
秋山 まりえ
日本在住/ステラマリー代表
総合商社勤務を経て、2006年に資格取得。ソムリエールとして経験を積む。2015年、ステラマリー起業。同年より「ステラマリー☆ワイン会」主宰。メーカーズイベント、ペアリングディナー開催等、ワインが繋ぐ一期一会をプロデュース。『ワイナート』誌106号〜116号にて「a Story」対談連載。

a Story ☆☆☆
『Winart』で足かけ4年にわたり連載された「a Story」が装いも新たに復活。いま気になるワインパーソンに逢いに行く。第3回のゲストは、東京・御徒町のワイナリー「Book Road 葡蔵人」の醸造家、須合美智子。ワイナリーの3階にある温かみのあるスペースで、彼女の出発と現在を訊いた。
⬛︎ menu1 先付け
「なんとかなるんじゃない?」

秋山 それでは、乾杯しましょう。
須合 乾杯! 今日一日ハッピーに過ごせそう。
秋山 やはりワインがお好きだったのですか。
須合 ワインは全然知らなかったんです。好きとか嫌いとかいうところにいないくらい、ワインにふれていない日々。梅酒は好きでしたけど、「お酒が飲みたい」という時間もありませんでしたね。
秋山 そんな須合さんが東京都台東区台東のK’sプロジェクトでワイン造りを始められたわけですね。
須合 アルバイトとして働いていたときに、社員の方々が「ワイン造り」の話をしているのを、ただの興味で聞いていました。造る人が決まっていないらしい。それは大変だな、って(笑)。
秋山 他人事だったんですね(笑)。でも、自らやりたいと手をあげられた。
須合 「アルバイトだから」という扱いをせず、分け隔てなく接する人たちで。この人たちと一緒に仕事ができるなら、なんとかなるんじゃない? と思ったんです。
秋山 そして、山梨のワイナリーの門を叩かれた。
須合 日本でワインと言えば山梨かな? くらいの気持ちでした。本当に何も知らなくて……。
秋山 まっさらな白紙からスタートされた須合さんのピュアネスが、ワインの特徴として表れていると思います。この優しいロゼ泡のように。
⬛︎ menu2 吸い物
「自分のできることって何だろう?」

秋山 山梨に通い、ワイン造りを学ばれているとき、どのプロセスにいちばん惹かれましたか。
須合 えー、なんだろう? 何かを考えているヒマがなかったですね。メモを書き、動画を回し、写真を撮り。とにかく教えていただいていることを漏らさないようにするだけで精一杯でした。
秋山 畑仕事は?
須合 好きだと思います。最近、ようやく八王子で自社の畑を始めたのですが、ブドウに最適な究極の場所を探すよりも、植えた場所でどうするか、できたブドウをどうするのか。やりようはあるので、その方が大切じゃないかと。場所や気候は私の力ではどうしようもありませんから。
秋山 神の領域ですよね。
須合 自分のできることって何だろう? そこに目を向けたいと思っています。東京のブドウを東京で仕込む。これが目標だったので、いまはそこに向かっています。
⬛︎ menu3 焼き物
「勉強しないで飲んでもいいんじゃない?」

秋山 須合さんと出逢えたのは、デパートの催事に出店されていたからですね。
須合 あのご縁が今日につながりました。ありがとうございます。じつはあそこでワインを買ってくれる人は少ないんです。「東京・御徒町のワイナリーなの? じゃあ、今度行きます」と。
秋山 そうなりますよね。
須合 でも、実際に来てくださる方もいて、その人たちとお話ができる。ここに訪ねてくる人を待つのではなく、ここに訪ねてくれる人に逢いに行く。デパートへの出店は、売るためというより、この「逢いに行く」感覚。ほとんどのワイナリーは地方にあって、旅に出ないと行けないじゃないですか。でも「飲む人のそばにあるワイナリー」があってもいいんじゃない? と。だからこその、MADE IN TOKYO。
秋山 それが理想ですよね。
須合 「私、ワインの勉強をしていないから」とおっしゃる方がいます。でも、勉強しないで飲んでもいいんじゃない? というスタンス。
秋山 そうじゃないと、ワインが日常に広まらないですね。
須合 なので「まずは飲んで」と。「おもしろい」「なぜだろう?」と感じたら、そこから勉強してもいいし、しなくてもいい。
⬛︎ menu4 揚げ物
「話すようにワインを造りたい」

須合 「ワイングラスがなかったら、家にあるもので飲んでみて」と伝えています。
秋山 そういえば山梨には湯呑みで飲む文化もありますね。
須合 ワイングラスで飲むと味の感じ方が違ったりする。家にあるコップで飲み比べてもおもしろいよって。グラスがないとワインを始められないわけじゃない。ワインっておもしろいなと思ってもらえたらいいなと。
秋山 日本ではまだまだ気軽さがないですよね。ワインにはフレンチ? と気構えてしまうところがあります。
須合 ナイフとフォークの世界と多くの人が感じていますが、お箸で食べる料理にも合うワインはあるし。「わかってね」という感じではなく、わかりやすい言葉で伝えたい。そんなふうにワインを造りたいし、紹介したいと思っています。
⬛︎ menu5 香の物
「この“道”でつながりたい」

秋山 「Book Road 葡蔵人」。素敵なワイナリー名ですね。
須合 ブドウとワイナリーと人。みんながつながってハッピーになれればいいなと思って名付けました。
秋山 私もワイン会を主宰していていつも思うのですが、ワインは人と人をつなぎますね。不思議なほどに。
須合 シルクロードは物資を運ぶ。ブックロードは教養を運ぶ。どこかで見て知ったのですが、どこで見たのか憶えてなくて、調べても見つからない。でも、「道」でつながれたらいいなと思って。当初はよく「本屋さん?」と訊かれましたが、本ではなく知識のことなんです。
秋山 その「道」を育てておられますね。
須合 いろいろな人が協力してくれていまがあります。ご縁がつながったんですよね。何かわからないことがあると「あの人が知っているよ」と教えてくれる人がいる。そうして解決できることが増えていく。ワインを飲まない場所でも、ワインは人をつなげてくれます。
秋山 本当にそう。ワインは、知らない人同士の共通言語にもなります。一本のボトルをみんなで分かち合えるのもワインのいいところ。今日も、そんなひとときになりました。ありがとうございます。
須合 こちらこそ。やはり、ハッピーな一日になりそうです。

須合美智子(右)
Michiko Sugo
当初は、K’sプロジェクトが運営するレストランでアルバイトをしていた普通の主婦。同社がワイン事業を立ち上げる際、自ら志望、醸造家の道へ。山梨の某ワイナリーで修業を積む。「Book Road 葡蔵人」も命名。2017年、ワイナリーがスタート。
⬛︎ Marie’s マリアージュ

東京都のワイナリーは静かに増えています。2014年、練馬区の「東京ワイナリー」を皮切りに、翌15年には、江東区に「清澄白河フジマル醸造所」がオープン。ブドウを運べば、都市でも醸造できる。つまり、東京でもアーバンワイナリーは可能であることを証明しました。
「清澄白河フジマル醸造所」の界隈は、カリフォルニアのアーバンワイナリーが立ち並ぶバークレー(サンフランシスコ)の街並みを彷彿とさせます。そして東京のリバーサイドはこの10年で画期的な変貌を遂げました。
日本橋、浜町、清澄白河、そして上野まで。このあたりはいわゆる「お江戸」エリア。母の地元でもあり、東京生まれの私には親近感があります。台東区台東にあるワイナリー「Book Road 葡蔵人」にはぜひ伺ってみたいと思っていました。
エチケットは、ワインを手にとるきっかけのひとつ。そのファーストインプレッションは、大きな要素です。なぜなら、そこには造り手の想いが込められているから。
ターコイズブルーが美しい「醸し甲州」のエチケットには、ワイングラスの上にのった「お米」が描かれています。どのイラストにも「身近なものでワインを楽しんでほしい」という須合さんの想いがありますが、このお米は和食全般をイメージしているようにも思えます。
優しくマセラシオンされておりオレンジがかった色調ですが、オレンジワインではありません。オイリーなものを食べた後、口の中をすっきり流すような清涼感があります。
エビしんじょう、シイタケ、シシトウ。どの天ぷらにもマリアージュしました。魚介や野菜は、甲州によく合います。食材を生臭く感じさせず、また搾ったすだちとも相性がよい。甲州は日本酒の吟醸香に似た香りをもつものが多く、そこも和食とベストマッチしています。
須合さんが造るワインは、香りが綺麗。しかし強い主張は感じられず、柔らかい。それは食中酒として食事に寄り添うことを優先されているからだと思います。普段着の生活にカジュアルに寄り添う、素朴でチャーミングなワイン。
須合さんの求めているもの、そして強さと、柔軟性をあわせもつ人間的な魅力がワインに映し出されています。
Book Road 葡蔵人
https://www.bookroad.tokyo/
写真:秋山まりえ(menu4、マリアージュ)
写真・構成:相田冬二

![[ワイナート]The Magazine for Wine Lovers](https://winart.jp/winart_kanri/file/img/common/img_header_winart.png)





















