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岩本順子 Junko Iwamoto

ドイツ在住/ ライター・翻訳家

ライター・翻訳家。ドイツ、ハンブルク在住。1999年にドイツの醸造所で研修。2013年にWSETディプロマ取得。現在ドイツの日本語新聞「ニュースダイジェスト」に「ドイツワイン・ナビゲーター」「ドイツ・ゼクト物語」を連載中。 http://www.junkoiwamoto.com

2019.12.23
column

ドイツ・ハンブルク発 世界のワイン情報 vol.23「スイスのボージョレ? ヌーシャテル地域の『ノン・フィルトレ』」

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2019年5月、スイスで行なわれた「第8回・国際シャスラコンクール「Mondial du Chasselas(モンディアル・ドゥ・シャスラ)」に再び審査員として参加した。

今回初めて「ノン・フィルトレ(Non-filtré)」というカテゴリーのワインを審査した。白品種シャスラで造られる、酵母の澱をろ過していない濁ったワインだ。グループで試飲したのは10本。いずれも味わい豊かで、みずみずしく、ハイレベルで興味をそそられた。グループ内のほかの審査員の評価も高かった。

試飲した「ノン・フィルトレ」のうち、グループ内で一致して高得点だったのがヌーシャテル産だった。この審査を通じて初めて、ヌーシャテル地域に「ノン・フィルトレ」の伝統があることを知った。

ヌーシャテル地域は「三湖地方」と呼ばれるワイン産地にある。三湖とは、ヌーシャテル湖(独/ノイエンブルガー湖)、ビール湖、 モラ湖(独/ ムルテン湖) の3つの湖のことで、ヴォー州、ヌーシャテル州、ベルン州にまたがる地域だ。 ヌーシャテル湖(220平方キロ)は、大きさではレマン湖(580平方キロ)に及ばないが、全域がスイス国内にある湖としてはスイス最大である。同産地のワイン造りの伝統は、1000年に及ぶ。

「三湖地方」のブドウ畑の総面積は1000ヘクタールほどで、それぞれの湖岸の、南向きのゆるやかな傾斜地や平地で栽培が行なわれている。気候は温暖、降水量は年間1000ミリ以下、土壌はジュラ石灰が支配的だ。栽培品種の8割がシャスラ種。このほか、白品種ではピノ・グリ、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、ヴィオニエ、赤品種ではピノ・ノワール、ギャマレ、ギャラノワール、カベルネ・ソーヴィニヨン、マルベックなどが栽培されている。

ヌーシャテル地域で「ノン・フィルトレ」が誕生したのは1974年のこと。同地域では当時、ブドウが不作でワインが不足していた。醸造所には買い手が殺到し、できたばかりの新酒を、ろ過せずに販売しなればならないほどだったという。

この濁った白ワインは顧客に好評で、その後も継続的に生産されるようになった。現在では、全生産量の約10パーセントが「ノン・フィルトレ」として出荷されている。「ノン・フィルトレ」は、毎年1月の第3水曜日に、ヌーシャテル市の市庁舎でプレゼンテーションされ、真っ先に市場に出回る。

コンクール終了後、審査員一同で、ヌーシャテル地域オヴェルニエ村にあるシャトー・ドヴェルニエ(Château d‘Auvernier)を訪問した。1603年創業の伝統ある家族経営の醸造所で、現在のオーナーはティエリー・グロージャン(Thierry Grosjean)氏。所有畑は64ヘクタール。生産量はヌーシャテル地域の総生産量の約10パーセントに相当する。主力製品はウィユ・ド・ペルドリ(Oeil de Perdrix)と呼ばれるロゼ(ピノ・ノワール)で、売上の4割を占めるという。

シャトー・ドヴェルニエの「ノン・フィルトレ」に使われているブドウは、シャスラ・フォンダン・ルー。グレープフルーツを感じさせる風味が印象的だ。フォンダン・ルーは、スイス西部でポピュラーなシャスラのクローンのひとつで、収量が少なく高品質のワインができる。

「ノン・フィルトレ」は、通常のシャスラよりもボリューム感があり、よりミネラル系の風味を感じるので、塩を利かせた食事によく合う。チーズなら、スイスのパルミジヤーノ・レッジャーノなどと言われる、熟成したスプリンツ(スイスの超硬質チーズ)がおすすめだ。

Château d‘Auvernier
https://www.chateau-auvernier.ch/

Text:Junko Iwamoto