
岩本順子 Junko Iwamoto
ドイツ在住/ ライター・翻訳家
ライター・翻訳家。ドイツ、ハンブルク在住。1999年にドイツの醸造所で研修。2013年にWSETディプロマ取得。著書に『おいしいワインが出来た!』(講談社)、『ドイツワイン・偉大なる造り手たちの肖像』(新宿書房)、ドイツワイン・ケナー資格試験用教本内のテキスト『ドイツワイン・ナビゲーター』などがある。 http://www.junkoiwamoto.com

ドイツの南端でラントヴァインを叫ぶ! 第6回バーディッシャー・ラントヴァインマルクト~ドイツ・ハンブルク発 世界のワイン情報 vol.45
今年の4月25日、バーデン地方マルクグレーフラーラント地域のアイメルディンゲンで開催された「ラントヴァインマルクト(Badischer Landweinmarkt)」を初めて訪れた。「マルクト」とは「市」のこと。やや古風な名称のイベントは、フランスのヴァン・ド・ペイに相当する、ドイツのラントヴァインに限定した展示会である。バーデン地方の南西端に位置し、フランスとスイスに国境を接するマルクグレーフラーラント地域は、ドイツ唯一のグートエーデル(シャスラ)の産地であるほか、偉大なピノ・ノワール、シャルドネを産出していることでも知られている。
今年の会場はアイメルディンゲンのホテル兼レストラン「ツム・レーヴェン」。参加醸造所は過去最高の29社。スペースの関係上やむなく出展できなかった醸造所もあったという。午前中に関係者やプレスのための時間枠が設けられ、午後から一般客が押し寄せると、会場は大混雑となり、ラントヴァインへの関心の高さが窺えた。


ラントヴァインマルクトを立ち上げたのは、マルクグレーフラーラント地域、エフリンゲン・キルヒェンの醸造家、ハンスペーター・ツィアアイゼンだ。高品質のラントヴァインを生み出している、注目の生産者である。

いまから約20年前、彼の白ワインのいくつかが、原産地呼称保護ワイン(ドイツではg.U.)に必要な公的品質検査番号(AP番号)を取得できなかった。公的品質検査番号を取得するための官能検査は、自然発酵由来の風味があるもの、酵母の濁りがあるものを排除することが多い。ほかにも、ワインがその地域の典型的なスタイルで造られていなければ合格しない。現状では、ビオディナミワイン、ナチュラルワインのように、手間と時間をかけ、できる限り自然な方法で造られたワインが失格となっているのだ。
ツィアアイゼンはその後、自らのワインのスタイルに忠実に、すべてのワインをラントヴァイン、すなわち地理的表示保護ワイン(ドイツではg.g.A.)としてリリースすることを決意した。ドイツでは、原産地呼称保護ワインが95%以上を占めており、公的品質検査番号をもたないワインはほぼ見当たらない。原産地呼称の放棄は、悩み抜いた末での決断だった。


しかしその後、ツィアアイゼンと同様の経験から、スヴェン・エンデルレとフロリアン・モル、スヴェン・ニーガー、ディルク・ブレンアイゼン、カールハインツ・ルーザーなど、バーデン地方の優れた造り手たち、ナチュラルワインの先駆者たちが、ラントヴァインへと舵を切った。
今年初めて参加したという、シェルターワイナリーのジルケ・ヴォルフは「私たちはワインを濾過しないので、公的品質検査の度に、失格となるのではないかと不安で、眠れないこともあった。でも、ラントヴァインでリリースすると決めてからは、悩む必要がなくなった」と語る。



ラントヴァインマルクトに出展している造り手たちは、官能検査に合格することよりも、自らの表現の自由を求める、個性あふれる醸造家たちだ。バーデン地方には、いつしか、ツィアアイゼンと意を同じくする造り手たちが増えていた。2019年に行なわれた「第3回ラントヴァインマルクト」に、ジャンシス・ロビンソンMWが後援者として参加すると、イベントへの注目度が高まった。
ラントヴァインマルクトの開催日には、アイメルディンゲンの北30kmの所にあるミュルハイムで、ドイツ最古のワイン市「ミュルハイマー・ヴァインマルクト(Müllheimer Weinmarkt)」が開かれていた。1872年から開催されている伝統ある展示会で、地元の原産地呼称保護ワインの生産者が主体のイベントだ。ラントヴァインマルクトは、じつはこの由緒あるワイン市に対抗する形で始まったのだが、わずか8年の間にドイツの重要なワイン展示会のひとつとして広く知られるようになった。現在はまだ、バーデン地方の生産者限定のイベントだが、ラントヴァインはいま熱い話題のひとつであり、やがて全国的な展示会に発展するであろう可能性を秘めている。

Forgeurac(フォルジェラック)は
ウヴェ・ランゲとマルコ・フリーヒンガーが共同で運営する醸造所。
ビオディナミを実践。

Wasenhaus(ヴァーゼンハウス)は、それぞれブルゴーニュで研鑽を積んだ
クリストフ・ヴォルバーとアレクサンダー・ゲッツェの共同醸造所。
2016年に始動した。
「ラントヴァインマルクト」サイト:
https://landweinmarkt-baden.de/

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