
岩本順子 Junko Iwamoto
ドイツ在住/ ライター・翻訳家
ライター・翻訳家。ドイツ、ハンブルク在住。1999年にドイツの醸造所で研修。2013年にWSETディプロマ取得。著書に『おいしいワインが出来た!』(講談社)、『ドイツワイン・偉大なる造り手たちの肖像』(新宿書房)、ドイツワイン・ケナー資格試験用教本内のテキスト『ドイツワイン・ナビゲーター』などがある。 http://www.junkoiwamoto.com

ドイツの伝統製法ゼクトの最高峰が一堂に マインツにて第3回ゼクトベルゼ開催~ドイツ・ハンブルク発 世界のワイン情報 vol.46
前回のコラムで触れた「ラントヴァインマルクト」開催の翌日、4月26日に、伝統製法ゼクト協会(Verband Traditioneller Sektmacher、VTS)主催の試飲イベント「ゼクトベルゼ(Sektbörse)」がマインツ市で開催された。「ベルゼ(Börse)」とは取引市場を意味するドイツ語。会場のクアフュルストリッヒェス・シュロス(選帝侯宮殿)には、40醸造所が集結した。

第3回目となるゼクトベルゼの日程は、VDP(ドイツ・プレディカーツヴァイン生産者協会)の恒例イベント「VDP・ヴァインベルゼ(VDP Weinbörse)」の前日だ。今年、第51回目を迎えたVDP・ヴァインベルゼは、ドイツでもっとも影響力のあるワイン生産者団体VDPが、マインツ市で毎年開催している伝統ある新酒試飲会である。会員である202醸造所のほぼすべてが参加するため、世界中からバイヤーが訪れる。
伝統製法ゼクト生産者協会は、1988年に設立された若い団体だ。会員醸造所は、ゼクト専門、あるいはゼクトに力をいれている42社で、中にはVDP会員もいる。協会では、独自の厳格な基準を定めており、伝統製法ゼクト生産者協会指定のロゴを使用する場合は、伝統製法で醸造し、ドイツ産ブドウを100%使用しなければならない。格付けは2段階で、スタンダードなものは、二次発酵後の瓶内熟成期間が最低12カ月、レゼルヴにはより厳密な規定があり、瓶内熟成期間は最低36カ月と定められている。
伝統製法ゼクト協会会長のフォルカー・ラウムラントは「VDP・ヴァインベルゼのビジターのほとんどが、前日にマインツ入りする。マインツ到着日にゼクトベルゼで、有意義な時を過ごしてもらえたら嬉しい」と語る。VDPも2020年にゼクトの格付けを行ない、ゼクト専門の醸造所にも門戸を開いた。同年、ラウムラントはゼクト醸造所として初めてVDP会員に迎えられた。

フォルカー・ラウムラント。
ドイツの選り抜きのゼクト生産者が揃った会場で試飲しているうちに、1980年ごろから復活しはじめた伝統製法ゼクトの発展史を辿るかのような気持ちになった。
モーゼル地方ライヴェンのザンクト・ラウレンティウスでは、1982年に父親の醸造所を継いだクラウス・へレスが、シャンパーニュ地方と情報交換しながら伝統製法のゼクト造りに取り組み、偉大なゼクトを世に送り出してきた。現在は、娘のナディーヌとその夫、ヨハネス・ジンガーが優れたゼクトを生み出している。モーゼルのゼクトは繊細さとキレのよい酸味に魅力がある。2021年のリースリング・クレマン、エクストラ・ブリュットは、ほのかなショウガの風味が見つかる清涼感あふれるゼクト。21年のキュヴェ・クレマンはリースリング、ピノ・ノワール、シャルドネのブレンド。ドイツならではの逸品だ。

ザンクト・ラウレンティウス醸造所のヨハネス・ジンガー。
フォルカー・ラウムラントがラインヘッセン地方で起業したのは1984年。彼は一代でゼクトに特化した醸造所を築き、その道の大家となった。ラウムラントが2001年からリリースしている「トリウンヴィラート」はピノ・ノワール、シャルドネ、ムニエのブレンドで、ヴィンテージによりピノ・ブランが加わる。ラウムラントのゼクトは、年々精妙さを増し、よりピュアでエレガントになっている。15年のシャルドネ・リゼルヴァ、ブリュットは緻密で均整のとれた味わい。昨年リリースされたばかりの15年産「XV.トリウンヴィラート」は瓶内熟成が95カ月。研ぎ澄まされた味わいと奥行きの深さが心を打つ。
1754年にファルツ地方のかつての修道院の醸造所を継承したベルクドルト家では、1940年代からピノ・ノワール、ピノ・ブランなどピノ系品種を栽培していた。80年代に入ると、8代目のライナー&ギュンター・ベルクドルト兄弟が、伝統製法のゼクトに力を入れ始めた。2009年からは、9代目のカロリンが醸造を担当、ワインもゼクトもますます磨きがかかっている。19年産のブラン・ド・ブラン、ブリュット・ナチュールは清らかで溌剌とした味わい。17年のフルクサス、エクストラ・ブリュットはシャルドネとピノ・ノワールを8対2でブレンド。清らかで凛としたゼクトだ。

カロリン・ベルクドルト(左)。
同じくファルツ地方の醸造家、ミヒャエル・アンドレスとシュテフェン・ムグラーが共同で設立したアンドレス&ムグラーは、創業時の1989年から優れたゼクトを世に出し、注目されていた。2011年からビオディナミに移行、シモニ&シルヒの「優しい剪定」も実践している。シャルドネとオーセロワを6対4でブレンドした、21年産ブリュット・ナチュールは輝きあふれる味わい。20年産キュヴェ・エレナ、ブリュット・ナチュールは同じくシャルドネとオーセロワを8対2でブレンド。30年前に植樹したというオーセロワが、彼らのゼクトに類のない個性を加味している。

ミヒャエル・アンドレス(左)と娘のエレナ。
このほかにも、会場では印象深いゼクトにいくつも出会った。たとえば、ザクセン地方のシュロス・ヴァッカーバートが24年にリリースした、ブッサルト・ロイヤル・レゼルヴェ、ブリュットは複数ヴィンテージのピノ・グリ、ピノ・ブラン、ピノ・ノワールをソレラ方式でブレンド、深遠な味わいだ。

シュロス・ヴァッカーバートの醸造部長、ユルゲン・オーミュラー。
フランケン地方ヴュルツブルクで1994年に起業したカーステン・ホーファーが生み出す、2019年産のプレミアムキュヴェ「Cœur N°002」は、オーク樽仕込みのシャルドネとピノ・ノワールを8対2でブレンドした品格のあるゼクト。瓶内熟成は47カ月に及ぶ。

カーステン・ホーファー。

ラインヘッセン地方のブラウネヴェル醸造所のルーツは、1655年にブルゴーニュから移住してきたフランス人だという。2020年産トイフェルスプファット・ピノ・プレスティージ、ブリュット・ナチュールは、トノーで仕込んだピノ・ノワールから造られるエレガンスあふれるゼクト。

クリスチャン・ブラウネヴェル。
同じくラインヘッセン地方、インゲルハイムのレナ・ジンガー=フィッシャーは、18年産ミトス・リゼルヴァ、ブリュット・ナチュールでデビューした新進気鋭のゼクトの造り手。20年産ミトス・リゼルヴァ、ブリュット・ナチュールはシャルドネ、ピノ・ノワール、ムニエを55%、30%、15%でブレンド。バランスのよい、洗練された味わいのゼクトだ。

レナ・ジンガー=フィッシャー。

クラウス・ヘレスやフォルカー・ラウムラントなどの第一人者が、伝統製法ゼクトを手がけるようになって40年以上が経つ。ドイツの伝統製法ゼクトはいまや、シャンパーニュに劣らない品質を誇り、愛好家を増やしている。「ゼクトベルゼ」は、復活したドイツの伝統製法ゼクトの現在を知るために欠かせない「VDP・ヴァインベルゼ」の前日のイベントとして、知名度を上げつつある。
ちなみにゼクトベルゼと同じ日に、もうひとつの重要なイベントが開催された。ラインヘッセン地方の醸造家団体「マキシーメ・ヘアクンフト(Maxime Herkunft)」の試飲会だ。ゼクトベルゼとマキシーメ・ヘアクンフトは、昨年まで、共同で試飲会を実施していたが、1カ所では手狭となり別の会場で開催することになった。マキシーメ・ヘアクンフトには、ラインヘッセン地方のVDP会員も所属しており、VDPに倣ったテロワールを重視した高品質のワイン造りを目的とする。
さらにもうひとつイベント情報を。「VDP・ヴァインベルゼ」開催中の27、28日には、デメター(Demeter)&ビオディヴァン(Biodyvin)が共同で、第2回バイオダイナミック・ワイン・フェア・イン・マインツ(Biodynamic Wine Fair in Mainz)を開催した。
3日間に4つの大きなイベント。4月末のマインツは、多彩なドイツワインを集中的に試飲できる絶好の機会だ。
「ゼクトベルゼ」サイト:
www.traditionelle-flaschengaerer.de

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