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岩本順子 Junko Iwamoto

ドイツ在住/ ライター・翻訳家

ライター・翻訳家。ドイツ、ハンブルク在住。1999年にドイツの醸造所で研修。2013年にWSETディプロマ取得。現在ドイツの日本語新聞「ニュースダイジェスト」に「ドイツワイン・ナビゲーター」「ドイツ・ゼクト物語」を連載中。http://www.junkoiwamoto.com

2017.10.12
column

世界遺産の畑で守られるシャスラ・クローン

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シャスラは主にスイスで栽培されている世界的に希少な白品種だ。スイスでの栽培面積は約4000ヘクタール。ヴォー州ではシャスラ、ヴァレー州ではフォンダンと呼ばれている。ドイツではグートエーデルといい、約1100ヘクタールの畑がある。シャスラの起源については諸説あるが、最新の研究によると、ヴォー州レマン湖地域原産の固有品種だという。

シャスラからはおもに軽快でシンプルなワインが造られるが、リースリングやシャルドネなどのように、テロワールを反映し、10年後、20年後にも楽しめる長熟で偉大なワインも生まれる。

(ヴォー州の醸造家たちが頼りにしている、シャスラ研究者でもあるルイ=フィリップ・ボヴァール氏)

シャスラの故郷であるヴォー州で、シャスラを守ろうとしている人がいる。レマン湖畔のキュイーにある醸造所、ドメーヌ・ルイ・ボヴァールのオーナー、ルイ=フィリップ・ボヴァール氏だ。
氏は2010年に、数あるシャスラのクローンを研究・保護する財団(コンセルヴァトワール・モンディアル・ド・シャスラ/Conservatoire Mondial du Chassela)を設立し、19種類のクローンを400本ずつ栽培している。伝統あるクローンを守りながら、気候変動を考慮し、将来性のあるクローンを模索している。

(研究用の畑)

「シャスラ・ライブラリー」とでも言うべき3000平米の研究用の畑はボヴァール氏が提供した。約800年前にシトー会の修道士が切り拓いたラヴォー地区のブドウ畑のひとつ、サン・サフォランにある。城塞を思わせるラヴォー地区の石組みの段々畑は、07年に世界遺産に認定された。

(左:シャスラ・ジクレ、中:シャスラ・フォンダン・ルー、右:シャスラ・ボワ・ルージュ)

各々のクローンはスイス、フランス、ドイツの研究所から集められたもの。13年からはマイクロヴィニフィケーションを行ない、クローン別にワインの成分や風味についての研究も進められている。
ボヴァール氏はシャスラ・ジクレ(Chasselas Giclet)、シャスラ・ フォンダン・ルー(Chasselas fendant roux/別名ルセット・シャスラ)、シャスラ・ア・ボワ・ルージュ(Chasselas à Bois Rouges)、シャスラ・ フォンダン・ヴェール(Chasselas Fendant Vert)、シャスラ・ブランシェット(Chasselas Blanchette)の5つのクローンに将来性があるという。いずれも長年にわたってヴォー州で栽培されてきたものだ。

シャスラ・ジクレは果汁がたっぷりで酸が高め。ジクレとは「飛び散る」という意味。粒を指で潰すと勢いよく果汁が飛び散るので、そう名付けられた。シャスラ・ フォンダン・ルーはスイス西部でもっとも多く栽培されている果肉のしっかりとしたクローンで、収量が少なく高品質のワインができる。フォンダンとは「裂ける」という意味で、こちらは粒を指で潰しても果汁はほとんど飛び散らない。シャスラ・ア・ボワ・ルージュは収量が極めて少ないため、長年注目されることがなかったが、非常に高品質のブドウが得られる。シャスラ・ フォンダン・ヴェールは早熟でみずみずしいブドウをもたらす。シャスラ・ブランシェットはかつて非常に多く栽培されていたクローンで、樹勢がやや弱め。得られるブドウの質が非常によい。

蓄積されている研究データは、それぞれのテロワールにふさわしいクローンを選ぶ指標となる。ボヴァール氏自身は、デザレー、サン・サフォランなどラヴォー地区の優れた畑で、シャスラ・フォンダン・ルーを80%、シャスラ・ア・ボア・ルージュを20%栽培している。

(ボヴァール氏のシャスラ。右はメディネット(畑はデザレー、オーク大樽仕込)、左はイレックス(畑はカラマン、オーク小樽仕込)。シャスラは抑制された香りと味わいが魅力。品がよく、素材を大事にする料理にふさわしい)

ボヴァール氏はスイス最高峰のシャスラ生産者のひとり。フラッグシップワイン「デザレー・メディネッテ」は、国内外のワインのプロの評価がもっとも高いシャスラのひとつだ。

Photo:写真はすべて著者撮影