• Top
  • Column
  • ドイツ・ハンブルク発 世界のワイン情報 vol.02 「中国…

岩本順子 Junko Iwamoto

ドイツ在住/ ライター・翻訳家

ライター・翻訳家。ドイツ、ハンブルク在住。1999年にドイツの醸造所で研修。2013年にWSETディプロマ取得。現在ドイツの日本語新聞「ニュースダイジェスト」に「ドイツワイン・ナビゲーター」「ドイツ・ゼクト物語」を連載中。 http://www.junkoiwamoto.com

2017.09.12
column

ドイツ・ハンブルク発 世界のワイン情報 vol.02 「中国ワインの時代がやって来た!」

  • facebook
  • twitter
  • line

今年初め、中国のワイナリー、シャトー・チャンユー・モーザーXVのプレゼンテーションに顔を出した。

中国ワインに詳しいワインコンサルタント、フランク・ケマー氏による現状報告に続き、シャトー・チャンユー・モーザーXVのチーフワインメーカー、レンツ・M・モーザー氏(Lenz M. Moser)の解説で試飲会が行なわれた。

(ワインコンサルタントのフランク・ケマー氏。手にしているのはシャトー・チャンユー・ゴールデン・アイスワイン。品種はヴィダル)


黄河流域は中国のワインヴァレー

20年前にはワインの統計に一切登場しなかった中国だが、現在のワイン生産量は年間1100万hℓ、世界第9位に躍り出ている。ブドウ畑の広さは83万ha、スペインに次いで世界第2位だ。中国人はボルドースタイルの赤ワインを好むため、赤の栽培比率は90%を越える。主要品種はカベルネ・ソーヴィニヨンだ。

中国では、約3000年前頃からブドウが栽培されていたと言われる。前漢時代(紀元前206年~紀元後9年)、張騫(ちょうけん)が中央アジアからヴィニフェラ種をもたらしたのではないかという説もある。ワイン文化はまず、今日の新疆ウイグル自治区に根づき、黄河流域に沿って徐々に広まったそうだ。今日、中国のおもなワイン産地は、北部の新疆ウイグル自治区、甘粛省、寧夏回族自治区、陝西省、山西省、河北省、山東省、遼寧省を繋ぐライン上にある。この一帯を中国のナパヴァレーと呼ぶ人もいる。

チャンユー・ワイン(張裕葡萄酒)の興り

1892年、外交官の張弼士(ちょうぴし)が山東省煙台(えんたい)市に中国初の大規模なワイン醸造所「張裕葡萄醸酒公司」(Changyu Pioneer Wine Co. Inc.,)を創業。欧州と米国から120種類以上、50万本の苗木を輸入、オーストリア人の醸造家、アウグスト=ヴィルヘルム・バロン・フォン・バボのサポートを得て、栽培と醸造に着手した。

醸造所の本格的な発展は、毛沢東時代が終わり、1978年に鄧小平による改革開放がはじまってからのこと。最近では、02年にフランスのカステル・グループと提携し、煙台市に シャトー・チャンユー・カステルを創業したほか、06年にカナダのオーロラ社と共同で、遼寧省にシャトー・チャンユー・ゴールデン・アイスワイン・ヴァレーを設立し、世界のアイスワイン総生産量の50%を1社で生産している。ほかにも、イタリアや米国の企業と提携し、中国国内で8つのシャトーを経営、中国最大のワイナリーグループに成長している。

シャトー・チャンユー・モーザーXVの誕生

チャンユー・ワインが13年にオーストリア人の醸造家レンツ・M・モーザー氏と共同で寧夏回族自治区、銀川市に設立したのが、 シャトー・チャンユー・モーザーXV(Château Changyu Moser XV/ 張裕摩塞爾十五世酒庄)。モーザー氏はオーストリアの老舗醸造所の15代目。ロバート・モンダヴィ醸造所、エラスリス醸造所での醸造経験をもち、05年以降、チャンユー・ワインの醸造コンサルタントを務めた実績がある。

(シャトー・チャンユー・モーザーXVのチーフワインメーカー、レンツ・M・モーザー氏)


同醸造所の最重要品種はカベルネ・ソーヴィニヨン。このほか、メルロ、リースリング・イタリコを栽培している。

モーザー氏は寧夏回族自治区のテロワールはワイン造りに最適だと言う。海抜1100mのヘラン山地では、日照時間3000時間、昼夜の温度差が大きく、高品質のブドウを栽培するのに理想的な環境。新しいワイン産地だが、将来性のある地域として注目されている。

中国のカベルネ・ソーヴィニヨンを味わったのは初めてだった。「Moser XV 2015」はステンレスタンクを使用。熟したプラムを思わせる、果実味豊かで甘い風味。ストレートな味わいでタンニンは柔らかだ。「Moser Family 2013」は、オークの古樽のみ使用。フレッシュなベリーの風味が爽やか。「Château Changyu Moser XV 2013」はオークの小樽で18カ月熟成。カリフォルニアやオーストラリアのワインを思わせる充実した果実味。骨格があり、フルーティかつスパイシー、チョコレート香もたっぷりだ。

(Château Changyu Moser XV Cabernet Sauvignon Blanc de Noir Ningxia 2016)

モーザー氏は、3月中旬にデュッセルドルフで開催された、世界最大のワイン見本市ProWeinで、中国初のカベルネ・ソーヴィニヨン100%のブラン・ド・ノワールを発表し、赤ワイン一辺倒の中国ワイン界に新境地を開いたばかり。2016年ヴィンテージは欧州でのみ展開している。

【試飲ワイン】

Château Changyu Moser XV Cabernet Sauvignon 2013
Moser Family Cabernet Sauvignon 2013
Moser XV Cabernet Sauvignon 2015