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谷宏美

日本在住/フリーランス ライター

エディター/ライター。ファッション誌の美容エディターを経て、2017年よりフリーに。渋谷のワインバー「ローディ」で店の仕入れや現場でのサービスをやりつつ、ワイン&ビューティの分野で取材・執筆を行なう。J.S.A.認定ワインエキスパート。バタークリームとあんこは飲み物。

2024.04.18
column

森 覚ソムリエがナビする「獺祭ディナー」で知る、磨き抜かれた酒のペアリングの可能性

アンダーズ 東京のザ タヴァン グリル&ラウンジで、森 覚ソムリエのナビゲートのもとに国内外で人気の日本酒「獺祭」を楽しむディナーが開催された。製造元の旭酒造より代表取締役社長で四代目蔵元の桜井一宏氏を迎え、フラッグシップである純米大吟醸磨き二割三分をはじめとした銘酒と、平久江 裕シェフによる料理とのペアリングを体験。ひと皿ごとに唸ったそのマリアージュをリポート。

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■森 覚ソムリエが蔵元を迎えての「獺祭ディナー」

最高品質の山田錦を磨き上げて造られる獺祭。製造量の約半数は海外に輸出され、今年3月に韓国で開かれたアジアのベスト50レストランでも公式日本酒パートナーを務めるなど、海外でのそのプレゼンスは高まる一方。2023年9月にニューヨークに醸造所をオープンし、海外での製造を開始するなど話題に事欠かない日本酒ブランドである。

アンダーズ 東京 エグゼクティブ・ソムリエの森 覚氏は旭酒造をたびたび訪れ、獺祭をもっとも深く知るサービスマンのひとり。より品質の高い酒米を追求する「最高を超える山田錦プロジェクト」の審査にも加わったことがあるほどだ。そんな森ソムリエが主催するワインディナーシリーズ「Uncorked」として今回の獺祭ディナーが企画された。高精米の獺祭をザ タヴァン グリル&ラウンジのディナーと合わせて味わってもらう趣向だ。

用意された獺祭は以下。

1. 純米大吟醸45 にごりスパークリング
2. 美酔 純米大吟醸 磨き二割三分
3. 純米大吟醸 磨き二割三分
4. 磨き その先へ
5. 本格梅酒 磨き二割三分仕込み

■リズム感のあるペアリング5種

キャビアと豆腐マスカルポーネ
苺のガスパチョ
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純米大吟醸45 にごりスパークリング

まずは、人気の高いにごりスパークリングで乾杯。精米歩合45%の山田錦を搾り、別建てのタンクで仕込んだもろみを再添加することで瓶内二次発酵を促した、本格的かつ手間暇をかけて造られたスパークリング日本酒である。泡とともに立ち上る華やかな香り、白濁しながらも清涼感のある味わいは獺祭ならでは。

キメの細かい泡の心地よい食感と米由来のほんのりとした甘みが、なめらかな豆腐マスカルポーネや酸味のあるイチゴのスープに溶け合う。完璧なペアリングコースを予感させるスターターである。

帆立のクルード
八朔 蕪 パセリ 蜜柑
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美酔 純米大吟醸 磨き二割三分

低アルコールで楽しめる獺祭を造りたいと20年もの年月をかけて開発されたのが、アルコール度数10度の美酔。発酵の初期段階において片時も目を離さず様子を見ながら、緻密で繊細な温度管理と汲み水の管理を続け、35日前後という長期でスローな発酵期間を経て搾り、瓶詰め。発酵を途中で止めたり加水したりせず、11度に満たないのに香り高い純米大吟醸の品格を備えた酒が生まれたのだそう。

骨格がありながらフルーティで軽やかな酒に、身の柔らかな帆立貝。ハッサクのドレッシングで酸味と苦みをプラスして、複層的な味わいに仕立てた。

平目のロースト
白味噌 ゴルゴンゾーラ 蕗の薹
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純米大吟醸 磨き二割三分

獺祭ブランドを世界に知らしめたフラッグシップがこちら。上質な山田錦をおよそ90時間かけて23%で磨き、小さなタンクで仕込む。中心になるほど割れやすく、とくに線状の心白をもつ山田錦はとりわけに磨く必要がある。中取りから選んださ小タンクで仕込み、上槽では遠心分離器をいち早く導入。妥協を許さないテイスティングを毎日行ない、選び抜かれたロットだけが「純米大吟醸 磨き二割三分」として瓶詰めされる。「上品な香りとキレイな甘みがあり、すうっと口中に入ってゆく。そんな透明感のある味わいを大切にしている」と桜井社長。

合わせたのは、身が締まったヒラメの肉質を感じられるようにローストしたものに白味噌のブールブランソース。さらにコニャック風味のギョウジャニンニクとフキノトウのペーストを添えて。清らかな酒と多面的な味わいの魚料理とのハーモニーを楽しめる。

雪室ドライエイジビーフ テンダーロインのグリル
海老芋 山椒 九条葱
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磨き その先へ

完成された「純米大吟醸 磨き二割三分」を超越し、かつ異なる方向性で造られたプレステージ日本酒。高精米に耐えうる卓越した米を選び、仕込んで中取りのみを抽出して遠心分離で搾り、バランスを見ながら最大限にクリアな味わいとなるようブレンド。醸造中は可能な限り空気に触れないよう仕込んだ進化系の日本酒が「磨き その先へ」。米由来のうま味がありながら澄み切った、ひっかかるところのないクリアな味わい。水のように飲めてしまうという点では、日本を超えているといえるかもしれない。

このような酒なら肉にも合わせることが可能。雪の中で熟成させた牛ヒレ肉のグリルに牛のストックと醤油、オイスターソースをフレンドした山椒のソース、長ネギの色と香りをつけたオランデーズソース、さらに長ネギの香りだけを牛乳に移して泡立てたソース、と多面的な構成のソースを添えた。ガルニはかつおだしで煮含めた海老芋のソテーでこれも美味。熟成した肉と複雑な味わいのソースが、この上ない酒の透明感を引き出す見事なペアリングだ。

ここで森ソムリエの粋な計らいにより、サプライズで「DASSAI BLUE」が供された。会長の桜井博志がニューヨークに移住して準備を進め、23年9月に完成した酒蔵で造られた、ニューヨーク産の獺祭である。現場は3人の日本人スタッフと現地採用のアメリカ人6名の9名のチーム。現状は日本産の山田錦を用いて、ニューヨークの硬水を使って製造している。

桜井社長はこのプロジェクトの狙いについて、「今回のペアリングでもわかるように、日本酒は日本食のみならずさまざまな食事に合うもの。多くの人や文化が集まるニューヨークで酒造りをすることで、それを体感してもらいたい」と語った。獺祭のもつ透明感がありながら、ミネラルを感じさせるソリッドな印象だ。DASSAI BLUEはこの4月23日より、日本国名でも数量限定で発売されるので要チェック。

ブラックフォレスト
チョコレートクリーム チェリージェリー チョコレートソース
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本格梅酒 磨き二割三分仕込み

ロゼのような色合いの梅酒に合わせ、シェフパティシエのノルマン・ジュビン氏が手がけたのは、「黒い森」と題したチョコレートベースのデザート。最上級の南高梅を磨き二割三分で仕込み、豊かな梅の果実感と酸がしっかりとある芳醇な梅酒に、濃厚なダークチョコレートやアマレナチェリーの甘みが織りなすハーモニーが見事。梅酒にチョコレートという意外性を形にした。

梅のフレーバーの奥に磨き二割三分の骨格を感じられ、余韻を楽しみながら珠玉のディナーを締めくくる。

平久江 裕シェフ(右)とノルマン・ジュビン シェフパティシエ。

森ソムリエと平久江シェフ、ジュビンシェフがテイスティングしながら決定したというペアリングは、香りや食感、提供温度も含めバランスとリズム感があり、心地よく杯と皿が進む。ひと皿ひと皿が獺祭の味わいを際立たせるのはもちろんのこと、コースを通してのフローを完璧に計算してあるのがさすがだ。磨き抜かれた純米大吟醸だからこそ、洗練された西洋料理に合う。つねに進化しつつある獺祭であるが、限りないペアリングの可能性をもつことをあらためて知る貴重なディナーであった。

獺祭 https://www.asahishuzo.ne.jp/
アンダーズ 東京 https://www.andaztokyo.jp/restaurants/jp/