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谷宏美

日本在住/フリーランス ライター

エディター/ライター。ファッション誌の美容エディターを経て、2017年よりフリーに。渋谷のワインバー「ローディ」で店の仕入れや現場でのサービスをやりつつ、ワイン&ビューティの分野で取材・執筆を行なう。J.S.A.認定ワインエキスパート。バタークリームとあんこは飲み物。

2023.06.14
column

古くて新しい産地、ルーマニア
〜個性的な土着品種と独創的な国際品種が両立するおもしろさ

ワイン造りの長い歴史をもつ東欧諸国。その中には戦渦に苛まれてブドウ畑が荒廃しながらも、EU加盟後にワイン産業が復興の兆しを見せ、活況を呈している国がある。ルーマニアはそのひとつ。個性豊かな土着品種に恵まれ、醸造技術は近代化し、ワイン法も整備されて、高品質なワイン生産地として発展しつつある。そんなルーマニアのリーディングワイナリーのひとつ、ヴィナルテ(VINARTE)のアイテムを紹介するセミナーが開かれた。

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■ルーマニアの概要とワイン生産の歴史

ヨーロッパの南東に位置するルーマニア(Romania)。東側は黒海に面し、ハンガリーやモルドバ、ブルガリア、そしてウクライナとも国境を接する。北緯44度〜48度に位置し、南フランスや北イタリア、オーストリアと同範囲に当たる。約24万平方キロメートルの国土のうち3分の2は山林で残りはなだらかな丘陵や平地。温帯大陸性気候で年間降水量は400mm〜600mm、収穫期の雨量は少なく、ブドウ栽培に適した土地である。

ワイン造りの歴史は古く、4000年前に遡るとされる。かつては高い品質を誇り、北東部のコトナリ地方はハンガリーのトカイと並ぶ銘醸地とうたわれたほど。第二次世界大戦後に社会主義国家となり、国営ワイナリー「ヴィナルコール」や協同組合のもとでワインが大量生産されるようになってその質は低下。1989年のルーマニア革命後、ワイナリーや農地が民営化されてワイン産業の復興が始まり、2007年のEU加盟をきっかけにワイン法の見直しとともに、再び高品質なワイン生産に向けて栽培や醸造技術が著しく改善している。

21年のブドウ作付面積は約17万ヘクタールで世界10位、ヨーロッパでは5位(2021年)にランクされ、国際品種と土着品種から造られるワインの生産高はヨーロッパで6位。なかなかのワイン大国にも関わらず、生産量の9割が国内消費されており、日本でも見かけることはまだ多くないかもしれない。

出典:Daniel Alexandru Beres

■ルーマニアのワイン法

33のDOC(原産地呼称)と12のIGP(地理的表示保護)が登録されており、それ以外の産地では認可品種を85%以上使用すると「ヴァラエタルワイン」を名乗ることができる。

DOCにはブドウの収穫時期によりさらに3つの分類がある。

・CMD:完熟期に収穫されたブドウ
・CT:遅摘み
・CIB:貴腐ブドウ

またDOCとIGPは熟成期間を記載することができる。

・レゼルヴァ:樽熟成6カ月以上、かつ瓶熟6カ月以上
・ヴィン・デ・ヴィノテカ:樽熟1年以上、かつ瓶熟4カ月以上
・ヴィン・トゥナル:醸造された年に発売される新酒

■国際品種と土着品種、交配品種が入り混じる

シャルドネやピノ・グリ、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルロなど国際品種、土着品種、また寒さや病害に強いハイブリッド品種からワインが造られている。ルーマニアの土着品種は100種類以上あるといわれ、ブルガリアやモルドバと共通のものも多い。栽培がむずかしいものもあるが質のよいクローンが導入され、個性的な土着品種が見直されつつあり、国際的にも注目されている。

〔白ブドウ〕
・フェテアスカ・アルバ(Fetească Albă):白い花のアロマと爽やかな味わいが特徴的。「白い乙女」という意味
・フェテアスカ・レガーラ(Fetească Regală):柑橘や白コショウのニュアンス。カビ耐性がある。「高貴な乙女」の意。
・タマヨアサ・ロマネアスカ(Tâioasă Românească):ミュスカ・プティ・グランと同一品種。甘口や半甘口になることが多い。

〔黒ブドウ〕
・バベアスカ・ネアグラ(Băbească Neagră):色は淡く、フルーティで軽やかなワインになる。「黒い貴婦人」という意味。
・フェテアスカ・ネアグラ(Fetească Neagră):「黒い乙女」とう意味のごとく濃い黒紫色。高品質のワインになるとされ栽培量も増加している。

■1989年創業のヴィナルテ社

ヴィナルテ(VINARTE)」はルーマニア革命後すぐにワイナリーを民営化し、高品質なワイン造りの復興を目指したルーマニア系イタリア人オーナーとルーマニア人醸造家によって1989年に設立されたワイナリー。南西部にあるDOCメヘディンツィに160ヘクタール、DOCサンブレシティに50ヘクタールの自社畑をもち、8シリーズを生産(日本では5シリーズを輸入)。ワイナリー名の由来であるワイン(vin)とアート(arte)にちなみ、美しく創造的なワインを造っている。

醸造家ウスティン・ウルク(Iustin Urucu)はクラヨーヴァ大学でワイン醸造を修め、
カベルネ・ソーヴィニヨンのクローンの比較研究において博士号を取得。
ルーマニアで有能なワインメーカーとして名が挙がるひとりで、
ヴィナルテ創立当初より醸造責任者を務める。

■テイスティング

ヴィナル社の4つのライン半甘口やロゼ、ブラン・ド・ノワール、若々しい赤や熟成した赤など8種を試飲。


カステル スタルミナ タマイオアサ ロマネスカ 2020
Castel Stârmina Tămâioasă Românească 2020

DOC-CMDメヘディンツィ
タマイオアサ・ロマネスカ100%
12.2%
1,880円

土着品種タマイオアサ・ロマネスカ(Tămâioasă Românească)の半甘口の白。ゼラニウム華やかな香り、ライチや白桃の甘やかなフレーバー。ルーマニアでは炭酸で割ってアペリティフやデザートに合わせるのがポピュラーだとか。


ネデーア ロゼ 2019
Nedea Rose 2019

DOC-CMDメヘディンツィ
フェテアスカ・ネアグラ、バベアスカ・ネアグラ
12.5%
3,800円

2大土着黒ブドウのロゼ。淡い色に比してスプレッドバラのフラワリーなアロマ、温度が上がるにつれてイチゴやチェリーのニュアンス。キレイで明るさのある酸とチャーミングな果実感。アペタイザー全般、シーフードや揚げ物などフードフレンドリー。


ソアレ カベルネ・ソーヴィニヨン ブラン・ド・ノワール 2020
Soare Blanc de Noir 2020


DOC-CMDサンブレシティ
カベルネ・ソーヴィニヨン100%
12.5%
4,800円

カベルネ・ソーヴィニヨンの直接圧搾によるプレステージラインのブラン・ド・ノワール。ブラックチェリーのアロマ、洋梨やリンゴのフレーバー、コリアンダーや白コショウなどのオリエンタルなニュアンス、細く長く続く余韻。力強くてエレガント。


カステル スタルミナ フェアテスカ・ネアグラ 2021
Castel Stârmina Fetească Neagră 2021

DOC-CMDメヘディンツィ
フェテアスカ・ネアグラ100%
12.7%
1,880円

ルーマニアを代表する黒ブドウ、フェテアスカ・ネアグラ(Fetească Neagră )によるエントリーレンジの赤ワイン。透けないほど濃い黒紫色、カシスやブルーベリーのニュアンス、ラフなタンニン。一部オーク樽熟成でアフターに甘やかな味わいが残る。炭火焼のほか、チョコやキャラメルを使ったデザートにも。


カステル ボロヴァヌ ノヴァック 2020
Castel Bolovanu Novac 2020

DOC-CMDサンブレシティ
ノヴァック(ハイブリッド)100% 
13.0%

2,800円

ノヴァック(Novac)はネグル・ヴルトゥス(Negru vartos)とサペラヴィ(Saperavi)の交配品種として1987年誕生、タンニンが豊富で樽熟成に向く黒ブドウ。このワインはオーク樽で6カ月の熟成。ダークチェリー、鉄分、豊満な果実感。


カステル スタルミナ メルロー 2021
Castel Stârmina Merlot 2021

DOC-CMDメヘディンツィ

メルロ100%
12.5%
1,880円

エントリーレンジのメルロ。フレッシュなブルーベリー、シナモンやクローブのスイートスパイス、カカオ。ソフトなアタックでタンニンは控えめ、ジューシーな果実味。フードフレンドリーで肉料理やダークソイソース系の料理など。


プリンス・ミルチュア メルロー レゼルヴァ 2019
Prince Mircea Merlot-Rezervă 2019

DOC-CMDメヘディンツィ
メルロ100%
14.0%
4,200円

樽熟成6カ月、瓶熟成6カ月のレゼルヴァ。深みのあるワインレッド。 バラやボタンの華やかなアロマ、熟したブラックベリーやドライプルーンの凝縮した果実感に加えてタバコやモカのわかりやすい熟成感。収斂したタンニン。


マジックスイート
MagiQ Sweet

DOC-CIBサンブレシティ
イタリアンリースリング100%
12.5%
未輸入品

未輸入のレイトハーヴェストのリースリング。高い粘性とミツロウやアプリコットのニュアンスがあり完成度の高い甘口ワイン。

〔上記いずれも輸入元:ロマヴィーノ https://www.romania-wine.shop

ヴィナルテの輸入元ロマヴィーノ代表スクタリウともこ氏(右)と
レクチャラーのエレン・シェン氏。

国際品種を個性的に造りつつ、土着品種を復興させ、また気候変動に対応しよりアクセシブルなワインを造るべく積極的に新品種にも取り組むルーマニア。フードフレンドリーでデイリー飲みにもよさそうだ。さまざまな理由によりワイン価格が軒並み高騰する中、安定した国内市場に支えられるルーマニアのワインは、ヴィナルテ社を筆頭に非常に高いコストパフォーマンスを誇ることも見逃せない。古くて新しい産地、ルーマニアを選択肢に入れてみてはどうだろう。



Photo:Romavino, Hiromi Tani