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岩本順子 Junko Iwamoto

ドイツ在住/ ライター・翻訳家

ライター・翻訳家。ドイツ、ハンブルク在住。1999年にドイツの醸造所で研修。2013年にWSETディプロマ取得。現在ドイツの日本語新聞「ニュースダイジェスト」に「ドイツワイン・ナビゲーター」「ドイツ・ゼクト物語」を連載中。http://www.junkoiwamoto.com

2018.03.16
column

ドイツ・ハンブルク発 世界のワイン情報 vol.09「ドイツのソーヴィニヨン・ブラン? ショイレーベの密かな人気」

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ドイツ品種「ショイレーベ」がここ数年、ワイン愛好家の関心を集めている。近年注目されるのは、決まって伝統品種だが、ショイレーベは例外だ。1916年に交配され、50年代から栽培されるようになった新交配品種なのである。総栽培面積はわずか1407ヘクタール、ドイツのブドウ畑の1.5パーセントに満たない。ドイツ以外では、オーストリア(357ヘクタール)と米国でわずかながら栽培されている。

ぶどう育種先進国ドイツ

ドイツでは、帝国成立後の19世紀後半から、世界に先駆けてブドウのクローン選別が始まり、ふたつの世界大戦を経て、安定した収量と、糖度や酸度、色素が充分に得られるクローンが選別されてきた。クローン選別と並行して品種交配も行なわれ、同様の性質をもつ新品種が続々誕生した。

本物志向の時代である今日では、伝統品種が重視され、前世紀に登場した新交配品種は減少傾向にある。クローン選別の分野ではプレミアムワイン用の小粒のブドウが、品種交配の分野では減農薬、無農薬を可能とする新品種が求められている。

後世に名を残した育種家ゲオルク・ショイ

アルツァイ市にあるゲオルク・ショイの胸像

20世紀前半のドイツでは、すでに何人もの育種家が活躍し、新交配品種が次々に誕生していた。中でももっともよく知られた育種家がクレーフェルト出身のゲオルク・ショイ(1879−1949)である。「ショイレーベ」(別称ゼームリング88)は彼が交配した品種だ。

アルツァイ市博物館のゲオルク・ショイのコーナー

ショイは第一次世界大戦中 、食糧難に対処するための果実や野菜の保存食レシピなどを開発していたこともあるが、専門分野はブドウの病害対策と育種だった。1909年にラインヘッセン地方アルツァイ市に新設されたブドウ育種施設の初代所長に任命され、ブドウ育種研究所として発展させた。彼はクローン選別だけで理想的なブドウは得られないと考え、交配に力を入れた。彼が1916年から32年までに生み出し、公式登録された新交配品種には以下のものがある。(括弧内は交配年)。

ショイレーベ(1916)、フクセルレーベ(1927)、ジーガーレーベ(1929)、ファーバーレーベ(1929)、カンツラー(1927)、ゼプティマー(1927)、ペルレ・フォン・アルツァイ(1927)、レグナー(1929)、ヴュルツァー(1932)

いずれの交配品種も、50年代ごろから90年代ごろにかけて、地元ラインヘッセンで多く栽培されていた。ドイツワインに詳しい人には、いずれも懐かしい品種名のはずだ。前世紀後半のドイツでは、テロワール以上に糖度の高さがワインの品質を決めていたため、意欲的な作り手たちは、ショイレーベ、フクセルレーベ、ジーガーレーベなどから、アウスレーゼ以上の甘口デザートワインを盛んに生産していた。

ショイレーベの可能性

ショイの交配品種は現在、いずれも栽培面積が激減しており、ほぼ絶滅している品種もある。ショイレーベも減少傾向にあるが、絶滅は避けられるかもしれない。ショイレーベは、ゲオルク・ショイのほかの交配品種とは異なるリースリング系の品種で(リースリング×ブケットトラウベ)、でき上がるワインの風味が現代人の嗜好に合い、辛口に仕立てても、魅力的で質のよいワインができるからである。

ショイレーベの香りには、カシス、モモ、洋梨、グレープフルーツなどが感じられ、ドイツで現在、栽培面積が着々と増加しているソーヴィニヨン・ブラン(956ヘクタール)に似た仕上がりとなる。造り手の多くが「ドイツにはショイレーベがあるのだから、ソーヴィニヨン・ブランではなく、ショイレーベに力を入れたい」と語っている。ここでは3種類のショイレーベをご紹介しよう。

【左】ラインヘッセン、アルツァイのギースラー醸造所のショイレーベ「ゾンネンタウ(太陽の露)」は清らかな味わい。カテゴリーはグーツワイン(エステートワイン)。ラインヘッセンの造り手にとって、ショイレーベはアイデンティティとなる、いまなお魅力的な品種のひとつ。アレクサンダー・ギースラーは意欲的なビオディナミ生産者である。(デメター認証)。

【中】ラインヘッセン、ゼーホーフ醸造所、フロリアン・ファウトのショイレーベ「フォム・カルクシュタイン(石灰岩から)」。カテゴリーはオルツワイン(村名ワイン)。ヴェストホーフェン村の石灰質土壌の畑で育つショイレーベから造られている。フロリアンのショイレーベは優雅で繊細な味わい。現在、もっとも注目されている若手醸造家のひとりだ。

【右】ファルツでは約350ヘクタール、ショイレーベが栽培されている。ヴェーグミュラー醸造所のベテラン女性醸造家、シュテファニー・ヴェーグミュラーのショイレーベ(グーツワイン)は、くっきりとした清洌さが魅力。90年代からハイレベルのショイレーベを生産している。ラインヘッセン、ファルツ北部地方では、ソーヴィニヨン・ブランを新たに植えず、地元ならではのショイレーベに力を入れている醸造所がいくつも見つかる。

ちなみに、ドイツではショイ以外の育種家による新交配品種が、いまなお健在である。代表的なものが、白のミュラー=トゥルガウ(1万2623ヘクタール/ヘルマン・ミュラー交配)、ケルナー(2702ヘクタール/ヴァインスベルク研究所)、バッフス(1715ヘクタール/ガイルヴァイラーホーフ研究所)、赤のドルンフェルダー(7741ヘクタール/ヴァインスベルク研究所)の4品種だ。白品種はすべてリースリング系の交配品種。ただ、いずれの品種も、ショイの交配品種同様、減少傾向にある。

注/栽培面積はいずれも2016年のデータ。(ドイツ・ワインインスティトゥートの統計資料から)。
Cover Photo:Deutsches Weininstitut