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岩本順子 Junko Iwamoto

ドイツ在住/ ライター・翻訳家

ライター・翻訳家。ドイツ、ハンブルク在住。1999年にドイツの醸造所で研修。2013年にWSETディプロマ取得。現在ドイツの日本語新聞「ニュースダイジェスト」に「ドイツワイン・ナビゲーター」「ドイツ・ゼクト物語」を連載中。 http://www.junkoiwamoto.com

2017.08.31
column

ドイツ・ハンブルク発 世界のワイン情報 vol.01 「存在感を獲得しはじめたスイスワイン」

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ドイツはワイン輸入大国。輸入量はいまや英国を凌ぎ、世界第1位の座に躍り出ている。総生産量は約830万ヘクトリットルで世界第10位だが、その倍に相当する約1500万ヘクトリットルのワインを各国から輸入している。ドイツはいま、世界中のワイン生産者にとってもっとも魅力的な市場だ。

そのためドイツの大都市では世界各地のワインのプロモーション・イべントが盛ん。もっとも多いのはイタリア、フランス、スペイン、ポルトガルの4カ国。近年定期的に行なわれるようになったのがスイスワインのプロモーションだ。

今年初め、ハンブルクで開催された業者向けセミナーのテーマは「ヴァレー地方の知られざる固有品種ワイン」。2008年に設立されたスイスワイン・プロモーション(SWP)の主催。同機関のジャン=マルク・アメ=ドロ氏とスイスワインに造詣の深いソムリエ、イヴォンヌ・ハイスターマン氏が講師を担当した。

中央:スイスワインプロモーション・ドイツ支部のクリスチーナ・ヒルカーさん、右:スイスワインプロモーション・ヴァレー州支部のジャン=マルク・アメ=ドロ氏。©Johannes Fucke



主要産地はローヌ川源流地域、ヴァレー

スイスワインのルーツもドイツ同様ローマ帝国時代に遡る。生産地域は6地域。もっとも栽培面積が広いのがフランス語圏のヴァレー地方で4900ヘクタールを擁し、スイスの総栽培面積の3分の1を占める。ヴァレー地方と言えば、フォンダン(Fendant/他地域ではシャスラ)とドール(Dôle/ピノ・ノワールとガメイのブレンドワイン)で有名だが、50品種以上の栽培が認可され、スイス固有の品種も多い。

スイスワインの生産地。ローヌ川沿いのヴァレー地方(Wallis)はスイス最大の生産地域。©Swiss Wine

ヴァレー地方のブドウ畑は、ローヌ川の源流からレマン湖に至る峡谷の急斜面に開墾されている。その多くは標高400~800メートルにあり、中には1000メートルを越える畑もある。土壌は、太古の地殻運動と、1万5000年前のローヌ氷河の浸食・堆積作用で形作られたもの。レマン湖に近いところでは花崗岩、上流は石灰岩が多いが、モレーン(氷河の堆積土壌)や崖錐(がいすい)堆積土壌、スレート岩などが見られる。ヴォー州レマン湖畔の世界遺産のブドウ畑と同様に石垣を積んだ畑もある。気候もよく、アルプスの局地風「フェーン」のおかげで晴れの日が多い。

アルプスのワインはこのような畑から生まれる。ヴァレー地方シャモソンのブドウ畑。©Swiss Wine



ヴァレー地方は固有品種の宝庫

ヴァレー地方の固有品種と言われるのが、プチ・アルヴィン(Petite Arvine)、アミニエ(Amigne)、ウマニエ・ブラン(Humagne Blanc)、レジ(Resi)、ラフネッチャ(Lafnetscha)の5品種。いずれも白ブドウ品種だ。栽培量は極めて少なく、それぞれ全体の2~4パーセント程度だ。

固有品種ではないが、古くから栽培されている伝統品種に、白のフォンダン、グロ・ラン(Gros Rhin)、ハイダ(Heida)、マルヴォジー(Malvoisie)、エルミタージュ(Ermitage/マルサンヌと同一)、赤のピノ・ノワール、ガメイ、ウマニエ・ルージュ(Humagne Rouge)、コルナラン(Cornalin)がある。グロ・リンはドイツのジルヴァーナー、ハイダはジュラ地方のサヴァニャン、エルミタージュはローヌ北部のマルサンヌとそれぞれ同一の品種だ。

近年、ワイン産出国では生産地のアイデンティティである固有品種が注目されているが、スイスも例外ではない。中でもアプリコットの風味をもち、酸が柔らかで味わい深いプチ・アルヴィンは注目株で、一時、絶滅の危機に瀕していたものの、栽培面積が約200ヘクタールに増えている。アミニエは控えめな風味ながら、ストラクチャーと濃さのあるワインでバリック仕込みにも向く。ウマニエ・ブランはコロンバードの仲間で、柑橘系風味の繊細で優雅なワインに仕上る。レジは青リンゴを思わせる酸味がみずみずしいワインとなる。

現在ヴァレー地方には約550の生産者がおり、ブドウ栽培農家は2万2000世帯におよぶ。認定生産地となっており、条件を満たしたワインはAOC Wallisと表記される。

スイスワインに造詣の深いソムリエ、イヴォンヌ・ハイスターマンさんは、ドイツ圏のスイスワイン・セミナーを全面的に担当。©Johannes Fucke

セミナーは、フォンダンとドールを敢えて除外した構成。試飲ワインの中では、爽快なプチ・アルヴィン、ハーバルでナッティーなレジ、厚みがある味わいのアミニエが印象的。赤のコルナランは骨格があり、しかも南国のワインのような力強さがあった。

輸出は僅かでも、存在感は大きく

スイスワインはいまだ総生産量の1~2パーセントしか輸出されていない。輸出量が伸びないのは、過去3年の気象条件が悪く、生産量が落ちていることに起因する。しかし、ジャン=マルク・アメ=ドロ氏は「ここ数年、積極的なプロモーションの効果もあって、スイスワインは存在感を獲得しはじめている」と言う。目下、ドイツ、英国、フランス、米国、カナダ、日本、香港がスイスワインに大きな関心を寄せているという。

【セミナーで供されたワイン】

白ワイン
2012 Couer de Domaine (Petite Arvine, Savagnin Blanc, Marsanne) Domaine Rouvinez/Sierre
2014 Château Lichten Blanc (Petite Arvine) Domaine Rouvinez/Sierre
2014 Humagne Blanche (Humagne Blanche) Les Fils de Charles Favre/Sion
2015 Ambassadeur Fumé Gros Rhin de Chamson (Gros Rhin) Adrian & Diego Nouveau Salquenen/Salgesch
2015 Heida Visperterminen (Heida) Leo & Romaine Mengis/Visp
2014 Resi (Resi) Canton Weine St.Jodern Kellereri/Visperterminen
2012 Amigne de Vetroz Grand Cru (Amigne) Jean-René Germanier/Vétroz
2013 Amigne de Vétroz „Mitis“ (Amigne) Jean-René Germanier/Vétroz(デザートワイン)

赤ワイン
2013 Humagne Rouge Grandmaître-Barrique (Humagne Rouge) Gregor Kuonen/Salgesch
2012 Humagne Rouge Réserve (Humagne Rouge) Jean-René Germanier/Vétroz
2014 Cornalin (Cornalin) Maurice Gay/Chamoson

(ワインリスト記載順序: ヴィンテージ – ワイン名(カッコ内品種名)- 醸造所名 – 醸造所所在地)