山田マミ
日本在住/ワインフィッター®/La coccinelle 代表
フランス留学をきっかけに、ワインとの出会い。フレンチレストラン店長、ワインインポーター、webワインショップのライターを経て独立、2013年よりワイン販売業を開始。これまでになかったワインの職業名【ワインフィッター®】を商標登録。企業向けワインイベントのプロデュースや、店舗をも持たず在庫を持たず、お一人おひとりのニーズに合わせた全く新しいシステムのワイン小売販売を行っている。自身の経験を生かし、ワインフィッター®という新しい働き方の普及にも力を注ぐ。 https://www.lacoccinelle-vin.com/
【連載 第14回】CAVE D’OCCI 掛川 史人 × JULIA 本橋 健一郎 ゼロから挑むシードル造り〜 摘果で探るサステイナブル 〜 「さぁ今年はどうする?」味わいから思いまで、今年の方向性を話し合う
「今年は、摘果リンゴでシードル造りに挑戦」。
すでにその大きな目的へ向けて2年目のシードル造りをスタートさせた掛川 史人と本橋健一郎。しかし始動するやいなや、農薬の種類と散布のタイミングによりあわや原料である摘果リンゴの調達さえできない現実に直面した(詳細は、本誌100号掲載)。結局最悪の事態はまぬがれ、無事原料は調達できたものの、2年目とはいえまた「ゼロから挑む」意識で取り組む必要があると考えたふたり、今年の方向性を話し合うべく、8月某日、東京・神宮前のJULIAに集まった。
「ただ話し合うだけじゃつまらない。ちまたで評判のシードルを飲みながら、俺たちもテンション上げて行こうぜ!」。
集められた国内外のシードルは9種類。もちろんそこには彼らのファーストヴィンテージ「フロム・スクラッチ2019」も加えられた。
本橋 みずいろ! かわいい……笑
掛川 長野県東御市で昨年からスタートしたワイナリー、レ・ヴァン・ヴィヴァンさんのシードルです。クリアでキレイな味わいですね!
本橋 やっぱりラベルのインパクトも大事。今年のラベル、僕ちょっと考える!
じつはソムリエの前職は建築デザインに携わり、二級建築士資格をもつ本橋。味わいへのこだわりと同様、新たなラベルデザインへの意欲ものぞかせた。
掛川 北海道ドメーヌ モンさんのシードルは味わいが複雑。
本橋 食中酒として考えたら、ソムリエとしてはこの個性は嬉しい!
掛川 7種類くらいのリンゴを使っているみたいですね。摘果リンゴ100%で造れたらそれは理想的だけど、やっぱり複雑味や足りない味わいの要素を補うには、従来の収穫期に収穫されたリンゴもブレンドする必要がありそう。そうなると、摘果の仕込みがもうすぐで、従来の収穫期のリンゴはワインの仕込みが終わったあと、11月以降の仕込みとなるのか……スケジューリングも課題ですね。
本橋 さっぽろ藤野ワイナリーさんのブラムリーは酸味がすっごいね。俺、好き。笑
掛川 摘果リンゴ、これくらいの酸味の存在感が出ますかね?
本橋 やっぱり酸味って改めて大事。だからこそ僕らは「摘果」に注目したし、摘果ならではの個性を光らせたいな。
続いては海外産シードル。フランス、オーストリア、ジョージアから、リンゴ100%のスタンダードなものからホップ入りのビールテイストのものまで。
掛川 オーストリアのホップ入り、おいしいなー!
本橋 これはズルい! 反則的なうまさ。笑 ホップの苦みはみんな慣れているから、逆に心地よいよね。リンゴの苦みはシードルの厚みにとって必要かもしれないけど、リンゴってジュースのイメージで一般的な意識としては甘いものだから、どうやって心地よく受け入れてもらえるかは課題だよね。
そしてやっぱりフランス産のシードル、おいしいな〜。でも1年前は、海外産シードルは圧倒的に先を行っていて、ここを目指して! みたいな気持ちもあったけど、1年経って、僕ら含めて「日本のシードル」はいい意味で違う方向性の飲み物かなと思うようになった。
掛川 このオーストリア産みたいにワイナリーが造るシードルと、フランス産のシードルリーが造るシードルの違いを考えたとき、ひとつには酵母違いの可能性を探るのもおもしろいと思っています。今年はワイン用じゃなくてシードル専用酵母を使おうと思っていて、それが味わいや色合いにどんな影響を与えるのか興味深いですね。
そして最後に、昨年ふたりが丹精込めて造った「フロム・スクラッチ2019」を久しぶりに試飲。
掛川 ドキドキする……苦笑
本橋 お、いいじゃん! なんかね、うめー! っていうインパクトじゃなくて、落ち着く……。
掛川 やっぱりもうちょっとリンゴ感欲しいですよねー。
本橋 でもアタック、ミドル、アフター、どこも味わいが凹まないよ。いいの造ったよ、僕たち。
掛川 ……ですね・笑
昨年は泡なし(スティル)という選択をしたふたり、今年はいよいよスパークリングタイプを造る予定とのこと。本橋はさらに食前酒、食中酒、食後酒をイメージした甘さ違いを造りたいという希望も。最後にふたりから今年の造りに対して抱負が語られた。
本橋 世界観や時間がその先に広がるものが「おいしい」だと思っていて、合わせたい料理や飲みたいシチュエーションが浮かぶ味にしたいな。
掛川 華やかな香り、リンゴを感じる果実味、余韻を感じる酸がある、を目指したいですね。
サブタイトルに込めた
思いとは?
1年目のサブタイトルは「スライダーに捧ぐ味を求めて」だった。2年目はすでにweb連載でも100号誌面でも記載のとおり「摘果で探るサステイナブル」。じつはこのサブタイトルが決定したのは、この日だった。
本橋 今年のサブタイトルどうする?
掛川 「摘果の可能性を探る」?
本橋 そうだね。本来廃棄して0円だった摘果が農家さんの利益になったり、シードルだけじゃなくて、料理に利用できたりしたらすごくおもしろいよね。
掛川 シードルプロジェクトとしてスタートしましたが、これは一種のソーシャルビジネスになったらいいですね。ソーシャルビジネスって、自分たちにはそれぞれ本業があるからここで利益を追求するというより、自分たちの本業で培ったノウハウや人のつながりを駆使して、いかに人の役に立てるかという考え方で動けるので、会社経営や企業に属するだけの人間にはできない取り組みとして僕はそこがとてもワクワクします。
本橋 わかった!じゃあ「サステイナブル」って言葉どう?
掛川 おーキター! 降りてきましたね、キーワード・笑 摘果を利用することがおいしいシードルを造るためだけじゃなくて、農家さんの収益向上になったり、たとえばそこで生まれる作業が障害者雇用につながったり、そんな可能性も見えてきたら、さらに意味のあることかもしれませんね。
本橋 摘果を加工用リンゴとしてデザートに利用したり、野菜と捉えてメニュー開発したり、フードロス問題にもつながるサステイナブルだよね。
掛川 えっと……、だんだん話が大きくなってきましたが……、何より「摘果シードルおいしいね!」ってならないと、この挑戦の意味がなくなってしまうので……、まずは今年の仕込み、全力でがんばりますね・苦笑
※各ワイナリー様、インポーター様、どれも大変おいしくいただきました!
ありがとうございました。
次回は……
11月上旬リリース予定
web連載 第15回「いよいよ摘果シードル仕込み当日!」
Text、Photo:Mami Yamada