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山田マミ

日本在住/ワインフィッター®/La coccinelle 代表

フランス留学をきっかけに、ワインとの出会い。フレンチレストラン店長、ワインインポーター、webワインショップのライターを経て独立、2013年よりワイン販売業を開始。これまでになかったワインの職業名【ワインフィッター®】を商標登録。企業向けワインイベントのプロデュースや、店舗をも持たず在庫を持たず、お一人おひとりのニーズに合わせた全く新しいシステムのワイン小売販売を行っている。自身の経験を生かし、ワインフィッター®という新しい働き方の普及にも力を注ぐ。 https://www.lacoccinelle-vin.com/

2019.10.11
column

【連載 第4回】CAVE D’OCCI 掛川 史人 × JULIA 本橋 健一郎 ゼロから挑むシードル造り 〜スライダーに捧ぐ味を求めて〜 試作したシードルを試飲する

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市販のリンゴを買い、家庭用ミキサーによる手回し、手絞りで試作品を造ったのは6月15日。それから約1カ月後の7月22日、本橋の経営する東京・神宮前にある「JULIA」で第1回試作試飲ミーティングが行なわれた。

「まず、いくつかの味わいの軸をパーツとして造ろう」。
試作を造る前にふたりはそう話し合った。

おさらいをすると、6月に「パーツ」として仕込んだロットは6種類。
1、レモンの皮を一晩漬けたロット
2、乳酸菌で前発酵したロット
3、王林の皮を一晩漬けたロット
4、通常ロット(2気圧)
5、通常ロット(1.3気圧)
6、通常ロット(0.6気圧)

第1回目のこの日は、1番のレモンの皮のロットと2番の乳酸菌のロットの2本を試飲した。ちなみに第1回ということは、後述するが8月に第2回目が行なわれた。しかし7月のこのタイミングでふたりが1番、2番を飲んでおきたかったのには理由があった。それはこの日、長野のリンゴ農家訪問の前日だったからだ(農家訪問の様子は『Winart 96号』誌面にて掲載)。

農家訪問の前の予習

ふたりの考えるおもな軸となるパーツは「酸味」「甘み」「渋み」。それに加えて必要な要素としては「香り」「中心の膨らみ」「余韻」など。それらの大小パーツを組み合わせて完成品を目指すわけだが、醸造家である掛川は原料リンゴの品質を醸造技術でどこまで引き出すことができるか、足りない部分をなにで補うか、そしてそれは本橋の舌が納得する味わいなのか、ということを実際に農家でリンゴに触れる前に確認しておきたかった。それによって、今後仕入れ段階となった場合のリンゴの種類やその割合などもイメージがつきやすくなる。

まずはレモンの皮のロットから。ハーフボトル(375mℓ)の液体量に対して親指の爪くらいのサイズの皮を24時間漬けて取り出したもの。

掛川 おっ! 思ったより皮の存在感ありますね。
本橋 うん、苦みあるね。でも食前酒としてはこのスッキリ感はいいけど、スライダーに合わせるならもう少しジューシーな方がいいかな。

続いて、酵母添加の前に乳酸菌を投入して酢酸の製成を試みたロット。

掛川 じわっとした酸味が、中心の膨らみを少し補う役割は果たしているかな。
本橋 そうだね! でもやっぱりスライダーにはもうちょっとリンゴ感が欲しい。
掛川 この時期の市販のリンゴより、収穫直後に農家から届いたリンゴの方が、もちろんもっとリンゴ感のある酸味は出そうですよね。

そして翌日、長野のリンゴ農家を訪問。
リンゴ畑を歩いてまずふたりが目を奪われたのは、摘果のために地面に落とされた、赤ん坊のこぶしサイズほどの小さな青いリンゴだった。おもわず拾い上げてふたりはそれを口に運んだ。

本橋 酸っぱい‼︎ あれ? でもおいしくない? 意外と甘みもあるし。
掛川 あの……これ、いくつかもらって帰っていいですか?

さらに掛川はその摘果リンゴに加えて、貯蔵庫に残っていた昨年収穫のシナノゴールドも数個、農家の許可を得て新潟へ持ち帰り、早速「摘果ロット」「シナノゴールドロット」の試作を造った。

第2回 試作試飲ミーティング

第2回目の会場は、カーブドッチワイナリーが経営する東京・日比谷ミッドタウン内にあるレストラン「Varmen」。農家訪問から約1カ月後の8月20日だった。6月15日に試作したロットの残り、「王林の皮を漬けたロット」「通常ロット(0.6気圧)」「通常ロット(2気圧)」の3種類と、掛川が長野の農家から持ち帰った「摘果リンゴ」と「シナノゴールド」のロットを加えて、全5種類の試飲となった。さらに、肝心の「スライダーに捧ぐ味」の精度を高めるため、テーブルにはJULIA のシェフnaoが用意したスライダーも数個並べられた。

掛川 さぁ、どれから開けますか!?

全員やはり、ふたりが農家訪問でなにかしらのヒントを感じた「摘果ロット」におのずと手が伸びる。そして「シナノゴールド」「王林の皮を漬けたロット」と続けて開栓。

本橋 摘果、酸っぱい! いいね〜この酸味。リンゴ感を失わずに感じるこのタイプの酸味はスライダーに合うよ!
掛川 1.4kg持ち帰って870mℓ絞れました。つまり搾汁率は62%くらいで予想より多め。摘果と言っても糖度も7度くらいあってまったく問題なく発酵が進みました。
nao 酸味ってすごく大事だよね。料理でも酸味がないと味が整列しないの。

本橋 シナノゴールドは肉厚感と甘みがあるね。この厚みと摘果の酸味をうまくブレンドしたらイイ感じになるんじゃない?
掛川 王林の皮漬けはあまり個性が出ていないですね。前回のレモンの皮の方が、渋みの存在感がありましたね。

続いて、「通常ロット(0.6気圧)」と「通常ロット(2気圧)」の気圧違いの飲み比べ。通常ロットというのは、市販のフジと王林で造ったベースとなる液体。そこに2次発酵を促すために添加する糖分の量を変えて、気圧の違いを出した。

本橋 2気圧より0.6気圧の方が、じんわりした余韻が舌に残るね。スティル(泡立ちのない状態)にも近いけど、それが逆にうまい!
掛川 ガスによって味わいの真ん中が軽く感じることがあるので、泡立ちが弱い方が余韻は感じるかもしれませんね。

本橋 スライダーにはサワークリームが入っているから、この微発泡加減くらいがちょうどいいかも。もしくは、思い切ってスティルシードルっていう選択肢もありかな?!
全員 スティル?!
掛川 ……それ、斬新かも(笑)。

シードルの本場イギリスでは、発泡性ではないスティルシードルは珍しくない。彼らがゼロから挑むシードル造りにはルールも正解もない。新しい挑戦によって新しい発見があり、新しい発想が生まれこの世に存在しなかったまったく新しいものがカタチとなる。彼らにとってこのプロセスを「今」全力で楽しむことがプロジェクトのひとつの目的でもあり、カタチになったものから読者や飲み手がその空気感を感じ取ってもらえたなら、それはひとつの正解とも言えるだろう。

最後に、スライダーだけではない料理とシードルの相性を知るべく、Varmenおすすめの魚介料理とそれぞれの試作ロットを合わせた。用意されたのは「まぐろのうなじ」「イカ墨のフィデウア」そして看板メニューである「Varmenのブイヤベース」。

nao まぐろのうなじは味付けにビネガー類が使われているそうなので、摘果の酸味とも合いますね。そしてシナノゴールドくらいの味わいの厚みは、イカ墨のフィデウアとも合う。
本橋 やっぱり酸味があると魚介類にも合わせやすい。ブイヤベースのムール貝や白身魚とも合うし、アイオリソースを付けるとさらに合う。やっぱり摘果の酸味はいいね‼︎

掛川 摘果ね……。摘果の時期は6月〜7月くらいと農家さんは言っていましたよね。8月のいまからだと集められそうにないですよね……。
本橋 どこかの農家さんにないかなー?!

今回の試作試飲で味わいの方向性はうっすらと見えた。しかし、これから彼らの頭をさらに悩ませる問題は、それを実現するための原料リンゴの調達のようだ。

次回は……『シードルは好きですか? 消費者の本音を聞こう座談会@JULIA』

取材協力:
Varmen CAVE D’OCCI/Ata
東京都千代田区有楽町1-1-2 東京ミッドタウン日比谷2F
Tel:03-6205-7723
Open:11:00〜23:00(定休日なし)
https://varmen.jp/


Text:Mami Yamada