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Winart

日本在住/

1998年創刊のワイン雑誌。話題の産地の現地情報や、ワインはもとよりお酒全般に関連するさまざまな情報を、美しいビジュアルとともに発信することがモットー。ワインイベントもときどき開催(各イベントの詳細はPeatixページにて)。本ウェブサイトでは、誌面ではお届けできない情報を盛りだくさんでお届けします。【Twitter】@WinartWinart

2020.11.23
column

山梨の湧水で生まれた山梨発の新種サーモン。合わせたいのは、もちろん山梨ワイン!

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新酒の季節を迎え、ワイン好きとしては心踊る11月半ば。日本でも今年の仕込みもそろそろ終盤にさしかかり、ようやく気兼ねなくワイナリー巡りができる季節になってきた。2020年のこの秋冬はソーシャルディスタンスが気になるところだが、山梨県の29軒の宿泊施設と2軒の飲食店では「富士の介フェア」を開催中。ちょっとした気分転換に、山梨のワインと食を宿でのんびり楽しむ遠出を計画してみてはどうだろう。

ところで、「富士の介」って何?
ほとんどの方がそう思われるだろうが、これは、昨年10月2日に初出荷された山梨県イチオシの特産品「サーモン」のこと。東京ではなかなかお目にかかれない幻の魚に対面すべく、富士山麓にある山梨県水産技術センター忍野支所を訪問させていただくことに。

 

2~3キロ(体長50~60センチ)で出荷。山梨の湧水をかけ流しする池で養殖する。脂質15%を含む輸入サーモンに対し、富士の介は脂質10%と大人の味わい。つねにキレイな水で育つためクセのない味わいに。魚にも、育った水からのテロワールが感じられるという。

 

いつの頃からか、人気の寿司ネタといえば真っ先に「サーモン!」と挙がるようになった。その人気ぶりから、近年では全国各地でご当地サーモンの養殖がさかんだ。その数、なんと100種類以上!
富士の介は新参者のご当地サーモンになるのだが、この魚をわざわざ取り上げるにはワケがある。それは、数あるご当地サーモンのなかで、富士の介が唯一「キングサーモン」を父にもつ希少サラブレッド品種だから。太平洋に分布するキングサーモンは、サケ類のなかでも大きさも味わいも最高級とされる高価な魚。父方のキングサーモンゆずりのその姿は、凛々しい顔立ちでつややかに輝くボディ。加えて、母方のニジマスゆずりのボディの美しい柄とややピンクがかった肌色をもつ。見目麗しい魚だ。

気になるそのお味は、キングサーモンに比べると脂がより上品で、なめらかな肉質。アスパラギン酸やグルタミン酸といったうま味成分を多く含み、延べ160名のパネラーによる官能評価ではニジマスよりもうま味が増していると高評価を得たという。

 

数寄屋造りの木のぬくもりが優しい、旅籠 きこり。全室から竹林や小川が眺められる旅館、竹林庭 瑞穂も同じ敷地内にある。いずれでも地物をふんだんに使った料理をいただける。

 

いよいよ富士の介を試食すべく、富士山を後にして県内を移動。到着したのは、笛吹市の石和温泉郷にある旅籠 きこり。フェア参加施設のひとつで、山梨県が認定する「やまなしグリーン・ゾーン認証施設」(*)にもなっている。
いただいたのは先附からお造里、焼物、揚物、鍋物まで富士の介づくしのコース。この日は笛吹市一宮にあるルミエールワイナリーのワインを合わせていった。

 

富士の介いとこ和え、お造里、富士の介木の子チーズ焼、富士の介で出汁をとった富士桜ポークの出汁しゃぶ。ほかに、富士の介と秋野菜の和風餡掛けや、ご飯とお椀、香の物、水菓子が供された。

 

調理法を変えても、この魚はワインの味わいとうまく相性が合う。刺身でいえば、ドレッシングで洋風に仕上げたいとこ和えは、ロゼスパークリングのもつコクが富士の介のサーモンっぽさをうまく引き出してほどよい脂と溶け合う。その一方で、ショウガ添えのお造里を甲州と合わせると、白身魚的なニュアンスの上品なうま味が湧き出し、シュール・リーによる甲州のうま味とうまく調和する。火を入れて付け合せの地の野菜と一緒に口にすると、より味わいが重層的になって広がっていく。
コース自体もまた、甲州八珍果に数えられるクリやリンゴ、甲斐市八幡地区で採れる八幡芋、ワインの絞り糟を練り込んだ菌床で栽培したワイン椎茸なる新しい名産品にも出会えるなど、きこりの料理長のこだわりが光るたくさん発見のある料理だった。

 

一宮にあるルミエールワイナリーのカベルネ・ソーヴィニヨンの自社畑。有機栽培で管理する自社畑は下草も青々とした健全な畑。遠く見える山並みも相まって心和ませる風景。

 

食事のあとは、先ほどペアリングを体感したルミエールワイナリーへ。国の登録有形文化財に指定されている石蔵発酵槽の見学(要予約)はもちろん、蔵の周辺に広がる有機栽培の自社畑も散歩したい。時間があれば、昼時に立ち寄って併設レストランのゼルコバでのランチもオススメ。山梨食材を使った月替りのメニューでフレンチがいただけるここでも、月によっては富士の介×ワインを堪能できる。同ワイナリーもレストランも、いずれもグリーン・ゾーン認証施設。ワイン県を称しているだけあって、山梨ではワイナリーにも認証を出しているのがユニークだ。11月20日現在、認証されている31のワイナリーはコチラより確認できる。

 

富士の介と一緒にいただいたのは、左からルミエール スパークリング ロゼ 2017、甲州シュールリー 2019、石蔵和飲 2019。スパークリング ロゼはカベルネ・フラン、タナなどの黒ブドウを瓶内二次発酵させて造ったワイン。1年間の瓶内熟成を経てクリーミーな口当たり。右は新商品の上岩崎 マスカット・ベイリーA。

 

畑散策のあとはショップで試飲をして、気に入ったワインを購入して帰りたいところ。富士の介づくしのコースと合わせた3アイテムのほかにも、ワイナリーでは多くの種類のワインが揃う。日本ではまだ珍しい品種「プレステージクラス テンプラニーリョ 2017」や、11月12日に発売となった新商品「ルミエール 上岩崎 マスカット・ベイリーA 2017」あたりは、自宅でボトルを開けて一本通してじっくり楽しんでみる価値のある味わいだ。後者のワインは、同ワイナリー初の原料葡萄の栽培者の名前を入れたキュヴェで数量限定販売だ。

 

*やまなしグリーン・ゾーン認証
新型コロナウイルス感染症対策として、山梨県が打ち出した認証制度。申請のあった施設に対し県が現地調査を行ない、数十にのぼる項目をチェックし、基準に沿った対策を取っていることが確認された施設を認証している。仮に陽性者が施設を利用したとしても、濃厚接触者を出さない対策を取る。
https://greenzone-ninsho.jp/

Text : Ai Takizawa(Winart)