
鳥海美奈子
日本在住/ジャーナリスト
週刊誌記者時代の共著にガン終末期を描いた『去り逝くひとへの最期の手紙』『愛する人への最期の言葉』。2004年からフランス・ブルゴーニュやパリに滞在して以降は、ワインや食についても執筆。著書に『フランス郷土料理の発想と組み立て』『日本ワイナリーの深淵』がある。

シャトー・ディケム、和食の「うま味」とのマリアージュを探る
「甘口ワインの最高峰」シャトー・ディケムは近年、和食との相性を探っている。なかでも注目するのは「うま味」だ。果たして、出汁や日本の発酵食品とはどのようなマリアージュを見せるのか。辛口の白「イグレック」から1976年のヴィンテージまで5銘柄との協演。京都のホテル「カペラ京都」のシグネチャーレストラン「SoNoMa by SingleThread」でのディナーをレポートする。
甘口ワインの枠を超えて、ソーテルヌのテロワールを映し出すシャトー・ディケム。そのワインと和食の「うま味」とのマリアージュを体感する特別なディナーが7月、京都に位置するホテル「カペラ京都」内レストラン「SoNoMa by SingleThread」で開催された。
カリフォルニアのミシュラン三つ星「SingleThread(シングルスレッド)」による初の海外展開店であるこのレストランには、現地アメリカのオーナーシェフのカイル・コノートンも来日、「SoNoMa by SingleThread」シェフの富永敬太とのコラボレーションとなった。

フランスのワイン生産者にとっていま「日本食」と「うま味」は一大ムーブメントであり、それは「甘口ワインの最高峰」「ボルドー・ソーテルヌの頂点」と謳われるシャトー・ディケムもまた例外ではない。
まず供されたワインは「イグレック 2017」。2017年には、シャトー・ディケムのこの辛口白ワインの美点がよく表現されていた。中心を支配するのは、グレープフルーツやパッションフルーツの香りや果実味といったソーヴィニヨン・ブランの伸びやかな個性で、後味にあるセミヨンのほろ苦さが、全体をまとめてくる。
「イグレックはボトリティスの少ないブドウを使った、モダンで緊張感のある白ワインです」と、シャトー・ディケムCEOのロレンツォ・パスキーニーとコマーシャルディレクターのアンナベル・グレリエールは話す。残糖は6gあるが、甘さはあまり支配せず、フレッシュさと酸の印象が強い。
そのワインと合わせるのは「八寸 初夏 京都 想乃間」。長崎県産シマアジ、塩麴でマリネしたホタテ、ウニとウイキョウパンナコッタ、京丹後の無農薬の万願寺唐辛子、アメリカンチェリーのジュレをかけた鴨レバーのパテ。それらが八寸のなかに並ぶ。

料理は続いて、「のどぐろの焼き物 菜の花と大根おろし添え」、「石垣鯛の刺身 ほおずきと出汁のソース」が供された。

出汁や発酵食品を使った料理に「イグレック」を合わせると、ワインの果実味と料理のうま味が同調し、口中で両者の味わいが膨らんでくる。料理に使われた野菜やハーブも、ソーヴィニヨン・ブランやセミヨンの要素と重なった。
次の「燻し銀桜鱒」には、「シャトー・ディケム 2023」である。温暖な年だった23年はハチミツやアプリコットジャム、オレンジマーマレードなどの香りが支配し、飲むとフルボディで力強く、凝縮感がある。桜鱒は塩麴でマリネし、サクラの木のチップで軽く燻製、そこに九条ネギのヴィネグレットと花山椒が添えられる。

「ソーテルヌの甘さにスパイスを使った料理というのはある意味、定番です。それをアレンジして和食ならではの九条ネギや花山椒、さらには燻製香を加えました」とカイル・コノートンは語る。
続いては、本店でのシグネチャー料理でもある「モルテッド・インカのめざめ じゃがいも」を京風に再構成した一品。一番出汁を使った茶碗蒸しとジャガイモのピュレ、そこにハマグリと甘酢漬けのミョウガを入れ、上にはオーストラリア産トリュフがのる。合わせるのは「シャトー・ディケム 2016」だ。アプリコットやエキゾチックフルーツの香り、キャラメル。豊潤だが、引き締まって気品がある。ディケムの複雑さが、ジャガイモのピュレや茶碗蒸しの温かく、土的な要素をより引き出してくれる組み合わせだった。

メインは「七谷鴨」にフォアグラの焼き飯、新タマネギ、甘夏、グリーンオリーブを添えたもの。「ディケムと鴨はフランスでもアメリカでも王道の組み合わせです」(カイル・コノートン)。供されたのは「シャトー・ディケム 1996」である。熟成によりドライフルーツ、サフランなどのスパイス香、ローストヘーゼルナッツなどの要素をもつワインと、鴨の脂やフォアグラの濃厚さが口中で溶け合い、まとまる。時折、甘夏やグリーンオリーブが味わいのアクセントとなるのもおもしろい。

最後のデザートはマドレーヌハチミツにミツロウジェラートと、ハチミツをさまざまに表現したその名も「ハニー」。すでに半世紀を経た「シャトー・ディケム 1976」のマグナムを飲む、貴重な機会となった。

「ワインを長熟させるためには糖分と酸とタンニンすべてが必要です。100年はもつワインが私たちの目標です」とCEOのパスキーニーは超熟を目指すディケムの高みを語る。その1976年は砂糖漬けの柑橘系果物やナツメグ、白トリュフの香りなどが入り交じり、全体を甘さが支配し、余韻も極めて長い。それにデザートを合わせることで、甘みの世界が幾重にも反響していった。

料理の構成要素により、シャトー・ディケムの甘さが違った形で口中で表現される、興味深いペアリングとなった。
Text : Minako Toriumi

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