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岩本順子 Junko Iwamoto

ドイツ在住/ ライター・翻訳家

ライター・翻訳家。ドイツ、ハンブルク在住。1999年にドイツの醸造所で研修。2013年にWSETディプロマ取得。著書に『おいしいワインが出来た!』(講談社)、『ドイツワイン・偉大なる造り手たちの肖像』(新宿書房)、ドイツワイン・ケナー資格試験用教本内のテキスト『ドイツワイン・ナビゲーター』などがある。 http://www.junkoiwamoto.com

2025.07.25
column

「schlAHRvino、Zeilensprung、Mainwerk3 」アールとラインのエネルギッシュな3団体〜ドイツ・ハンブルク発 世界のワイン情報 vol.44

今春、ワインとスピリッツの国際見本市プロヴァイン(ProWein/開催地 デュッセルドルフ)を視察した後に、ドイツワイン・インスティテュート(DWI)の企画で、アール地方、ミッテルライン地方、ラインガウ地方を取材した。記事は本誌121号(P.96-98)に掲載されているのでご覧いただきたい。このコラムでは、本誌で言及できなかった3つの醸造家団体を紹介する。

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ドイツでは1990年代から、若手醸造家による団体が次々に結成されてきた。初期に結成された団体は、品質の向上を目指して、情報交換しながらともに学ぶこと、見本市に出展することなどに重点を置いていたが、ソーシャルメディアを利用して、宣伝、集客ができるようになった2010年頃からは、テイスティング・イベントや大規模なパーティの開催、商品開発、独自のオンライン・ショップの運営など、活動内容が多彩になっている。イベントで得た収益で、研修旅行などを実施することも可能になっている。

活力みなぎる若手醸造家団体の活動を追うことは、ドイツワインの現在地と、次なるトレンドを知る手がかりとなる。彼らの冒険や挑戦が明日のドイツワインを造り出すからだ。

■醸造家団体1/シュラヴィーノ(schlAHRvino)

2002年に結成された、アール地方の醸造家団体。「シュラヴィーノ(schlAHRvino)」は、シュラヴィーナー(Schlawiner)という言葉に由来する。シュラヴィーナーとは、よくも悪くも、境界、限界を超えて行動する人のこと。この語にアール(ahr)とヴィーノ(vino)をはめ込んだ造語だ。毎年、ワイン&グルメ・イベントを開催するほか、それぞれが持ち寄ったピノ・ノワールで、ブレンドワインの醸造を行なう。メンバーは現在14人。以下、取材の際に試飲会を開いてくれた5人の造り手を紹介する。

ヴァイングート・ネレス
Weingut Nelles

ネレス家は、アール地方で500年以上前からブドウ栽培に従事。エチケットの1479という数字は、祖先のブドウ畑の借用書類に記されていた年号だ。父トーマス、息子フィリップの2世代でワイン造りを行なう。所有畑は9,5ha。

醸造を担当するフィリップ・ネレスはファルツ地方の名門、クニプサー醸造所などで修業。ハイマースハイムの特級畑ブルクガルテンのピノ・ノワールB-52、アールヴァイラーの傾斜度45%の特級畑ローゼンタールから生まれるピノ・ノワールRはいずれもエレガンスにあふれ、アール地方ならではの表現力をもつ。年内にWineBANKという、コレクターのためのレンタル・ワインセラー施設が醸造所内にオープンする。VDP会員。

ヴァイングート・リンゲン
Weingut Lingen

1599年からの伝統をもつ家族経営の醸造所。10代目のペーター&タニア・リンゲン夫妻と息子のヤン、ニクラスの2世代でワイン造りに取り組む。所有畑は6ha。

ノイエンアールのキルヒトゥルムヒェン、シーファーライのピノ・ノワールが印象的。ヤン・リンゲンが手にしているのはアールヴァイラーのピノ・ブラン。アール地方では近年、ブラン・ド・ノワールや白ワインに取り組む醸造所が多い。

ヴァイングート・クリーヒェル
Weingut Kriechel

1952年創業のクリーヒェル醸造所は、アール地方最大の家族経営の醸造所。所有畑は28ha。ピノ・ノワールのほか、ピノ・ノワール・プレコスにも力を入れ、2010年から独自のクローンを栽培。

ピノ・ノワール・プレコス「Jubilus」、ノイエンアールのゾンネンベルク、ヴァルポルツハイムのクロイターベルクのピノ・ノワールが印象に残った。スタッフのアントニア・ヴィットハールが手にしている「AHR MORE」はピノ・ノワール100%、3年熟成の「ポートワイン」。アール地方は、ポルトガルのドウロ地方と同じスレート岩土壌、赤ワインが主流であるなど共通点があり、ポートワインスタイルのワイン造りを手がける醸造家たちもいる。

ヴィンツァーゲノッセンシャフト・マイショス・アルテンアール
Winzergenossenschaft Mayschoss Altenahr

世界最古の協同組合、マイショス・アルテンアール協同組合醸造所の設立は1868年。会員農家は460以上、ブドウ畑の総面積は140haに及ぶ。2021年の洪水で醸造所が甚大な被害を受けたため、現在新築中だ。

アルテンアールはアール地方の最奥の地。気候もライン川寄りの地域と異なり、収穫は2、3週間遅い。ケラーマイスターのヤン・ハラーバッハが生み出す、マイショスのメンヒベルク、バリック仕込みのピノ・ノワールRが味わい深い。

ヴァイングート・リスケ
Weingut Riske

デルナウの伝統ある醸造所の5代目、ヤン・リスケはバーデン地方やニュージーランドで修業した。

2022年産ピノ・ノワール・シーファーフェルス(スレート岩の意)は、アール地方の特徴を活かし、新樽はあえて使わず、16カ月熟成。バーデン地方のピノ・ノワールとは異なる軽やかさが感じられる。プファーヴィンガルトや、60%の急傾斜畑のハルトベルクからも、低収量、丁寧な選別収穫により、エレガントなピノ・ノワールを生み出している。

■醸造家団体2/ツァイレンシュプルング(Zeilensprung)

2014年に結成された、ラインガウ地方の醸造家団体。「ツァイレンシュプルング(Zeilensprung)」は本来、詩作における「改行」のことだが、ツァイレンは畝、シュプルングは跳躍という意味をもつ。ラインガウ地方の伝統を土台とし、自らの価値観に忠実に、さらなる飛躍を目指す。結成年には、各自が収穫ブドウを持ち寄り、共同でゼクトをリリースした。現在のメンバーは8人。試飲会を催してくれた5人の造り手は以下の通り。

ヴァイングート・ヤスパー・フランツ
Weingut Jasper Franz

ロルヒのアルテンキルヒ醸造所のケラーマイスターを勤めていたヤスパー・フランツ・ブライステンは、2018年のオーナー引退とともに独立、ヤスパー・フランツ醸造所を立ち上げた。所有畑は3ha。

2023年産ロルヒハウゼン・ゼーリッヒマッハーは60%の急傾斜畑の、樹齢50年のブドウから造られた深みのあるリースリング。生産本数は808本。ソーヴィニヨン・ブランのほか、カベルネ・フランにも挑戦中だ。

ハンカ
Hanka

家族経営の醸造所の3代目、セバスチャン&ザラ・ハンカ夫妻は、リューデスハイム、ヨハニスベルクなどに約10haの畑を所有。

ザラが手にしているのは、2022年産の「Zurück in die Zukunft」(英語でBack to the future)。ゲヴュルツトラミネール、ムスカテラー、リースリング、ローター・リースリング、ホイニッシュ、ゲルバー・オルレアンの6品種のフィールドブレンド(ゲミシュター・ザッツ)で、列単位で混植されている。伝統にならい、全品種をまとめて収穫・圧搾している。バランスがよく、さまざまなシチュエーションで活躍するワインだ。

ヴァイングート・ゾーンズ
Weingut Sohns

醸造所の4代目、パスカル・ゾーンズはミュンヘン工科大学でスポーツ経済学を学んだが、その後実家に戻り、ガイゼンハイム大学で学んだ。ガイゼンハイムの特級畑クロイザーヴェーグなどから高品質のリースリングを生み出している。

クロイザーヴェーグのリースリングはRGG(ラインガウ・グローセス・ゲヴェックス)に格付けされている。2014年にはロルヒハウゼンの急傾斜畑ゼーリッヒマッハーを、22年にはアスマンスハウゼンのヘレンベルクを入手。リースリングとピノ・ノワールの可能性に挑んでいる。

ヴァイングート・ロベルト・ケーニヒ
Weingut Robert König

リースリングが主流のラインガウ地方のピノ・ノワール・スポット、アスマンスハウゼンで1704年に創業した醸造所。現在は13代目のフィリップ・ケーニヒがワイン造りに取り組む。所有畑は8ha。

森に近い高台の急傾斜の畑はピノ・ノワールが95%を占める。2022年産アスマンスハウゼン・ヘレンベルクのピノ・ノワールは樹齢55年。ラインガウ地方特有の軽やかでエレガンスあふれるピノ・ノワール。同地方では珍しいピノ・ノワール・プレコスも栽培している。

ビショフリッヒェス・ヴァイングート・リューデスハイム
Bischöfliches Weingut Rüdesheim

ラインガウ地方最古の醸造所のひとつ、ビショフリッヒェス・ヴァイングート・リューデスハイムの起源は11世紀に遡る。現在はリンブルク司教区所有。リューデスハイマー・ベルク、アスマンスハウゼン、ヨハニスベルクなどに9haの畑を所有。

栽培ブドウの80%がリースリング、20%がピノ・ノワール。醸造責任者ペーター・ペラボの生み出すワインは年々評価が高まっている。栽培責任者のマリエット・シュモランツが手にしているのは、気品ある味わいの2023年産ベルク・ロットラントのシュペートレーゼ。

■醸造家団体3/マインヴェルクの3乗(Mainwerk3)

ラインガウ地方東部、マイン川寄りの地域で2018年に結成された醸造家団体。3乗とあるのはメンバーの拠点がホッホハイム、ヴィッカー、コストハイムの3つの村に及ぶため。それぞれが職人意識をもち、情熱をもってワイン造りに取り組んでいる。アフターワーク・ワインイヴェントを定期的に行なうほか、団体のオンラインショップを準備中。11人のメンバーがそれぞれ、毎年1種類「Mainwerk3」ブランドのワインを生産する。うち4人を以下に紹介する。

ヴァイングート・シュライバー
Weingut Schreiber

1794年創業の家族経営の醸造所。現在は11代目のジモンがワインと伝統製法のゼクトに取り組む。自然との調和を重んじ、2018年にビオ認証を取得。エコヴィン会員。ホッホハイム唯一のゼクト生産者でもある。

ホッホハイムのヘレほか、5つの畑からそれぞれの個性を活かしたリースリングを生み出している。ライヒェスタールのリースリング(ブラックラベル)は樹齢50年。古樹ならではの凝縮感を楽しめる。

ヴァイングート・シェーファー
Weingut Schäfer

ヨーゼフ&ユッタ・シェーファー夫妻と2020年にガイゼンハイム大学を卒業した娘のアンヤが運営する家族経営の醸造所。7haの所有畑でおもにリースリングを栽培。多くは樹齢30~50年の古樹だ。

アンヤが手にしている22年産ホッホハイムのヴァイスブルグンダーはピュアでデリケートな味わい。10%をオーク樽で仕込んだ。ホッホハイムのヘレからはリースリングのRGGを、ライヒェスタールからはピノ・ノワールのRGGを醸造。「Mainwerk3」ブランドでリリースしているワインは、評価の高い23年産ホッホハイマー・ヘレのリースリング。

ローゼンクランツ・ヴァイン
Rosenkranz Wein

クレメンス・ローゼンクランツは、母が継いだ1961年創業の醸造所、レーベンホーフを拠点に、独自のワイン造りを開始。すでにローゼンクランツ・ブランドで、リースリング、シャルドネ、ピノ・ノワールをリリース。石灰岩土壌に粘土が混じるホッホハイムの土壌を考慮しての品種選びだ。

「Mainwerk3」ブランドのワインは2024年産のローター・リースリング。母が植えたブドウだという。クレメンスは現在、ドイツでもっとも注目されている若手醸造家のひとり。クニプサー醸造所、ベルンハルト・フーバー醸造所、ブルゴーニュのメオ・カミュゼなどで経験を積んだ。栽培、剪定から醸造まで、こだわりをもったワイン造りを行なう。22年産ピノ・ノワールは清らかな洗練された味わいだ。

ボトルド・クオリティ
BOTTled quality

1943年創業、ミヒャエル&ガブリエル・ボット夫妻が率いるボット醸造所では、次世代のダヴィッドとともに、ブランド名「bq(BOTTled quality)」でワインをリリース。ホッホハイムのライヒェスタール、コストハイムのザンクト・キリアンスベルクに計3haの畑を所有。

リースリング、グラウブルグンダー、ピノ・ノワール、メルロを栽培。品質を第一に、職人的手仕事を大切にしたワイン造りを行なう。2022年産のザンクト・キリアンスベルクのリースリングには秘めた活力が感じられる。

※トップ画像解説:2021年に甚大な洪水被害があったアール地方だが、ハイキング道には観光客が戻ってきている。