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谷宏美

日本在住/フリーランス ライター

エディター/ライター、ワインバー「ローディ」ソムリエール。ファッション誌の美容エディターを経て、2017年よりフリーに。店の仕入れや現場でのサービスをやりつつ、ワイン&ビューティの分野で取材・執筆を行なう。J.S.A.認定ワインエキスパート。

2020.04.14
column

竹富島の暮らしに根づく畑と命草(ぬちぐさ)、そしてワイン

パステルブルーの海に浮かぶ八重山諸島の小島、竹富島。ブーゲンビリアが咲き乱れ、のどかな足どりの水牛車が通りを行き交うこの島では、古くから畑の作物や命草(ぬちぐさ)と呼ばれる野草が人々の暮らしと健康を支えてきた。「星のや竹富島」では、失われつつあるそうした伝統の作物を継承して、料理に活用したり、ワインとペアリングしたりといった試みを行なっている。

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スローな時間が流れる島

遠浅のビーチで泳ぐことができる美しいコンドイ浜。



竹富島は石垣島から高速船で約10分。サンゴ礁の隆起によってできた、起伏のないなだらかな島。周囲を透き通るような海に囲まれ、周回約9キロの島内には信号が1本もなく、ゆるやかな時間が流れる。

赤瓦屋根の集落を回る水牛車。3トンもの荷を引ける水牛は農耕牛としてもともと台湾から連れてこられ、
現在は西表島でも飼育されている。



(左上)温暖な島では1年を通してブーゲンビリアの花が見られる。(右上)海のそばに棲む島猫。
(左下)共同牧場にいる黒毛の放牧牛。(右下)竹富島といえば屋根の上のシーサー。ときにこんなカラフルなお方も。



うつぐみの精神と
「命草(ぬちぐさ)」


ゆるやかな時の流れと手つかずの美しい自然。この素朴な魅力にあふれる島の人の心に宿るのが「うつぐみ」のスピリット。皆が一丸となって協力し合い、助け合うという共助の精神だ。

穏やかに見えるこの島は、古くから過酷な宿命を背負ってきた。干ばつや台風などの災害にたびたび見舞われ、平坦で痩せた土壌は生産性が低い。それにも関わらず古く琉球王朝時代には重税を強いられてきた。そうした環境下で人々はおのずと助け合い、祈るようになった。

島にはいまも祭礼の伝統が残る。五穀豊穣と子孫繁栄を祈る「種子取祭(タナドゥイ)」は、島にとってもっとも大切な行事だ。

東京出身のスタッフ小山隼人さん。



島の暮らしに欠かせないのが「命草(ぬちぐさ)」と呼ばれるさまざまな種類の野草や植物。食用のみならず染織や衣料に用いたり、薬草にしたりと古くから人々の暮らしと健康を支えてきた、島のハーブだ。そうした野草とともに雑穀やイモ類を植えて主食とした。

しかし近年、観光が主産業となって農業従事者が激減し、在来種の野菜や植物が失われつつあり、希少種になりかけているものも。こうした作物の種子を保護し、管理しながら、野菜や植物の復興を図っているのが、島の長老的な存在である前本隆一さん。

滞在型リゾート「星のや竹富島」では前本さんに師事し、古来より伝わる島の畑の恵みを継承する試みを行なっている。東京出身のスタッフ小山隼人さんが先頭に立ち、前本さんから栽培技術を教わりつつ希少な種子を譲り受け、リゾート内を耕作して野菜や命草の畑を作ったのだ。

祭事で奉納されるほど島の暮らしに欠かせないアワ、さまざま種類のあるイモ類、地大豆で小浜大豆ともいわれるクモーマミ。また長寿のハーブとも呼ばれる長命草やヨモギの一種フーチバー、紫色の葉にアントシアニンが豊富なハンダマ、小ぶりながら香りの鮮烈な島ニンニクといった命草(ぬちぐさ)の数々。これらが揃って畑に植えられているさまはほかでは見られないだろう。

右から、アワ、クモーマミ、紫、黄金、白の3色のイモ、島ニンニク。



(左上)在来種の大豆、クモーマミ(小浜大豆)。希少種で八重山諸島でもほとんど栽培されなくなっているが、
小山さんが八重山農林高校からクモーマミの種子を譲り受けてリゾート内で栽培し、2019年に初収穫。豆腐などの材料に。
(右上)手前が長命草。一株たべると一日寿命が延びる、という言い伝えがある。独特の苦みが特徴的。
奥に見えるのが島ニンニク。
(左下)島では欠かせないヨモギ。さまざまな種類がある。
(右下)葉を調理に使うハンダマ。日常的に食され、これを入れた味噌汁を作るときに歌う歌もあるのだとか。



「島テロワール」メニューとの
ペアリング


気候が温暖な竹富島では一年を通してさまざまや食材が揃う。命草(ぬちぐさ)をはじめとしたハーブや野菜の種類がもっとも多いのが冬の間。適度な温度と湿度が保たれ、多種の作物が収穫できるためだ。

これらの畑の作物に加え、島で養殖している名産品の車エビや、島の恵みを堪能できる冬のディナーコースが「島テロワール」。島の旬をあますところなく味わうことができる全9品に、ワインをペアリングできる。

■アペリティフ

屋外の専用テラスでの「島風アペロ」。スパークリングワインとともに供されるのは、アーサーのちんすこう、エビとパルメザンチーズのチュイル、ジーマミー豆腐、クワン草とスーチカのテットドフロマージュ。
優しく吹き抜ける心地よい風や、夕焼けから星空に移り変わる空の景色もごちそう。

■アミューズ

ガザミ、ウイキョウ 島豆腐

メロディ・アン・セー NV/ブリュン・セルヴネイ

マングローブの森に生息するガザミとそのビスク、沖縄特有の島豆腐、コンソメのジュレやカプセル状のオリーブオイルなどを重ねてパルフェ状にしたアミューズ・ブーシェ。

ソムリエの吉村佳子さんが合わせたのは、シャープな酸のあとにふくよかさが広がるブラン・ド・ブラン。さまざまな食感と味わいが溶け合い、ディナーの幸せな序章に。

■前菜1

車エビ、長命草

ラ・ルンベーラ 2016/マス・ペリセール

広大な農地や川がないため赤土や農薬の流入なしに清浄な海水で育つ車エビは、竹富島の名産品。その車エビを月桃の葉で包み、サンゴとともに熱した炭火焼きならぬ“サンゴ焼き”。遠赤外線効果のあるサンゴでじっくりと火を通した車エビは、プリプリでうま味たっぷり。ナンプラーとシークワーサーのたれをつけて。

スペイン・カタルーニャの自然派の造り手オリオル・アルティガスが、パンサ・ブランカ(チャレッロ)100%で造るアンフォラ熟成のラ・ルンベーラは、フリンティなテクスチャーにストーンフルーツやスパイスの香り、そして深みのある味わいが、車エビのうま味にぴったり。

■前菜2

フォアグラ、クブシミ、タンカン

ボージョレ・ブラン 2017/クリストフ・パカレ

クブシミとは甲イカのこと。イカスミのチュイルの下には、イカスミのリゾットにのせたフォワグラと甲イカのポワレ、そしてタンカン。アクセントにタンカンを煮詰めたソースを添えた、ブラック&イエローの色合いもユニークな一品。

こちらに合わせて用意されたのは、クリストフ・パカレのシャルドネ。ボージョレの自然派の巨匠マルセル・ラピエールの直系にあたるクリストフは、竹富島を訪れたこともあり、島の食材と自らのワインとの相性を高く評価していたそう。
粘土質のシャルドネはボリュームもあるが、最後にスッと抜ける感じが、柑橘をアクセントにした濃厚な前菜とマッチする。黒地にイエローの文字のエチケットも見事にペアリング。

■前菜3

イモづくし

イムゲー/請福酒造所

この日は施設の畑で穫れた3種のイモがふるまわれた。ラルドの薄切りとパウダー状のバルサミコをかけた黄金イモのフリット、ローストしてからキャラメリゼにした紫イモ、トリュフバターでいただく白イモのヴァプールは黒トリュフ添え。竹富産のイモの甘みや香り、芳ばしさを存分に味わえる。

これには、イムゲーと呼ばれる伝統酒をペアリング。古くは琉球王朝時代から伝わり、イモを3回蒸留するスピリッツだ。イモ由来のコクと甘みがありながらサラリとした味わいはじつに上品で、この3つの調理法で仕上げたイモとはいずれも好相性。

■スープ

車エビ、ニンジン

ガレジャード・ロゼ 2018/ムレシップ

島名産の車エビが、調理法を変えて再び登場。リッチで芳ばしい車エビのビスクをフォーム状に仕立て、糖度の高いニンジンのムースを仕込んだ、鮮やかな赤い色も楽しいスープ料理。車エビとともに添えられたニンジンの葉の素揚げも気が利いている。

ラングドックのムレシップの果実味豊かでミネラル感にあふれるロゼとのマリアージュがおもしろい。樹齢の高いサンソーとグルナッシュを除梗せずにプレスし、すぐにブレンド。ピュアな果実感は複雑なビスクの甘みともよく合い、エビそのもののうま味を引き出してくれる。

■肉料理

牛肉、フーチバ 

サン・タムール 2017/クリストフ・パカレ

肉料理と思いきや、ワゴンで運ばれてきたのは緑色をした一斤のパン・ド・ミー。そのパンの上部を取るとなんと牛のフィレ肉が姿を見せる。このなんとも独創的なメインディッシュは、フィレ肉に焼き目をつけてから、長命草とフーチバ(よもぎ)を練り込んだパン生地で包んでオーブンへ入れ、焼き上げたもの。つまりパンと同時に中のフィレ肉も低温で火入れされ、肉はしっとりと柔らかく、また命草の香りをまとった風味豊かなローストになるというわけだ。
ベアルネーズソースとフォンドボーのソースが添えられ、ガルニに島ラッキョウやハンダマ、フーチバと、たくさんの命草をあしらう。肉質のしっかりした沖縄県産の黒毛和牛と、命草の香りを見事に融合させた料理だ。

このメインディッシュのために吉村ソムリエが用意したのはクリュ・ボージョレ、クリストフ・パカレのサン・タムール。花崗岩土壌で育った力強いガメイをノンフィルター、SO2無添加で瓶詰め。かすかなスパイスの香りにキレのよい酸、凝縮された果実味がありながら透明感のある美しさ。命草が香るフィレ肉とのマリアージュは、ゆったりと和やかな余韻を残す。

■デザート

あかねイモ、レモン
マンゴー 泡盛

シャトー ルーミュー ラコスト 2016

アバンデセールはマイヤーズレモンのソルベにあかねイモのモンブラン仕立て。続いて、黒糖を使った焼き立てのマドレーヌに泡盛をたっぷりと染み込ませ、マンゴーソースとクリームをのせたババを目の前で仕上げてくれる。

この琉球スタイルのデザートには、セミヨン100%のソーテルヌ。貴腐ワインと、芳醇な八重山の泡盛との相性もユニークだ。

「島テロワール」コースとのペアリングは、いずれも有機栽培のブドウを用いて、人の介入を極力抑えた自然派の造り手のワインをセレクト。アミューズのワクワク感から入り、前菜ではワインが料理を引き立てたり、味わいに溶け込んだり、同調したり。さらにメインディッシュに驚きをもたらし、デザートに安定感を与えるなど、コースを通しての流れも重視している。

食材の味わいだけでなく、それが生まれた風土を彷彿させる料理に、ワインを育むテロワールを重ね合わせて楽しむマリアージュは、旅の楽しみを増幅させ、料理とワインの背景を思い描く想像力も広がるだろう。

※すべてのメニューは取材時のもの。仕入れや入荷の状況により異なる食材を用いる可能性もある。

命草(ぬちぐさ)をたっぷり摂れる
栄養満点の朝食


島の朝は早い。日の出とともに始まる島人(しまんちゅ)の一日を支えるのは、活力を与えてくれる朝食だ。「星のや竹富島」では、命草(ぬちぐさ)をふんだんに使った「畑人(はるさー)・ブレックファスト」を、冬季限定で用意している。

このメニューの目玉はなんといっても、自社畑でも育てている命草や野菜をはじめとしたサラダ。長命草やハンダマ、ゴーヤ、紅イモ、イーチョーバー(フェンネル)、島ニンジンといった、島ならではの野菜を、一つひとつ説明しながらボウルに盛ってくれる。長命草やウコンのドレッシングをかければさらに滋養たっぷり。

焼きたてのパンはパッションフルーツやシークワーサー、紅イモなどをメインにしたジャムとともに。

ゴーヤ入りのデトックスウォーターサーバーや、フルーツ&ベジタブルのジュースバーで、
フレッシュな命草のジュースを好きなだけ飲めるのも嬉しい。



命草(ぬちぐさ)ウォーター作りに
トライ


命草をたっぷり摂ったら、命草を使ったアクティビティにもトライしたい。畑で摘んだ命草でハーバルウォーター作りの体験ができる。

ハサミとカゴを持って畑へ。ハーバルウォーターの材料となる命草を好きなだけピックアップ。いずれも香りや形状、島での使われ方が異なり、ブレンドすることでオリジナルの芳香蒸留水ができる。

アンチエイジングや美肌、消化促進、滋養強壮といった効能まで考えてブレンドするのはむずかしいが、触って香りを嗅ぐことで自分が必要としている要素がわかるかもしれない。そこでピンと来たものを選ぶのも方法のひとつ。

長命草、ハママーチ(琉球ヨモギ)、イーチョーバー、ヨモギ、レモングラス、ローズマリー、月桃。コウシンバラにクチナシの花も加えて。

フラスコに素材をすべて入れて加熱。植物に水蒸気を送ることで素材の中の芳香成分を一旦気化させ、それを氷で冷却することで液体に戻し、水溶性のハーバルウォーターが抽出される。ビーカーの中に溜まったハーバルウォーターはまだ熱いのでさらにクールダウンさせ、スプレー式の容器へ。

世界でたったひとつのオリジナルのハーバルウォーターは、枕などに吹きかけリネンウォーターとしてもよし、リフレッシュ用のルームスプレーとして使ってもよし。島の人々が薬代わりにしたという命草を、こんなスタイルで活用してみるのも一興だ。

集落に暮らすように滞在する
「星のや竹富島」


「星のや竹富島」の客室は48棟。南風を迎え入れるためにすべて南向きに建てられ、赤瓦屋根を冠した木造平屋造りの竹富島の伝統建築が並ぶさまは、あたかも集落のよう。

リゾートの中央には24時間オープンしているプールや、いつでも利用できるラウンジが位置し、島の文化を知ることのできるさまざまな体験プランも用意。ゆったりと流れる時間の中で、島で暮らしているかのような唯一無二の体験ができる。

いかなるときも励まし合い、助け合って生きていこうとする島の人々の気質。そんなうつぐみの精神が根づく島で、命草(ぬちぐさ)は、まさに人々の命をつないできた。命草を知ることで島を知ることができるかもしれない。竹富島で、命草と、それをベースにした食に触れることは、いにしえより脈々と受け継がれてきたこの島の文化を知ることでもある。

【data】
星のや竹富島
住所:沖縄県八重山郡竹富町竹富
Tel:0570-073-066(受付9:00〜20:00)
1泊1室 75,000円〜
島テロワール ディナーコース 12,000円
ワインペアリング  3種 4,500円 / 4種 5,800円 / 5種 7,000円 / 8種 10,000円
朝食 3,500円
※いずれも税・サービス料別途

https://hoshinoya.com/

Text & Photo:Hiromi Tani