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岩本順子 Junko Iwamoto

ドイツ在住/ ライター・翻訳家

ライター・翻訳家。ドイツ、ハンブルク在住。1999年にドイツの醸造所で研修。2013年にWSETディプロマ取得。現在ドイツの日本語新聞「ニュースダイジェスト」に「ドイツワイン・ナビゲーター」「ドイツ・ゼクト物語」を連載中。 http://www.junkoiwamoto.com

2023.12.06
column

「VINARIUM 2023」ルーマニア国際ワインコンクール・レポート〜ドイツ・ハンブルク発 世界のワイン情報 vol.42

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■20回目となる今年は
プロイエシュティで開催

5月下旬、ルーマニアで毎年開催されている国際ワインコンクール「VINARIUM」に審査員として参加した。東欧圏には、世界最古のワインコンクールとして知られる、スロヴェニアの「Vino Ljubljana」(1955年から開催)があるが、60回目を迎えた2018年以降は開催情報が得られない状態だ。一方、今年20回目を迎えた「VINARIUM」は、その存在が広く知られ始めており、東欧圏の重要なコンクールとなっている。

主催者はVinariumアソシエーションとASERワインコンサルティング社。ルーマニア公認テイスター協会(ADAR)の協力を得て、OIVシステムで実施されている。東欧圏ではこのほか、ハンガリーのVinAgora(今年24回目)、スロヴァキアのDanube Wine Challenge(今年10回目)が開催されている。

「VINARIUM」はおもに首都ブカレストで開催されるが、ワイン産地でも行なわれることもある。今年はブカレストの北100キロのところにあるプロイエシュティ(Ploiesti)市内のホテルで開催された。プロイエシュティはプラホヴァ県の県都。プラホヴァ県と東に隣接するブザウ県にまたがっているのがDOCデアル・マーレだ。プラホヴァ県は、19世紀半ばから第二次世界大戦中にかけて、世界有数の石炭、天然ガス、石油の産地として名を馳せたことでも知られる。

コンクールはスティルワイン、スパークリングワイン、スピリッツの3部門。今回は23カ国250生産者から1311アイテムがエントリーした。コンクールには、欧州、オセアニア、南米の主要ワイン生産国が参加したが、モルドバ、ウクライナ、アゼルバイジャン、ジョージア、セルビア、キプロス、トルコ、インドなどからも、多数の参加があったのが特徴だ。今年はエントリーワインの60%がルーマニアワインだった。審査員は16カ国41名。うちルーマニア人は20名だった。

4日間にわたる審査の結果は、グレードゴールドメダル(OIV方式で93〜100点)11アイテム、ゴールドメダル(89〜92.9点)286アイテム、シルバーメダル(85〜88.9点)122アイテム。OIV方式では、エントリーワインの30%がメダルを獲得できる。今回、シルバーメダルを獲得したワインの最低スコアは88点だった。グレートゴールドメダルを受賞したワインはルーマニアのほか、イタリア、アゼルバイジャン、モルドバ、ウクライナ産だった。

グレートゴールドメダルを受賞したルーマニアワインは以下の6本。

Lacerta 2017/Fine Wine Lacerta (Syrah)
Spumant Domeniile Panciu Rosé 2015/Natura(Pinot Noir)
Sorai Premium Barrique 2022/Rojevas Agroinvesr SRL(Chardonnay)
Thesaurus Reserve 2019/Thesaurus Wines(Syrah, Merlot, Cabernet Sauvignon)
Iacob Rosu 2018/Unicom Production SRL(Cabernet Sauvignon, Fetească Neagră)
Vinars De Zarea 1912 XO/Zarea SA

全受賞ワインは以下のサイトで閲覧可能。
https://www.iwcb.ro/registration/results.php?active_language=en

■ルーマニア最高品質の赤ワイン産地
デアル・マーレ地域の醸造所を訪問

審査期間中は「赤ワインの故郷」の異名をもつ、デアル・マーレ地域の醸造所を訪問する機会に恵まれた。同地域では、ルーマニアの最高品質の赤ワインが生産されている。プロイエシュティからバスで1時間ほど北東へ向かうと、なだらかな丘陵や小高い山々が現れ、広大なブドウ畑が見えてくる。

一帯は東欧圏を走るカルパティア山脈の南端、厳密に言えば、南カルパティア山脈(トランシルヴァニア山脈)の東端から東カルパティア山脈の南端にかけての地域で、全長60kmにおよぶ。主要河川はプラホヴァ川である。

ルーマニアワインはおよそ6000年の歴史をもつといわれる。古代ギリシャ、古代ローマの影響について語られることも多い。ルーマニアという国名は「ローマ人の土地」という意味で、住民はトラキア系のダキア人、2世紀ごろに同地を征服した古代ローマ人、その後にやってきたスラブ人、マジャール人などをルーツにもつ。デアル・マーレ地域には、バッカス・ロードと呼ばれるワイン街道が通っているが、これは古代ローマのワイン街道の一部だ。

同地域では、赤はカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、ブラウフレンキッシュ、白はピノ・グリ、ヴェルシュリースリング(イタリアンリースリング)、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブランなどの国際的な品種がおもに栽培されているが、赤のフェテアスカ・ネアグラ、白のフェテアスカ・レガラ、フェテアスカ・アルバ、タマヨアサ・ロマネアスカなどの固有品種も増えつつある。気候は大陸性だが、カルパティア山脈が北風を遮っているので穏やか。ルーマニア国内では、年間平均気温がもっとも高い地域だという。土壌はレス、ローム、鉄分を多く含む石灰質が主流、緯度はボルドー、ピエモンテ地方に相当する。

モルダヴィア地方、ヤシ大学農学部教授のヴァレリウ・コテアによると、ルーマニアにおいても気候変動の影響は見られ、赤品種の栽培地域が北上しているという。また、近年ようやく、造り手たちが固有品種の重要性に気づきはじめたとのことだ。

訪問したワイナリーは以下の5軒。

Viile Budureasca
ヴィル・ブドゥレアスカ

創業2006年。07年に英国出身の醸造家スティーヴン・ドネリーを起用し、ルーマニアのトップクラスのワイナリーとなった。ドネリーは1995年からルーマニア各地のワイナリーで衛生管理を徹底させ、高品質のワイン造りに貢献していた。所有畑275haのうち古木が25ha、畑の標高は175~400メートル。2013年に300万リットルのキャパシティをもつ新しいセラーが完成、国際品種、固有品種の双方に力を入れる。現在は、醸造家ゲオルギウ・セルバンが中心となってワイン造りを行なう。

伝統製法のスパークリングワイン(現行2014年/ピノ・ノワール+シャルドネ)、Origini(2018年/カベルネ・ソーヴィニヨン)、Noble Five(2020年/フェテアスカ・ネアグラ+シラー、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、ピノ・ノワール)は、いずれも厳選されたブドウから造られた、力を秘めたワイン。フェテアスカ・ネアグラは石灰含有量の多い標高の高い畑で栽培。フレンチ、アメリカンオークのほかに、ルーマニア産オークの小樽も導入している。

Apogeum
アポゲウム

2006年に誕生したアポゲウムは、Tohani România(トハーニ・ロマニア)の系列醸造所。固有品種フェテアスカ・ネアグラにフォーカスを当て、高品質のワインを生産している。両醸造所のオーナーであるヴィルギル・マンドゥルが、フェテアスカ・ネアグラ単独で高品質のワインを造ることを決断したときは、誰もが本気にしていなかったという。アポゲウムの革新的な試みは、フェテアスカ・ネアグラ種が国際的に評価されるきっかけを作った。

樹齢は50年を超え、円形劇場のような地形の畑は栽培に理想的な気候を保つ。アポゲウムではアンフォラで醸造したのち、フレンチオークの小樽で2年熟成、瓶熟成1年を経て出荷。年間1万本ほどを生産している。

Domeniul Aristitei
ドメニウル・アリスティテイ

オーナーのビアンカ・ヨニツァは、偶然に訪れたこの地の美しさに魅了され、既存の醸造所を購入、100年の伝統をもつ畑を基盤として、2013年に新たな醸造所を興した。畑面積は4ha。

Vizionar(2021年/ソーヴィニヨン・ブラン)、Vizionar(2020年/フェテアスカ・ネアグラ主体のロゼ)、Vizionar Cupaj Roșu(2021年/フェテアスカ・ネアグラ、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ)など、ニコヴァニ・ヴァレーのテロワールが反映された、端正なワインを生み出す。醸造家はクリスティアン・チュードア。醸造所が完成した19年ヴィンテージから自社での生産が可能になった。

Davino
ダヴィーノ

1993年創業。セプトゥーラ・デ・ヨスの見晴らしのよい丘の上を拠点とする。所有畑は19ha、樹齢は25~40年。醸造家ミシェル・ロランが監修していたこともあり、ボルドースタイルのワインが中心だが、フェテアスカ・ネアグラ、フェテアスカ・アルバ単独醸造のワインも生産。ルーマニアオークの小樽を使用。

Ceptura Rouge(2018年/カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、フェテアスカ・ネアグラ)、フェテアスカ・ネアグラ単独醸造のPurpura Valahica(2017年)はいずれも逸品。

Viile Metamorfosis
ヴィル・メタモルフォーシス

イタリア、トスカーナの名門、アンティノリ社の所有する醸造所。その基礎を築いたのは、イタリア出身の醸造家フィオレンツォ・リスタ。リスタは1998年にルーマニアに移住、デアル・マーレのテロワールと固有品種に魅せられ、醸造所を興した。アンティノリ家の所有となったのは2009年以降。

フェテアスカ・ネアグラ、フェテアスカ・レガラ、タマヨアサ・ロマネアスカ、ネグル・デ・ドラガシャニに力を入れ、オーガニック栽培を実践。3つの異なる畑に計100haを所有。Cantus Primus(2019年/フェテアスカ・ネアグラ)、Via Marchizului(2020年/ネグル・デ・ドラガシャニ)はいずれも高評価を得ている。

今回訪問した醸造所はいずれも、2019年に設立された「デアル・マーレ醸造所協会(APV Dealu Mare)」のメンバー。現在、会員醸造所は15社で、独自の厳格な基準を設け、より高品質なワインの生産を目指すほか、ワインツーリズムにも力を入れている。フェテアスカ・ネアグラを25%以上栽培していることも会員の条件となっている。