岩本順子 Junko Iwamoto
ドイツ在住/ ライター・翻訳家
ライター・翻訳家。ドイツ、ハンブルク在住。1999年にドイツの醸造所で研修。2013年にWSETディプロマ取得。現在ドイツの日本語新聞「ニュースダイジェスト」に「ドイツワイン・ナビゲーター」「ドイツ・ゼクト物語」を連載中。 http://www.junkoiwamoto.com
「オーストリアの個性派ワイン2 ヴェルシュリースリング」〜ドイツ・ハンブルク発 世界のワイン情報 vol.27
2004年に初めてブラジルのワイン生産地に出かけたとき、 リースリング・イタリコ種から造られた白ワインをたびたび味わった。控えめでニュートラルな風味だが、透明感と爽快感にあふれる白ワインだ。
リースリング・イタリコは名前が示すように、イタリア北部原産種ではないかと推定されている。ブラジルには、ワイン産業を担っているイタリア人移民がもたらした。シャンパーニュ地方原産説もあるようだが、本当のことはわかっていない。
リースリング・イタリコは、オーストリアのヴェルシュリースリング(Welschriesling)、ハンガリーのオラスリーズリング(Olaszriesling)、スロヴェニアのラスキ・リースリング(Laski Rizling)、ルーマニアのリースリング・イタリアン(Riesling Italian)と同一品種である。ほかにも、セルビア、クロアチア、スロヴァキア、チェコ、スペインなどで栽培されている。ドイツ、モーゼル地方で栽培されているエルプリングの近縁種だそうだが、ドイツを代表するリースリング種とはまったくの別種だ。
ドイツでリースリング・イタリコ=ヴェルシュリースリングのワインと出会う機会はあまりない。個人的にはブラジルでのほか、デュッセルドルフで毎年開催される世界最大規模のワイン見本市「ProWein」の会場で、スロヴェニア産を集中的に試飲した経験しかない。オーストリアワインの試飲会では、造り手はヴェルシュリースリングを持参していないケースが多い。
ブラジルでは減少傾向にあるようだ。ブラジルのワイン産地には、定期的に訪れているが、行くたびにリースリング・イタリコを見つけるのがむずかしくなっている。そんな中で、リースリング・イタリコ(以下RI)をつねにベースワインに使用しているのがシャンドン・ド・ブラジルだ。最高品質の「エクセレンス」はピノ・ノワール(以下PN)とシャルドネ(以下Ch)のアッサンブラージュだが、売れ筋である「レゼルヴ」の白(PN35%、RI35%、Ch30%)とロゼ(PN45%うち10%は赤ワイン、RI30%、Ch25%)、白のデミセック「リッシェ」(RI75%、PN15%、Ch15%)の3アイテムにリースリング・イタリコが使われている。同社ではリースリング・イタリコをブラジル産スパークリングワインの個性となる重要な品種であると位置付けている。
いつだったか、ヴェルシュリースリングについてもっと知りたいと思い、オーストリアワインのマーケティング会社にコンタクトを取ってみたことがあるが、あまり情報を得ることができなかった。主要栽培国であるのに、さほど重要視されていないようで驚いた。
しかし、オーストリアにおけるヴェルシュリースリングの栽培面積は3300ヘクタール(2017年)で、総栽培面積の7パーセントに達しており、決して少数派ではない。白品種においては、グリューナー・フェルトリーナーに次いで多く栽培されている。それなのに不思議なくらい存在感が感じられない。ちなみにリースリングの栽培面積は約2000ヘクタールだが、ヴェルシュリースリングよりも存在感がある。
ヴェルシュリースリングは酸味が豊かな品種で、ゼクトの生産に向くと言われる。しかし、オーストリア・ゼクト委員会(Österreichisches Sektkomitee)によると、ゼクトのメジャー品種はブルゴーニュ系品種、次いでリースリング、グリューナー・フェルトリーナーなのだという。ヴェルシュリースリングは単独で醸造されるケースもあるが、アッサンブラージュされることが多いそうだ。その一方で、ヴェルシュリースリングはプレディカーツワイン(肩書き付きワイン)にも向くと言われ、ベーレンアウスレーゼやトロッケンベーレンアウスレーゼなども造られる。オーストリアでは、ニーダーエスタライヒ、ブルゲンランド、シュタイアーマルクで栽培されている。暖かい土壌が向き、乾燥に弱いため、水分供給に細やかな配慮が必要だという。
昨秋のライタベルクDACとアイゼンベルクDACの合同試飲会で知り合った、ヤリッツ醸造所(Weingut Jalits)、グロッス醸造所(Weingut Grosz)そしてポラー醸造所(Weingut Poller)の3醸造所が、ヴェルシュリースリングも生産しているため、ウーフードラーと一緒に取り寄せてみた。以下、簡単にご紹介する。
Jalits Welchriesling 2018 (12.5%vol.)
リンゴ、柑橘類、とくにビターオレンジの風味。イキイキとしているが、丸く柔らかな酸味。充分な余韻と充実した味わい。
Grosz Welschriesling 2018 (12%vol.)
青リンゴ、レモンなど柑橘系の風味。爽やかで尖りのない酸味、ほのかなうま味、軽快な後味。
Poller Welschriesling 2019 (11,5%vol.)
ほのかなフローラル系の香り、柑橘系の風味。軽やかな酸味。浮遊感を感じるワイン。
いずれもステンレスタンク醸造。控えめな風味なのでさまざまな食事に合わせやすく、酸味も程よく、軽快で親しみやすい。ヴェルシュリースリングという名前が、少し近づきがたい印象を与えるかもしれないが、現代人の嗜好には合いそうだ。おそらく、これから再発見されていくワインなのだろう。
Weingut Jalits / Badersdorf
Mathias Jalits
www.jalits.at
Weingut Grosz / Gaas
Andreas Grosz
www.weingut-grosz.at
Weingut Poller / Deutsch-Schützen
Helmut Poller
www.weingut-poller.at
Text & Photo:Junko Iwamoto