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芦谷日菜乃

日本在住/フリーランスライター

レストラン、ワインバー等飲食店勤務を経てライターとして活動開始。飲食店や日本茶専門店を中心に取材活動中。2024年に日本茶インストラクターを取得。

2024.09.13
column

世界トップレベルのワインリストを有する
分譲住宅型豪華客船「The World」の風土を感じる食体験

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世界トップレベルのワインリストを有する船をご存じだろうか。

分譲住宅型豪華客船「The World」は、ロンドンを拠点とするワイン専門誌『The World of Fine Wine』が決める「WORLD’S BEST WINE LISTS AWARDS」で、9年連続「BEST SHIP WINE LINE(最上級のリストを有する船)」を受賞している。「Bring the Destination Alive」というコンセプトを掲げ、世界中を巡る船ならではの食体験を提供しているという。

一体どのような船なのか。船が東京に停泊した際、特別に取材した様子をご紹介する。

「The World」は全長644フィート(約196メートル)の豪華客船。世界で唯一、船室をそれぞれ独立した住宅として販売している。そのため、乗船客を募集して各地をツアーする「クルーズ船」とは異なり、その船に乗ることができるのは「The World」船内の住宅を購入したオーナーのみ (オーナーの招待客やジャーナリストなど特別な場合を除く) という特殊な船だ。

南極を含む7つの大陸をめぐりながら、2〜3年ごとに世界を一周している。165室の住宅と、6つのレストラン、数種類のカクテルラウンジ、高級スパ、年中無休のフィットネスセンター、図書室、シアター、ゴルフシュミレーターなどを完備し、住人はまるで街で過ごすように日々楽しめるのだそう。旅程は居住者の話し合いの上、決められている。

客船として最大規模といわれているワインの所蔵は1万5000本以上。19カ国から1100を超える銘柄で構成されている。ワインリストは20カ国以上から集まった居住者の好みやスタッフの意見をもとに選ばれている。リストの中でもっとも多くを占める産地はフランスとアメリカ。そして、イタリア、スペイン、ポルトガル、オーストリア、ドイツ。さらに、オーストラリア、南アフリカ、アルゼンチン、チリ、ニュージーランドなどのニューワールドからもラインナップ。長い伝統をもつレジェンド的なワインだけではなく、ユニークなコンセプトをもつ気鋭のワインメーカーからもセレクトされている。

そんな「The World」は2024年7月、長崎、神戸、東京に停泊していた。コンセプトは「Bring the Destination Alive」つまり「行先の風土を感じる旅」。数日間の日本停泊中に提供されたドリンクやフードについて、ビバレッジマネージャーのケリー・マイケル・シェーファーに話をうかがった。

「船内のレストランにはそれぞれグランドメニューがありますが、メニューは行先ごとに新しいものになっているんですよ。たとえば、神戸では最高級の神戸牛を仕入れ、その晩にふるまいました。日本を離れたあとは、タイ、オーストラリア、ブラジルなど世界各国をめぐりますが、そこでも私たちは現地の食材を仕入れます。もちろん、インターナショナルなオーナー様たちに驚きを感じていただけるよう、現地の味にシェフのアレンジも加えます。そうやって、その土地ならではの食事やドリンクを楽しんでいただいているのです」。

そのために、停泊期間前から入念にリサーチを行ない、停泊国特有の食材を仕入れるのだそう。 

船内のインターナショナルレストラン「Tides」のメニューを見てみよう。

今回の日本停泊中に特別にメニューに加わったのは、朝ごはんとして「たまごやき」。そしてメイン料理は「豚の角煮」と「サケのお刺身と酢の物」。デザートには「抹茶クリームブリュレと桜シャーベット」が組み込まれた。出汁をとるためのコンブやカツオなどを日本で仕入れ、日本食の味わいを再現したそう。

Tidesのシェフであるセセバスチャン・バラホナ・バレラは、「停泊地であった長崎や神戸で現地のものを食べ、そこからインスピレーションを受けオリジナルメニューを作りあげた」と話した。「豚の角煮」は、魚介の出汁の優しい甘さに八角が効いたスパイシーな醤油味。とろけるように柔らかい豚肉は長崎港で仕入れたそうで、驚くほどの絶品だった。

レストランでは日本酒も提供されていた。なんと「The World」には本格的な日本酒リストが常時用意されている。今回新たに30の蔵元から仕入れたという。日本酒の繊細な味わいや香りに注目が集まっており、純米酒、純米大吟醸や純米吟醸などが人気。「獺祭」のような大手メーカーから仕入れることもあるが、上質な日本酒を造る小規模な蔵元からも仕入れている。にごり酒などもメニューに並んでおり、日本酒を扱う本気度がうかがい知れた。そのほかにも、「KI NO BI」などの国産ジン、クラフトビール、日本ウイスキーなども人気だったそう。

日本の食材である、抹茶、ユズなどをふんだんに使用したオリジナルカクテルも提供された。おすすめの「Pure Saketini」(サケティーニ)は、ベースにジンではなく純米大吟醸をつかったオリジナルマティーニ。ナポレオン・マンダリン・リキュールやライムコーディアルの柑橘感とともに、ユズが鮮やかに香る。酸味と甘みが口に広がり、キレのよい後味が心地よい。

そのほかにも、ラムをベースにユズジュースと日本酒を合わせた「Land Of The Rising Sun」(日の出国)や、抹茶と焼酎を使用した「Matcha Moonlit Mist」(抹茶ムーンリット・ミスト)というオリジナルカクテルなど、6種類がつくられた。

そして、もっとも注目を集めたのは日本酒と寿司のペアリングイベント。「The World」では停泊中、各停泊地で現地の一流シェフを招き、居住者やゲストのために極上の食事と酒を用意した。

ある晩には、群馬県で1886年から続く伝統ある蔵元「永井酒造」の永井則吉、そして中目黒の寿司屋「寿し屋のなか村」の代表が来船。鮮度のよい魚介類で握る寿司と日本酒のペアリングを居住者やゲストにふるまった。永井酒造はシャンパーニュの製法を応用して開発したスパークリングの日本酒を提供。寿司は3日間毎日売り切れたほどの人気だった。

「オーナーの皆様にとって日本食といえば、やはり日本酒や寿司をイメージされる方が多いですね。ちなみに、現在船では日本酒を多く取り扱っていますが、今後は甲州などの日本固有の品種で造られたワインを仕入れていくことにも興味があります。私は日本に12年間住んだ経験がありますが、やはり、日本国内でつくられたワインと和食の相性は抜群ですから」とケリーは話した。

さまざまな地域に根差す食文化。「The World」の運航はその食をめぐる旅でもある。「The World」が再び日本に来るとき、どのような体験を生み出すのだろう。いつかまた出会えるときを楽しみにしていよう。

「The World」:
https://aboardtheworld.com/
https://www.facebook.com/TheWorldResidences
https://www.instagram.com/theworldresidences/

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