松原摩子

イタリア在住/ライター、通訳、AIS公認ソムリエ、JSA 公認酒エキスパート

1992年よりイタリア在住。イタリアソムリエ協会公認ソムリエの資格を取得後、07年にミラノからワイン産地、オルトレポー・パヴェーゼへ移住。ワイン塾の主催や、ワイン輸出、食のイベントなども手がける。趣味は、ワイナリー巡り。

2018.07.09
column

自然派ワインへの流れ

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ここ数年、イタリアでは自然派ワインの人気が高まっており、化学薬品を一切使わず、ときにはバイオダイナミック農法も取り入れ、なるべく機械ではなく手作業で造ったワインが、より支持されるようになっています。

もともとスローフード協会発祥の国イタリアには、食の安全を重視する文化が根付いています。
たとえば、店頭に並ぶ肉、野菜、果物などには、産地や品質カテゴリーを明記することが法律で義務付けられていますし、スーパーに設置されている有機野菜や有機食品のコーナーは、年々拡大。NaturaSi(直訳すると〝イエス自然″)という有機食品専門のスーパーも急成長を続け、2009年の設立以来、全国に200店舗以上を展開。商品が割高にもかからず、需要が増していることがわかります。

ワインについても例外ではなく、自然派ワインだけを扱うこだわりのショップも出てきました。生産者も、環境に配慮し、有機栽培に移行したり、自然醸造を取り入れたりするところが少しずつ増えています。
ひと昔前には、有機ワインの不快な臭いを「ビオ臭」と呼んで、「有機ワインにはつきもの」と思われていた時代がありましたが、これはまったくの誤解。きちんと造られた有機ワインには、芳香なアロマとコクがあります。もっとも、最近では知識や技術が向上したおかげで、“クサイ”有機ワインは、ほとんど見かけなくなりましたが……。

日本には残念ながら、まだ有機やオーガニックについてのきちんとした規定がなく、法整備も意識も追いついていません。一方、イタリアの有機に関する法律はかなり厳しく、たとえば、有機ワインの認証を得るには、畑と醸造所で化学薬品を一切使用せずに、申請から3年間にわたる厳しい検査をクリアした末、ようやく入手できます。
農薬や除草剤などを使わなければ、当然、生産量は激減しますし、醸造も安定しないので、経営圧迫にもつながりかねません。かなりの覚悟がないと有機ワインを造ることはできないのです。

(提供:Emidio Pepe)

実際、自然派ワインを造っているのは、情熱をもった小さな生産者が多いように思います。経済効果よりも生産哲学を優先するからでしょう。
自然派ワインの先駆者のひとりで、日本でもおなじみのエミディオ・ペペは、いまも白ブドウを足で踏んで搾汁し、化学薬品を使わないのはもちろんのこと、酵母も酸化防止剤も無添加。それどころか、木樽熟成も一切行なわず、濾過もなし。かわりに手作業でデカンタージュをして瓶詰、ラベルも手貼り。究極の自然派ワインといえますが、人気の上昇とともに値段も上がり、最近はイタリアでも入手しにくくなっています。いちファンとしては嬉しくもあり残念でもありますが、ワイン哲学が、脈々と後世に引き継がれているのは、頼もしい限りです。

ひと昔前までは当たり前だった酵母添加も、最近は見直されつつあります。とくに、バローロやモンタルチーノなどのトップ産地では、いち早く自然酵母のワイン造りが取り入れられてきました。
ブドウの皮についている自然酵母だけで造られたワインは、発酵が安定しないために醸造に手間と時間がかかりますが、コクがあり、スムースで飲みやすいのが特徴。以前、バローロのワイナリーを訪問したときに、貯蔵中の樽から直接ワインを試飲させてもらったのですが、バローロ特有の重たい感じがなく、とても飲みやすくて驚いたことがありました。造り手さんが「自然酵母だからだよ」と言っていたのが、いまも印象に残っています。

ミラノLIVEWINEの会場の様子

自然派ワインの人気が高まるにつれ、専門の展示会も増えています。
イタリア最大の国際ワイン見本市VINITALYでは、自然派ワインのコーナーはつねに注目の的。数年前からは、自然派を牽引するふたつの生産者グループがVINITALYから独立し、同じ時期に別会場で展示会を行ない、いまではすっかり定着しています。
さらに、ミラノでは昨年、一般消費者も入場できる自然派ワイン展示会LIVEWINE が成功し、第2回目となる今年はさらにパワーアップ。フランスやギリシャ、スロヴェニアの生産者も出展していました。

Natural Wine Friendsの試飲会場となった城 Castello di Stefanago Vini

また、私の地元オルトレポパヴェーゼ(ミラノから南へ60km)でも、今年初めてNatural Wine Friendsという試飲会が、古城で行なわれました。ミラノからもソムリエやワイン愛好家が大勢訪れ、会場は熱気に包まれていました。過去の地元イベントと比較しても、集客数は圧倒的に多く、改めて自然派ワインの人気を裏付けた形です。

自然派ワインは体にもやさしい!少々飲みすぎたなと思っても、翌日スッキリと目覚められるのは、最大のメリットかもしれません。

Text:Mako Matsubara