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岩本順子 Junko Iwamoto

ドイツ在住/ ライター・翻訳家

ライター・翻訳家。ドイツ、ハンブルク在住。1999年にドイツの醸造所で研修。2013年にWSETディプロマ取得。現在ドイツの日本語新聞「ニュースダイジェスト」に「ドイツワイン・ナビゲーター」「ドイツ・ゼクト物語」を連載中。 http://www.junkoiwamoto.com

2020.03.19
column

「ヴィーテ・コルテの挑戦」〜ドイツ・ハンブルク発 世界のワイン情報 vol.25

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最近、ドイツのインターネット上のワインショップで、ピエモンテ地方のワインを探していると、ヴィーテ・コルテ(Vite Colte)の製品をよく見かけるようになった。価格が求めやすいのも魅力だ。一度コレクションを試飲してみたいと思っていたところ、昨年末にテイスティングの機会がおとずれた。

醸造所の中の醸造所

ヴィーテ・コルテはピエモンテ地方の大手協同組合醸造所グループ、テッレ・ダ・ヴィーノ(Terre da Vino)から派生して生まれた醸造所だ。

テッレ・ダ・ヴィーノは14の協同組合醸造所が統合したもので、設立は1980年。本拠地はバローロにあり、ブドウ畑の総面積は5000ヘクタール、会員栽培家は2500人に及ぶ。マンモス醸造所ゆえに、つねに質と量の均衡に注意を払ってきた。創業当時から、ワイン造りの基本であるブドウ畑の土壌と環境を重要視し、栽培家との連携を密にして、理想的な剪定方法、収穫ブドウの選別方法などを改善してきた。高品質化に取り組むうちに、 ハイレベルのワインコレクションにフォーカスするヴィーテ・コルテが誕生した。

ヴィーテ・コルテは、大醸造所のなかの、選り抜きの高品質ワインを生産する小醸造所、という位置付けだ。ブドウを提供しているのは、優れた条件の畑をもつ約180人の栽培家、畑面積にすると約300ヘクタール分で、年間生産量は約120万本だ。

選り抜きの畑を所有する約180人の栽培家は、ヴィーテ・コルテ向けに、収穫ブドウのすべてではなく、選別した高品質のものだけを提供する。厳格な選別を行なうことで、ヴィーテ・コルテのワインには、ブドウ畑の由来、個々の栽培家の物語、醸造家の筆跡が刻印される。協同組合に属してはいても、個人醸造所のような仕事が行なわれているわけだ。 長年にわたり、チームを率いるのは、農学家で栽培責任者のダニエレ・エーベルレと醸造責任者のブルーノ・コルデロのふたりだ。

本拠地バローロの、環境に溶け込んだデザインの新醸造所には、コンピューター制御で温度調節を行なうステンレススチールタンクを始め、多額の設備投資が行なわれた。空調が整った熟成用のセラーは、バローロ、バルバレスコ用の大樽(5000リットル)のほか、バリック2000樽分のキャパシティがある。ビジターにも配慮し、醸造行程を俯瞰できる見学ルート「スカイウォーク」が設置されている。

コムーネの個性を引き出す
ワインの数々


ヴィーテ・コルテのコレクションは、バローロ、バルバレスコ、バルベーラ・ダスティ、バルベーラ・ダルバ、白いバローロと言われるロエロのアルネイス、ガヴィ、スプマンテ、モスカート・パッシートなど幅広い。

なかでも、彼らが最初に取り組んだ、バルベーラ・ダスティ・スペリオーレ「La Luna e i Falò」は、バルベーラのイメージを塗り替えたワインであると高く評価され、繊細さ、緊張感、奥行きをもつ。

バローロに関しては、11のコムーネのうち、バローロ、セッラルンガ・ダルバ、モンフォルテ・ダルバの3つのコムーネにトータルで10ヘクタールを確保し、「Essenze」というブランド名で3種類のバローロをリリースしている。栽培家はトータルで12人だけだ。彼らは、長年の経験の蓄積をもとに、各コムーネでチームを構成し、個々のコムーネの特性が明確に表現できるよう、畑での対処、収穫期の調整、収穫したブドウのチェックなどを行なっている。

バローロには、このほか、同じく「Essenze」ブランドのバローロ・リゼルヴァと、バローロ「Paesi Tuoi」という複数のコムーネのブドウをブレンドしたものがリリースされている。個人的には 「バローロ・デル・コムーネ・ディ・バローロ 2015」の高貴な香り、イキイキとした酸味、透明感のある味わい、「バローロ・デル・コムーネ・ディ・セッラルンガ・ダルバ 2013」の秘めた力強さが印象に残った。

ヴィーテ・コルテの評価は年々高まっており、国際的にも注目されている。輸出先は、米国、英国、欧州のドイツ語圏を始めとする35カ国に及ぶ。価格も魅力的で、オーガニックワインの割合も年々増えている。

テッレ・ダ・ヴィーノから生まれたヴィーテ・コルテは、以前、このコラムでご紹介したカンティーネ・セッテソリから生まれたマンドラロッサ(vol.11)を思い起こさせる。ヴィーテ・コルテのマーケティング担当者によると、現在イタリアでは、協同組合醸造所が、新ブランド、新醸造所を立ち上げ、高品質のワインを展開する傾向が見られるという。会員農家が所有する優れた畑のブドウのポテンシャルを最大限に生かそうとする動きだ。イタリアでも、村名ワイン、単一畑のワインがますます重要視されるようになっているが、このようなテロワール重視の傾向は今後、さらに進んでいくことだろう。

※「La Luna e i Falò」(月と篝火)「Paesi Tuoi」(故郷)はピエモンテ出身の作家、チェーザレ・パヴェーゼの小説のタイトル。

Vite Colte
住所:Via Bergesia, 6, 12060 Barolo CN
www.vitecolte.it

text:Junko Iwamoto