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山田マミ

日本在住/ワインフィッター®/La coccinelle 代表

フランス留学をきっかけに、ワインとの出会い。フレンチレストラン店長、ワインインポーター、webワインショップのライターを経て独立、2013年よりワイン販売業を開始。これまでになかったワインの職業名【ワインフィッター®】を商標登録。企業向けワインイベントのプロデュースや、店舗をも持たず在庫を持たず、お一人おひとりのニーズに合わせた全く新しいシステムのワイン小売販売を行っている。自身の経験を生かし、ワインフィッター®という新しい働き方の普及にも力を注ぐ。 https://www.lacoccinelle-vin.com/

2019.11.11
column

【連載 第5回】CAVE D’OCCI 掛川 史人 × JULIA 本橋 健一郎 ゼロから挑むシードル造り 〜スライダーに捧ぐ味を求めて〜 「シードルは好きですか?」消費者の本音を聞こう座談会

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本橋健一郎は悩んでいた。

このプロジェクトがスタートして以来、掛川史人とともに国内外のシードルを飲み比べ、試作を造り、その試作をテイスティングしておぼろげながらふたりの目指す味わいのイメージが固まりつつある現状。しかしそれは、あくまでもふたりのプロフェッショナルな感性が導き出した結果。肝心の飲み手である一般消費者がそれによって小難しさや堅苦しさを感じるようなシードルになってはならない。

「そもそもみんな、シードルって好きなのかな?」。

日々のレストラン営業の最中、ワインをサービスしながら、料理を提供しながら、そしてお客様の弾む会話や楽しそうな横顔を眺めながら、本橋はここ最近ずっとその本質的な疑問を抱えていた。

「そうだ、それなら直接お客様に聞いてみよう!」。

本番のシードルの仕込みまであと1カ月と迫った9月下旬、JULIAの常連客数人に声をかけ、国内外のシードル試飲会をお客様とともに開催することにした。JULIAの常連客であれば、このプロジェクトのもうひとつの主役である「スライダー」の味もよく知っている。むしろJULIAファンは看板メニューであるスライダーファンと言っても過言ではない。「一体どんな味わいのシードルが、スライダーに合うのか?」。プロフェッショナル目線ではない意見を聞くには絶好の機会である。

参加者は30代男性1名、30代女性3名、40代女性7名の合計10名。

用意した国内外のシードルは12種類。うち国産は7種(以下A〜Gとする)、フランス・ブルターニュ産1種(以下H)、スペイン・バスク産1種(以下I)、オーストラリア産1種(以下J)、アメリカ産のロゼワインフレーバー1種(以下K)、同じくアメリカ産のパイナップルフレーバーシードル1種(以下L)である。

記入項目は、それぞれのシードルについて[酸味]、[甘み]、[苦み]、[うま味]という視点で1から5までで評価してもらう(1が最弱、5が最強)。手順としてはまずはシードルだけを試飲しひととおり飲んだあとに、やはりスライダーを実食しながらペアリングという視点で再評価することとした。

まずはシードルのみの試飲。国産Aと国産Bはスタンダードな辛口シードルだが、[酸味]、[甘み]、[苦み]、[うま味]のどの項目にも1、2、3にチェックがされ、対してフランス産Hとスペイン産Iには3、4、5に比較的多くのチェックが付けられた。

「フランス産とスペイン産はしっかりとしたリンゴ感があって飲み応えも充分。甘口ではないのに果実の甘みを感じる。対して国産はあっさりしすぎている。水のように飲むならよいが、料理には物足りない」。そんな厳しい意見が飛び交った。

国産Cと国産Dは同じワイナリーの辛口と中甘口。

「この飲み比べはおもしろい。辛口は辛口すぎず、甘口は甘口すぎないが、気分や料理に合わせて選べるから2本とも常備しておきたい。そして意外と甘口はよい。普段ワインでは甘口は選ばないけれど、シードルでこれくらいの甘さなら冷蔵庫につねに置いておきたい」。実際に日常生活にシードルを積極的に取り入れるイメージが湧くという点で評価が高かった。

スペイン産Iとオーストラリア産Jには「ビールっぽい」という意見が多く寄せられた。両国ともに肉料理とシードルが気軽に楽しまれるという、リンゴの酒と料理の相性がまだイメージしづらい日本人の概念を覆すような食文化がある。ではビールっぽいシードルは受け入れられやすいのだろうか? ただ一方で「シードルなのに、ビールのように苦みが強いのは好きではない」という意見も。幼少期から甘くておいしいリンゴジュースを飲み慣れている日本人にとって、たとえ酒になってもやはり“リンゴ感”失われて欲しくないようだ。

国産Eはワイン酵母、国産Fは日本酒酵母による仕込みというシードル。さらにアメリカ産Kは発酵後の黒ブドウ果皮にシードルを浸漬したロゼワイン仕立て、アメリカ産Lはパイナップル果汁が添加されたもの。これらリンゴ以外の要素を含むシードルには賛否が別れた。

懐疑的な意見としては、「シードルを選ぶ理由として、”ワインのように”、”ビールのように”、”日本酒のように”と、どのシーンにも合わせてと言われるが、実際そのような場面になったときには結局は本当のワインを、ビールを、日本酒を選んでしまう気がする。あえてシードルにそれらほかの酒類のニュアンスを求めるかどうかは疑問」。

しかし、「もともとワインや日本酒が好きな人にはとても受け入れられやすいと思う」という好意的な感想が大半を占めた。

興味深い感想は国産G、摘果(幼果のうちに間引かれた実)を使ったシードル。味わいの評価はそれぞれ[酸味:3]、[甘み:4]、[苦み:1]、[うま味:4]に多くの評価が付けられ、[うま味:4]と評価した人数はフランス産Hに続く第2位、国産ではトップとなった。

続いてスライダーの登場。
すると……、これまでの意見が一変する!

「スライダーのバーベキューソースが甘めなので若干の甘さは欲しいけれど、甘すぎるシードルや海外産の個性はちょっと強すぎる」。
「国産のあっさり感は、食事と合わせると意外と悪くない」。
「シードル単体で好きだったものは全部スライダーとは合わない」。

最後に本橋は、12種類のシードルのなかからスライダーに合うと思う3種に挙手をしてもらい、その順位を決めることにした。

結果は……

1位 国産B:スタンダードな辛口シードル
2位 国産G:摘果シードル
2位 国産E:ワイン酵母仕込みのシードル
2位 アメリカ産K:ロゼワインフレーバーシードル
3位 国産C:国産Dと同じワイナリーの辛口シードル
3位 国産D:国産Cと同じワイナリーの中甘口シードル

単体で人気だった海外産はランク外、あっさりしすぎると厳しい意見が多かった国産のスタンダードな辛口シードルが1位という興味深い番狂わせ。単体でも人気だった摘果シードルはペアリングでも2位に。そしてやはりもともとのワイン愛飲家にはワインニュアンスは好意的に捉えられたようで同じく2位。3位に同ワイナリーの辛口と中甘口が同位ランクインしたのは、好みの差がバランスよく現れた結果と言える。

本橋はこの結果から何を思う?

「単体の好みとペアリングの好みが逆になるのは、じつは長年の経験から想定内。この結果からシードルはもっとお客様に好かれる可能性を大いに感じたし、僕的な味わいのイメージはだいぶできた。サッカーのポジションでいうと、酸味がゲームメーカー、甘みが花形の点取り屋、苦みがディフェンスのようなイメージ。数値にしたら[酸味:3]、[甘み:4]、[苦み:2]くらいのバランスを目指そうかな。でも1位のようなテイストのシードルはあえて造らないようにしようと思った(笑)。なぜなら僕らが造る意味がないから。じゃあ、僕らが造る意味って一体何だろうね?」。

悩みは解決するどころか、情報量が増えただけ迷いも増える。
本橋の悩みは続く。

一方、掛川も悩んでいた。

この時期は、本来の役割であるカーブドッチワイナリー醸造長として今年収穫されたブドウによるワインの仕込み作業真っ只中。一年でもっとも多忙を極めるなかでの人生初体験となる本格的なシードルの仕込み準備は、やはり彼の頭を悩ませていた。

東京で開催されたこの消費者試飲会の結果を新潟で聞いた掛川。「リンゴ感と甘さの補完は、リンゴ果汁そのものを生かす方向で検討してみます。そして酸味の補完として酢酸ロットを準備しておくことも考えておきます」。

手探りでのシードル造り、どれだけ頭でシュミレーションしても実際に完成するまでは言い知れぬ不安が拭えない。このプロジェクトの連載第1回で、「この連載はドキュメンタリーであり、決してハッピーエンドは約束されていない」と綴った。だが、醸造歴20年以上のキャリアをもつ掛川はそれを言い訳にするような醸造家ではない。

このプロジェクトを見守る消費者、読者はたとえどんな味わいに仕上がったとしてもおそらく大多数が「飲みたい」と言ってくれるであろう。しかしそれではプロフェッショナルを極めるふたりは満足しない。大きな期待を背負う挑戦者は孤独だ。むしろ周囲の温かい言葉は、さらにその孤独感を増す。ここからはそれぞれ自身との戦い、私たちはただ見守ることしかできない。

次回は……「いよいよ本番! 初めてのシードル仕込みに挑む!」
12月5日発売 ワイナートNo.97誌面にて。

取材協力:
JULIA
〒150-0001
東京都渋谷区神宮前3-1-25-1F
Tel:03-5843-1982
Open:18:00 – 22:00(定休日火曜)
https://juliaebisu.wixsite.com/julia

Text:Mami Yamada