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近藤さをり

日本在住/ライター、ワイン&グルメ PRスペシャリスト

日本ソムリエ協会認定 ソムリエ、ジャパンビアソムリエ協会認定 ビアソムリエ。日本の大学卒業後に渡独し、日本企業現地法人ワイン仕入販売担当を経てワイナリーに転職。帰国して洋酒メーカー及びPR会社に勤務した後、フリーランスに。

2021.12.20
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南アフリカワイン ベンチマーク・テイスティング

南アフリカワイン協会は10月に試飲商談会「DISCOVER SOUTH AFRICA TOKYO 2021」を開催。2020年全日本最優秀ソムリエであり、WOSA Sommelier Cup 2019 ファイナリストである井黒卓氏を講師に迎え、マスタークラスを併催した。

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■南アフリカワインの概要

南アフリカワインの原産地呼称 W.O.(Wine of Origin)は1973年に制定された。州域 (Geographical Unit = GU)、地域(Region)、地区(District)、小地区(Ward)、シングルヴィンヤード(Single vineyard)の順に、細分化される。新世界に分類されているが、その歴史は、ほぼ旧世界に近い。土壌は約10億年前の前カンタブリア紀に形成されたもので、世界最古といわれる。1659年に初めてのワインが誕生した記録がある。ブドウは、ベンゲラ海流による冷涼気候と、ケープ・ドクターと呼ばれる乾燥した強い風による影響を受けて生育する。

主要ブドウ品種は、白は栽培面積全体の約2割を占めるシュナン・ブランがトップで、コロンバール、ソーヴィニヨン・ブラン、シャルドネと続く。赤はカベルネ・ソーヴィニヨンがトップだが、2位のシラーとの差が年々小さくなってきている。南アならではの品種、ピノタージュがこれに続く。

■ベンチマーク・テイスティング

テイスティングは、主要品種の中から4品種にフォーカスし、それぞれ異なるベンチマークを設け、2アイテムずつをブラインドで比較した。

左から下記①~⑧の供出順。


フライト1_シラーとシラーズ

ふたつの呼称のうち、もともとはシラーズの方が多用されていた。現在は、ワインのスタイルのイメージにより、フルボディならシラーズ、繊細でモダンなスタイルならシラーと表記する傾向にある。


KWV カテドラル・セラー・シラーズ 2018
KWV Cathedral Cellar Shiraz 2018

KWVのプレミアムレンジ。ウエスタン・ケープ内の複数の畑からのマルチ・ブレンド。ブラックベリー、スミレ、ダークチョコレート、リコリス。インパクトあるアタックで、フルボディ、グラマラス。下支えの酸もしっかりしていて、コストパフォーマンスが極めて高い。(2,210円/国分)


キアモント スティープサイド・シラー 2015
Keermont Steepside Syrah 2015

ステレンボッシュにある注目の産地、ヘルダーバーグ。標高の高い北向きの畑で、風が強く、果皮の厚いブドウができる。ブルゴーニュ的な造りで、年産1270本の少量生産。複雑なトップノート、黒コショウ、ゲイミーでレザーなど熟成感あり。ボリュームありながら、重すぎない。単一畑の素晴らしさが味わえるワイン。 (6,800円/マスダ)

フライト2_シャルドネ:冷涼気候と温暖気候

山脈に囲まれた標高の高い盆地、エルギンは海からの雲により降雨量の多い冷涼な地域。リンゴやスパークリング用ブドウの産地としても知られていたが、現在は気候変動によりスティルワインのシャルドネやピノ・ノワールの適地となっている。より温暖なステレンボッシュとの比較。


ボッシェンダル エルギン シャルドネ 2018
Boschendal Elgin Chardonnay 2018 

水捌けのよいボッケフェルド・シェール(頁岩)と保水性の高い粘土質が入り混じる土壌で無灌漑。口中を潤す酸、ストーンフルーツ。 一部のみ分離してマロラクティック発酵させることにより、溌剌としたリンゴ酸とクリーミーでトースティなテクスチャーが共存。(5,000円/三国ワイン)

一部マロラクティック発酵により?


ミヤルスト シャルドネ 2019
Meerlust Chardonnay 2019

温暖な地域の中でも涼しい場所の土壌の異なる4つの畑のブドウから。土壌が石灰質を含むことでpHが低くなり酸が前面に出る。メロウでなめらか、口いっぱいに広がる味わいの厚みや甘みは新樽に由来。(4,500円/JSRトレーディング)

フライト3_カベルネ・ソーヴィニヨン:ワード(小地区)別

ステレンボッシュの中に8つのワードがある。温暖ながら高い標高による寒暖差、フォルス湾からの冷たい風により夏も涼しく、カベルネ・ソーヴィニヨンやボルドー系品種に向く。


スターク・コンデ カベルネ・ソーヴィニヨン 2018
Stark-Condé Cabernet Sauvignon 2018 

ワードはヨンカースフック・ヴァレー。雲の通り道で多雨なため冷涼。品種由来のピラジンあり、みずみずしいブルーベリーやマルベリーのトーン、清涼感あり、上質な樽由来の香り、フィンボス(南アの灌木)、ドライハーブ、タイトでコンパクトにまとまった味わいはブレンドにより多層的。ダスティなタンニン。価格に対して極めて高い品質。(3,050円/モトックス)


ライナカ リザーヴ カベルネ・ソーヴィニヨン 2017
Reyneke Reserve Cabernet Sauvignon 2017

ワードはポルカドラーイ・ヒルズ。フォルス湾から数キロの畑で、バイオダイナミックで6樽のみの少量生産。発散力が高く力強い、カシスやブラックチェリー、品種由来の鉛筆の芯、針葉樹。果実の凝縮度のレベルが高いながらもリフトする要素があり、重みを感じさせない。南アのアイコニックなワインといえる。(15,000円/マスダ)

フライト4_シュナン・ブラン:ステレンボッシュとスワートランド

南アを代表する品種であるシュナン・ブランはどのエリアでも栽培されているが、ステレンボッシュは栽培面積も広く、もっとも多様性がある。一方、植物が枯れて一面黒くなることから「黒い土地」と呼ばれるスワードランドは、極めて乾燥した土地。世界最古の土壌、マルムスブリー頁岩を含む。ドライファーミングで土壌の違いを見せる造りをする生産者が多い。


ケン・フォレスター オールド・ヴァイン シュナン・ブラン 2019
Ken Forrester Old Vine Chenin Blanc 2019 

ケン・フォレスターはミスター・シュナン・ブランの異名を取る。ヘルダーバーグで1974年植樹の古木を無灌漑で栽培。南アのシュナン・ブランの世界的地位向上に貢献した。果実の凝縮感、ブライトな酸味がテンションを作る。(2,700円/日本リカー)


アルヘイト ブルーム・リッジ 2019
Alheit Broom Ridge 2019

クリス・アルヘイトは、さまざまなメディアでトップ生産者として扱われるカリスマ。スワートランドの最南端に位置する畑からのこのワインは、世界中のソムリエ垂涎の的。新樽不使用、シュール・リーによる澱からの厚みがあり、重たさは感じさせないうま味をもつ。(8,000円/ラフィネ)

※カッコ内は税別希望小売価格。

■注目のトピックふたつ

1. CHVシール
CHV(Certified Heritage Vineyards)シールは、オールド・ヴァイン・プロジェクトが認証する伝統的な畑に与えられる。樹齢35年以上を古木とし、もっとも古いもので1900年植樹のものがある。これにより、自身と同じ年齢の樹から造られたワインを探す楽しみ方ができる。

2.ケープ・ホワイト・ブレンド
シュナン・ブランを主体にした南ア独自のブレンド。ブレンドされる品種はソーヴィニヨン・ブランやシャルドネが多いが、南仏品種やセミヨン、パロミノなどが用いられることも。明確な定義はないものの、古木のブドウを使用することが多い。造り手のセンスが問われるクリエイティブなカテゴリーだ。単一品種が注目される時代を経て、ブレンドはいまの潮流ともいえるので、「グラスワインで1アイテムでもあれば提供する立場としておもしろいだろう」と井黒氏は推奨した。

Text & Photo : Saori Kondo

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