける ワイン&スピリッツのアンバサダーを務める傍ら、インターナショナル プロモーションのコンサルを手掛ける。

2023.06.02
column

フランス無形文化遺産、アルマニャックの造り手を訪ねて(後編)

  • facebook
  • twitter
  • line

2010年に700周年を迎えたフランスでもっとも古いブランデーであるアルマニャック。ボルドーからトゥールーズ方面へ列車で1時間強、パリからの直行列車も通るアジャンの駅から車を南に30分走らせ到着したレクトゥールの白亜の城塞。ここから産地の中央部に位置するアルマニャック・テナレーズ地区を横断し、西部のバ・アルマニャック地区へ向かう。

カシとマツの森に覆われるこの地区は、オー・アルマニャックのブランに対して、アルマニャック・ノワールとも呼ばれ、アペラシオンのおよそ70%を占める。土壌は、おもにサーブル・フォーヴ(褐色の砂)という砂質土壌で、フィロキセラ後に開発されたハイブリッド種バコ(Baco)によく適応したため、アルマニャックの再興を担ってきた。

■アルマニャック・ノワールを牽引する代表的生産者のひとつ、ドメーヌ・タリケ

フランス南西部オーズ(Eauze)にあるドメーヌ・タリケは、コート・ド・ガスコーニュ・ワインのリーダーとしてフランス国外でもよく知られる生産者。17世紀から続くドメーヌのノウハウを引き継ぎ、当主グラッサ家が数世代にわたり自社栽培のブドウから、安定した高品質のオー・ド・ヴィ、アルマニャックを生み出している。

所有する1125ヘクタールのブドウ畑は、粘土石灰質土壌、珪質砂質粘土土壌、黄土色砂質土壌と、土壌がモザイクの様に連なる。夏期の昼夜の寒暖差が大きい海洋性気候のもとで、減農薬にてアロマティックなブドウを栽培する。ワイン用に国際ブドウ品種も多く栽培するが、アルマニャック用には、土着品種のフォール・ブランシュとプラント・ド・グレイス、ユニ・ブラン、そしてバコの4種を栽培する。

昨年7月、英国で開催されたインターナショナル・スピリッツ・チャレンジにおいて、バ・アルマニャック・タリケのピュア・フォル・ブランシュ15年 (Pure Folle Blanche Brut de Fût 15 ans、日本未入荷)が、全カテゴリーのスピリッツの中から「年間最優秀スピリッツ」を受賞。そしてドメーヌとしても、タリケは3年連続で「アルマニャック・プロデューサー・オブ・ザ・イヤー」のタイトルを獲得した実力派だ。

薪で熱する伝統的な連続式蒸留器が我々を泰然と出迎える。日本でも人気のフレッシュなワイン、コート・ド・ガスコーニュから試飲を始めた。リースリング主体の新たなキュヴェ「Imprévu」(日本未輸入)はフレッシュな味わいが印象的。白もロゼも爽やかに喉の渇きを癒す心地よい味わい。日常の食卓を一瞬に華やかなものにしてくれる立役者だ。

そして本命のアルマニャックの試飲。まずは「我々のブランシュ・アルマニャック(La Blanche Armagnac AOC)を見て欲しい」という言葉に、ベースリキュールへのタリケの自信の程が伺えた。ブランシュ・アルマニャックとは、2005年に制定された新しいAOCで、樽熟成を行なわない、フルーティでフレッシュな風味を生かしたアルマニャックのホワイトスピリッツを指す。

続いて、日本入荷済みのXO、未入荷のピュア・フォール・ブランシュ・ブリュット・ド・フュ(Pure Folle Blanche Brut de Fût) 12、15、25年、そしてプラント・ド・グレース(Plant de Graisse) 18年を試飲。

テイスティングコメントは以下の通り。

「ピュル・フォール・ブランシュ 15年」
フォール・ブランシュ100%、アルコール度数47.2%。15年の熟成を経て、ドメーヌ・タリケのフォール・ブランシュ種の第2熟成期を体現。昨年英国のインターナショナル・スピリッツ・チャレンジにて、全カテゴリーのスピリッツの中から「年間最優秀スピリッツ賞」受賞の堂々たる味わい。

マホガニー色のハイライトをもつ鮮やかな色合いで、オレンジピールのコンフィ、ハチミツ、カンゾウの複雑で秀美な香り。華やかなアールグレイやキャラメル、チョコレートの長くなめらかな余韻が続く。常温、または少し冷やして飲むと、そのアロマティックな豊かさが際立つ。

「プラント・ド・グレース / Plant de Graisse 18年」(日本未輸入)
プラント・ド・グレース100%、アルコール度数49.3%。このバ・アルマニャックは、プラント・ド・グレイス種のみ使用、最低18年の樽熟成を経ている。プラント・ド・グレイスという希少な古種は、ドメーヌ・タリケで2001年に植樹された。鋼色のニュアンスで、品種特性のふくよかで透明感のある美しい力強さがある。オレンジグレープフルーツ、大人びたタバコやカカオ風味の長い余韻が大変心地よい。

国内外でアルマニャック市場の拡大を牽引してきたドメーヌ・タリケが現在取り組むのは、環境問題だけでなく、社会と人へのコミットメントだ。2021年にはRSE (Responsabilité Sociale de l’Entreprise/企業の社会的責任)の認証も受けている。

環境面では、400haの生態系保護区内で、ブドウ畑やその周辺の生物多様性の保全や土壌生物の開発などにより、ふたつの環境認証を取得。社会面では、社員の健康や、責任ある消費への意識改革など顧客サポートの責任を果たしていくことを含む。

この様な責任を伴うリーダーシップが、これからも国の無形遺産を守りそして発展させていくのであろう。

〔お問い合わせ先〕
ラロッシュ・ヴァキエ:https://www.laroche-vacquie.com(日本未輸入)
ドメーヌ・タリケ: http://www.tariquet.com