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山田マミ

日本在住/ワインフィッター®/La coccinelle 代表

フランス留学をきっかけに、ワインとの出会い。フレンチレストラン店長、ワインインポーター、webワインショップのライターを経て独立、2013年よりワイン販売業を開始。これまでになかったワインの職業名【ワインフィッター®】を商標登録。企業向けワインイベントのプロデュースや、店舗をも持たず在庫を持たず、お一人おひとりのニーズに合わせた全く新しいシステムのワイン小売販売を行っている。自身の経験を生かし、ワインフィッター®という新しい働き方の普及にも力を注ぐ。 https://www.lacoccinelle-vin.com/

2019.08.13
column

【連載 第2回】CAVE D’OCCI 掛川 史人 × JULIA 本橋 健一郎 ゼロから挑むシードル造り 〜スライダーに捧ぐ味を求めて〜 市販のリンゴで試作してみよう!

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「リンゴ、買いましたよ。近くのスーパーで。(笑)」

掛川の車のトランクには16個のふじ、5個の王林。6月某日、プロジェクトメンバーは新潟のカーブドッチワイナリーへ集結。誰にとっても初めてのシードル造り、まずは市販のリンゴで試作品を造ることにした。

予想ではマグナムボトル(1500mℓ)2本分ほどの分量になるリンゴと、掛川はほかに、国産シードル2本とリンゴジュース1本を購入し、実際の作業に入る前に『今日できること、確認したいこと』を本橋と事前ミーティングをした。

本橋「甘辛いバーベキューソースを煮からめたポークパテのスライダーに合わせるなら、ワインにたとえるとソーヴィニヨン・ブラン的な爽快感より、欲しいのはシャルドネの肉厚感」。

掛川「具体的な味わいの方向性は本橋さんに任せて、僕は醸造家だからまずは醸造技術でどれだけ多くの要素を積み重ねられるかに注力したい。結果、肉厚感や複雑味になると思うので、リンゴの素性そのものをボトルに詰めるというより、ちゃんと“調理”が必要だと思う」。

前回開催した国内外のシードル試飲会14種類のなかには、味わいのバラエティーに富んだ個性豊かなシードルが揃っていた。それらのなかから「酸味系」「苦み系」「甘み系」など要素別のシードルをピックアップし、数ccずつ混ぜ合わせる“掛川ブレンド” をグラス内で作り理想の味わいのイメージを全員で共有した。本番の醸造過程では、それら個別の要素をいかにして造り出すかが掛川の言う調理だ。

普段触り慣れているブドウ果汁ではなく、リンゴ果汁で果たして同じ微生物管理ができるのか、欲しい要素が引き出せるのか。その確認をするための試作品造りとなる。

ただ、今回掛川はシードル造りに対して事前の情報収集や予習はほぼせずに臨みたいという。「正しいこと」を知れば「違うこと」に迷う。知ってしまうことは縛られること。「知らない方がおもしろいよね」。自由を手に入れる代わりに、同じだけの責任が伴うことを覚悟した上で発した掛川のその言葉に、本橋も同意した。

軸を増やして
より3D、4Dの味わいへ

海外産シードルの多くは、生食用ではない複数種のリンゴが使用され、甘み担当、渋み担当、酸味担当の品種を組み合わせながら、その配合比率によって理想とする味わいを目指すことができる。対して日本の生食用リンゴは、多少の甘み、酸味の差はあれすべて「生食用」が前提である以上、その振れ幅は海外のものに比べて当然小さい。ゆえに複数種のブレンドだとしても、単一品種使用ならなおさら、できたシードルの味わいは抑揚の少ないものになりがちなことは否めない。

ならばその抑揚を、掛川はそれぞれの味わいの担当ロットを別仕込みし、最終的なブレンドで表現するという調理の道筋を立てた。これまでさまざまなタイプのワインを造ってきた、その醸造経験をもつ掛川ならではの発想だ。

口に含んだときの味わいの広がりを想像してもらいたい。縦横、前後の奥行き、そして時間軸。それらの軸を増やすことで、平面がより立体的に、さらに立体に時間の経過が伴う四次元の広がりを目指す。何本かの軸を生み出すのは掛川の腕、その軸の角度を決め組み立てるのは本橋の舌、ということになる。

ふたりが欲しい軸とは?

事前ミーティーング用に掛川が購入した国産シードルはスタンダードな味わいのものと、やや酢酸に寄っているもの、そして濁りのあるリンゴジュース。さらにフジと王林の皮。それぞれを再びの“掛川ブレンド”によって、「欲しい軸」の再確認と、それを得るプロセスの仮説を立てた。

本橋「まずいちばん欲しい中心の軸は、しっかりした酸味」。
掛川「単純に補酸という方法もあるけど、やっぱり僕は酢酸系にもっていきたいかな。酢酸菌を発生させるか、乳酸菌に糖を代謝させて酢酸を作るか」。

本橋「リンゴジュース、うっめ!(笑)。辛口のシードルは、この甘さで保っていたミドルの膨らみがどうしても削がれるよね」。
掛川「そしたらスイートリザーブみたいに最後にリンゴ果汁を加えるとか。化学変化していない果汁のおいしさをそのまま活かす。あと気圧の違いで果実味の感じ方も変わるから、そこもいろいろ試そうかな」。

本橋「あとやっぱり渋み? つまりは複雑味」。
掛川「アルコール(シードル)に生の皮を浸すとわりとニュアンスが出ますね。青リンゴの皮っていい香り! マセラシオンとは違う風味が出るかも。ほかの果実の皮や発酵後のブドウの皮っていう選択肢もあるかもしれませんね」。

軸のキーワードは「酸」「果汁」「皮」、このあたりになりそうだ。



試作作業、スタート

醸造所へ移動し、いよいよ実際の試作作業へ。用意したものは、包丁、まな板、家庭用ミキサーと手絞り用のさらし、そしてリンゴ21個。

醸造所内のBGMは、東京スカパラダイスオーケストラ。
さぁテンション上げて、みんなで洗う、切る、回す、絞る、作業スタート!

本橋「掛川君……、リンゴ半分じゃなくてもうちょっと小さく切らないとミキサー回らないよ……」。
掛川「なになに? ミキサーってそんなに弱いの? 使ったことないから分からない!」。
nao「醸造長は普段もっと大きな機械しか触ってないからね(笑)」。

nao「わ! ミキサー止まった! 壊れた?!」。
本橋「おーいnao……、コンセントが抜けてる……」。
掛川「おもしろすぎる(笑)」。

笑い声とミキサーの音が響く醸造所は、まるで中学校の理科実験室だ。

21個(約6キロ)のリンゴは破砕により約5リットルになった。それを小分けにさらしで漉して手で絞る。

本橋「結構絞れるね! 手絞りでこれだから機械だともっと果汁とれるかな?」。
掛川「本番はバスケットプレスか、メンブレンプレスか、どうやって絞ろうかなぁ……?」。
nao「おいしい! 皮や種も感じるし青リンゴ感もある。収穫仕立てのリンゴならきっともっと果実感あるよね」。

最終的に絞れた果汁は3.7リットル、搾汁率は約60パーセントとなった。マグナムボトル2本と1リットルシリンダーに分け、果汁清澄の経過を観察する。清澄速度によって、微生物管理のプロセスがまったく変わると掛川は言う。また、絞る前の液体を小さめのビーカーに少量取り分けラップで蓋をし、この表面積と酸素量の状態から酢酸菌が発生するかどうかの実験も行なうことにした。

ひとまずここまでで、全員参加の試作作業は終了となった。



後日、掛川レポートより

【仕込みより3日後】
予想よりも早く果汁清澄が進んだため、仕込み日より3日後には澱引き作業を行ない、3リットルの果汁と700mℓの澱に分けられた。糖度は12度。3リットルの果汁のうち350mℓほどを別に取り分け、酵母添加の前に乳酸菌を投入して酢酸の製成を試すことにした。残りの果汁は通常ロットとして仕込むため、酵母を添加。

【仕込みより5日後】
乳酸菌ロットに酵母を添加。
掛川「見た目は同じだが、通常ロットとは明らかに違う『何か』が舌の上にのっている」。

【発酵開始から3日後】
掛川「糖の減りは思ったよりかなり早い感じ。このままだとあと10日ほどで終わるかな。通常ロットは糖分がなくなったので、やはり味の中心の存在感がなくなる。乳酸菌ロットはややふくよかさがあるが、酢酸が浮いている感じ」。

【発酵開始から14日後】
温度18度と少し高めのせいか発酵が終了。瓶詰めは6種のロットに分けた。
1. 乳酸菌で前発酵したロット
2. レモンの皮を一晩漬けたロット
3. 王林の皮を一晩漬けたロット
4. 通常ロット(2気圧)
5. 通常ロット(1.3気圧)
6. 通常ロット(0.6気圧)

試作品の試飲は約2カ月後。さて、有効な「軸」は何本になるだろうか?

掛川「このスピード感なら、もう一回くらい違うロットの試作ができそうだな」。

END



次回は……『長野・リンゴ農家を訪問しよう!』
9月5日発売『Winart』96号本誌誌面にて。お楽しみに!

Text & Photo:Mami Yamada