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山田マミ

日本在住/ワインフィッター®/La coccinelle 代表

フランス留学をきっかけに、ワインとの出会い。フレンチレストラン店長、ワインインポーター、webワインショップのライターを経て独立、2013年よりワイン販売業を開始。これまでになかったワインの職業名【ワインフィッター®】を商標登録。企業向けワインイベントのプロデュースや、店舗をも持たず在庫を持たず、お一人おひとりのニーズに合わせた全く新しいシステムのワイン小売販売を行っている。自身の経験を生かし、ワインフィッター®という新しい働き方の普及にも力を注ぐ。 https://www.lacoccinelle-vin.com/

2020.07.06
column

【連載 第11回】CAVE D’OCCI 掛川 史人 × JULIA 本橋 健一郎 ゼロから挑むシードル造り 〜スライダーに捧ぐ味を求めて〜  待望のファーストヴィンテージリリース! ZOOMオンラインお披露目会

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『一緒にシードル、造っちゃおうか?』

この言葉から第1回がスタートした本連載。新潟の人気ワイナリーの醸造長でありワイン醸造経験は約20年という掛川史人と、ペアリングの名店として知られる東京・神宮前のレストランJULIAのオーナーでありこちらもソムリエ経験は約20年という本橋健一郎が、ともに人生初となるシードル造りに挑んだ1年3カ月。冒頭の言葉のようないわゆる“軽いノリ”では済まなかったさまざまな試行錯誤を乗り越えて、ついに2020年6月5日に発売の日を迎えた。名前は、「FROM SCRATCH(フロム・スクラッチ)2019」。「ゼロから」を意味する本連載のタイトルでもある。

瓶詰めされた年明け当初、リリースに先行して4月下旬には一般客を招いたお披露目パーティーが予定されていた。予約受付スタートからわずかな期間で満員御礼となり、このプロジェクトの注目度の高さを伺わせた。掛川、本橋もその期待に応えるべく、瓶詰めされてからもたびたび試飲を重ね、提供に最適な温度やスライダー以外の料理との相性など、出来上がったシードルの魅力を最大限伝えられるようにと準備を進めていた。

しかし残念ながら、新型コロナウイルス感染防止策による東京都の緊急事態宣言を受け、無期限の延期に。惜しむ声が多く寄せられるなか、同日に取り急ぎオンラインでリリース報告だけでも、という案も出されたが、

「お客様が望んだイメージのまま、最高のカタチでこのシードルを共有したい。一年間応援してくれた感謝を中途半端には伝えたくない」。

そう強く望んだのは本橋だった。やっと完成したというふたりの自己満足ではなく、お客様が望んでいたカタチで口に運んでほしい。接客業歴20年の本橋らしい信念に共感した掛川もシードルの発売日自体の延期を決定して、改めてお披露目会企画を練り直すこととなった。

会えなくても
お客様と最高の乾杯

6月初旬。自粛緩和の空気を少しずつ感じ始めるもまだリアルイベントの開催は叶わず、ZOOMオンラインお披露目会を企画したふたり。6月5日の発売日と同時に参加希望者には事前に完成したシードルを届け、画面越しではあるが1年3カ月に及ぶシードル造りへの思いと感謝を伝えた。乾杯の発声は掛川から、

「僕たちのシードルがついに完成しました。
リアルイベントは今後必ず開催しますがその前にオンラインで、見守ってくださった皆さんに感謝を込めて……乾杯!」

メンバー以外の口に初めて完成したシードルが運ばれる瞬間。ふたりは画面越しでも伝わるほど緊張した面持ちでこの瞬間を見守る。しばしの沈黙。そして、参加者からは口々に「おいしい!」「飲みやすい!」の声が次々に発せられた。それを聞いて安堵の表情のふたり。

お客様の声:
「ほのかな甘みと青みのバランスがとてもおいしいです。
泡なしで造ったとのことですが、次回はぜひ泡ありも飲んでみたい!」
「最初は冷やしめでしたが、温度が上がるにつれてよい苦みが出てきて、リンゴの甘みを感じるようになった。お魚料理と飲んでいますがとてもマッチします」。

感想としていちばん多く聞かれたのは、泡なしということもあって「白ワインみたい!」という声。ポークBBQソース味のスライダーに合わせるというコンセプトからできる限り上品にあっさりと、しかし口に入れた瞬間からミドル、アフターにかけて味わいの軸をしっかりと保ち、リンゴの存在感を出すことを心がけた成果を感じてもらえたようだった。

ここで本橋が、
「僕がこれからJULIAで提供するときは常温で出そうと思っています。その方がリンゴを感じられるし、さらに大きめのグラスで楽しんでもらいたい。そしてみなさん、掛川くんが少し濁りを残して瓶詰めしたのでちょっと振って、もう一回飲んでみて!」

と、泡なしのスティルタイプで造ったシードルならではの楽しみ方を伝える。
参加者それぞれが瓶底を眺めながらグルグルと軽く振り、再度グラスへ注ぐ。画面越しでもそんなコミュニケーションを図りながら、完成の喜びを分かち合う時間となった。


振り返れば
試行錯誤の連続

会の中盤では、これまでの本連載10回をwebと誌面で紹介した画像とともに、
掛川、本橋が当時の心境を語り合う対談形式で伝えた。

1年前の懐かしい画像を前に、「まずは国産シードルと海外シードルを15種類くらいの飲み比べをして、市場に出ているシードルの味わいを知ることから始めたんだよね。いろいろ試すなかで、じゃあ僕たちが造る意味ってなんだろう? って、ずっと考えていた」と本橋。そして掛川は「このときはまだ『俺、やれる』って思っていた(笑)。完全に甘かったけどね」と恥ずかしそうにはにかむ。

その自信が完全に裏切られた初回仕込みのロットの試飲を振り返って掛川は、「とにかくまずかった! 笑 いやな匂いと味のしない液体……これはちょっとどうにもならないなと思っていました」と振り返る。それに対して本橋は「正直、いまだから言えるけど、え? 掛川くんどうした? って、思っていたよ。笑 掛ける言葉に困ったね……」と告白。しかしむしろ、そんな危機的状況をいまこうして笑い話として語り合えることを喜んでいるような和やかな対談だった。


2年目への思い
新しい挑戦と発見に期待

一般の参加者のほかこのプロジェクトを同業者としてプロ目線で見守っていた醸造家たちの参加もあり、より専門的な感想も寄せられた。

「JULIAのスライダーに合わせるシードル、それも泡なしでと聞いて果たしてどんな仕上がりになるだろうかとワクワクしていました。もし自分だったらどんなシードルに仕上げるだろう? って。感想は、みずみずしいトマトのような酸味とジューシーさ、うま味。味わいの中間部分はホエー(乳清)のようにまろやかで塩っけがある。低アルコールなこともあり非常に飲み口がよく気づけば1本開いてしまう、それでいて記憶に残る、いままでにない座標のシードルでした」。

「シードル試作中のワクワク感やどうしよう感、ホッとした感は造ることに携わっているからこそすごく頷けて、1年のドキュメンタリーを楽しく拝見していました。味わいの感想は、最後までリンゴを食べている感覚をなくさないで飲めるおいしいシードルでした。仕込み前に掛川さんが味の設計図を描いているのをみて、勉強になりました」。

日本におけるワイン造りは飛躍的な発展を遂げているとはいえその歴史はまだ浅い。しかしながらシードル造りに至ってはさらに、醸造家にとって必要な情報や指南書はまだまだ極めて少ない。本連載の第1回は「このプロジェクトは、決してハッピーエンドは約束されていない。彼らの試行錯誤と葛藤、そして予測不可能な落胆と歓喜の瞬間を、リアルタイムで読者のみなさんにお伝えしたい」という文言とともにスタートしたが、2年目からも彼らの試行錯誤が一般消費者に向けてだけでなく、シードル造りに携わるプロフェッショナルたちにとっても有意義なものになることを、掛川、本橋は願っている。

ふたりは最後にこう締めくくった。

掛川「いまのシードル造りの現状は、日本ワインの初期の頃に似ています。原料に関しても造りについてもいろんなことが似ていると思っていて、そしてこれからもっとおもしろくなると思っています。これからも応援よろしくお願いします!」。

本橋「僕は醸造家じゃないし、シードル業界にいるわけでもないからこそ、鋭いキラーパスを出すのが僕の仕事だと思っていて。笑 新しい発見や挑戦をどんどん提案していけたらと思います。それにしても……、やっぱり皆さんの顔が近くで見えないなか喋るこのオンラインスタイルはちょっと苦手だなぁ……。本当に、早く皆さんとリアルイベントしたいです!!」。



次回は……
WEB連載 第12回「2年目の始動。掛川史人、リンゴ農家を訪ねる」。

Text & Photo : Mami Yamada