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山田マミ

日本在住/ワインフィッター®/La coccinelle 代表

フランス留学をきっかけに、ワインとの出会い。フレンチレストラン店長、ワインインポーター、webワインショップのライターを経て独立、2013年よりワイン販売業を開始。これまでになかったワインの職業名【ワインフィッター®】を商標登録。企業向けワインイベントのプロデュースや、店舗をも持たず在庫を持たず、お一人おひとりのニーズに合わせた全く新しいシステムのワイン小売販売を行っている。自身の経験を生かし、ワインフィッター®という新しい働き方の普及にも力を注ぐ。 https://www.lacoccinelle-vin.com/

2020.11.09
column

【連載 第15回】CAVE D’OCCI 掛川 史人 × JULIA 本橋 健一郎 ゼロから挑むシードル造り〜 摘果で探るサステイナブル 〜 いよいよ摘果シードル仕込み当日 シードル造りの手順を現場からレポート!

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「来たねー!!! 摘果リンゴ!」。

9月上旬、本橋健一郎は掛川史人が待つ新潟のカーブドッチワイナリーを訪問、ふたりはいよいよ摘果シードルの仕込みの日を迎えた。

昨年の仕込みは10月下旬だったので、約1カ月半早い。本橋が醸造所に到着すると、摘果リンゴがところ狭しと山積みにされていた。長野の小林果樹園の紹介で手配された「ふじ」の摘果果が約700kg、そして今年もリンゴ専用の破砕機と搾汁機を借りることとなった青森のワイナリーの紹介で、青森産の同じく「ふじ」の摘果果が約500kg。さらに、長野からは生食用ではなくおもに受粉樹として知られる赤い小粒の品種「ドルコクラブ」が約100kg到着していた。

摘果とは、生食用として良質な実を得るために第一摘果でまず5つの実のうち4つが落とされ、さらにその後も傷んでいるものや形の悪いものを落としていく作業。最終的には3回ほどの摘果作業を経てじつに約9割もの実が落とされるという。今回、長野と青森から到着した摘果果は8月中旬から下旬に、第一摘果から第二摘果として収穫されたもの。というわけでサイズや形もさまざま。

掛川 意外と甘い! これが本来、全部捨てられるはずだったリンゴだと思うと、なんか感慨深いな……。海外では普通にこんな形の悪いリンゴでもお店で売っているよね・苦笑

本橋 この赤いやつは、相当酸っぱい!! 食感はスポンジみたいで水分が少なめ。絞ったら液体はちゃんと出るのかな……?

長野から到着したおもに受粉樹として知られる赤い小粒の品種「ドルコクラブ」。摘果果ではないが、ジャムなど加工用にされるほど強い酸味をもつこの品種の特徴をシードルの味わいに活かせればと、同時に仕込むことにした。

まずは全員でリンゴの洗浄から。もちろん手洗い。昨年10月下旬に醸造所内でのこの作業は寒さとの戦いだったが、この日の外気温は30度近く。ひんやりと気持ちのよい作業ではあるが、合計1200kgを超えるリンゴの手洗いは重労働であることには変わりない。

本橋 みなさん、今年の仕込みスタートします! よろしくお願いします!

それは始球式さながら、本橋の手からひとつ目の摘果果が破砕機に投入された。BGMは昨年と同じく東京スカパラダイスオーケストラ。拍手と笑い声、テンションの上がる音楽に包まれた醸造所内、それぞれが大きな期待と少しの緊張を胸にいよいよ2年目の仕込み作業がスタート。

破砕機は、筒状の空間へ上部からリンゴを丸ごと投入すると、下からすりおろされた状態で出てくるしくみ。破砕機から出たすりおろされたリンゴを搾汁機へ移すのは手作業。慣れてくると一日で2000〜3000kgのリンゴの搾汁が可能だというが、ワイン造りに比べると手作業に頼る工程が多い。木製の板に正方形のセルクル型、その上にナイロン製の布を敷き、シャベルですりおろしリンゴを型に入れる。布で包んでセルクル型を取り、その上にまた板を乗せ……という同様の作業を7段繰り返す。

7段重ね終えたら内部へスライドさせ、スイッチを入れると徐々に持ち上がり圧力をかけて搾汁する仕組み。効率よく搾汁するためにバランスよく重ねること、一段ずつ適量であることなど、単純作業ながら少しのコツを要する。

記念すべき、摘果一番搾り果汁!
ここはやはり醸造長である掛川が、みなを代表してまずは試飲。
さて、はじめての摘果果汁、その味わいの感想は……?

掛川 トマトっぽい!!・笑
本橋 え? トマト?! ほんとだ、青トマトだね! あとからビネガー感がすごい。香りも果実じゃなくて野菜感がある。
掛川 SO2を少しグラスに入れてみましょうか。酸化が少し和らいだら味が変わるかも?
本橋 あ、SO2入れるとぐっとリンゴ感が増すね!
掛川 リンゴ感を残せるように、果汁の段階で少しのSO2投入を検討しましょうかね。

ソムリエの舌と醸造家の腕、搾汁の段階から早くも完成のイメージへ向けて息の合った連携をみせた。

搾汁直後からの酸化を少しでも防ぐために、容器上部に炭酸ガスを充填しながら搾汁作業は続けられる。

掛川はさらに詳しい果汁の状態を知るため、搾汁現場を離れ果汁の糖度と酸度を計測へ。長野ふじ摘果、青森ふじ摘果、それぞれの数値化は以下のとおり。

長野ふじ摘果:糖度9.5、酸度6.3、ph3.4
青森ふじ摘果:糖度10、酸度5.29、ph3.45

掛川 摘果だけど、思ったより糖度が高いなー! 発酵には充分な糖度。そして酸度は思ったより低いけど、液体の色が昨年よりも濃いのでフェノール成分は多いかも。

そのころ本橋は、ひたすら搾汁機の作業を続けていた。40分が経過して200〜300kgを絞り終えただろうか。まだまだ全体量の5分の1ほど……。

本橋 この作業……果てしない……・苦笑。

本橋の手は徐々に赤茶色に変色していた。昨年も同様の作業を行なったが、これほどまでに変色した記憶はない。やはり掛川の言うように摘果果ならではのフェノール成分が皮、種、芯には生食用リンゴよりも多く含まれていることが予想された。

順調に果汁が絞られると同時に、大量の「絞りカス」も溜まる。

nao これ、何かの料理に利用できないかなー。
本橋 廃棄されるはずの摘果果を絞ったさらにそのカスを廃棄せず再利用って、まさにサステイナブル。
nao このまま乾燥させたらナッツみたいな風味になるかな? シリアルバーとかどう?
本橋 悪くないかもね。

しばしの休憩時間。3人は、今年のシードル造りに使用する酵母の種類を相談していた。

掛川 ワインの発酵には通常セルビシエという種類の酵母を使用するんですが、昨年のシードルにはワイン用と同じセルビシエを使いました。今回じつは、昨年のプロフェッショナル座談会でお世話になったインサイダージャパンのリー・リーブさんからシードル専用酵母(※1)を分けていただいて、それはバイアヌスという種類の酵母になります。バイアヌスの方がセルビシエより発酵力が弱くゆっくり発酵するのが特徴ですが、シードルらしい風味になるのか試してみようと思います。

掛川が譲り受けたシードル専用酵母は4種類あり、香りの成分もアップル、バナナ、フローラル系などさまざま、さらに専門的な特徴ではS02耐性や発酵の速度、酸の消費量などによって違うタイプの4種類だった。

本橋 今年はシードル専用酵母の特徴を知る意味でも、香りや味わいのテイストはいちばんスタンダードなタイプを使おう!

昨年同様リンゴの種類によっていくつかのロットに分けて発酵、のちにブレンドする予定だが、ロットごとに酵母を変えると最終的な味わいの違いが酵母由来かほかの要素かがわからなくなるという話し合いの末、すべてのロットに同じ酵母を使うこととなった。

いよいよ仕込みも終盤。赤い小粒の品種「ドルコクラブ」の搾汁を残すだけとなった。

本橋 キレイな色だね! そして酸っぱい!
掛川 早摘みのブドウ果汁って言われても分かりませんね。ただ液体が少ないので搾汁率が50%以下くらいかな……。果たして最終的な味わいにアクセントを与えるほど造れるかどうか?!

ついに約1200kg、搾汁完了!
絞られた果汁は約760リットル、搾汁率は約64%。水分が少ないと思われた摘果果としては予想よりも多い。透明度の高い果汁を得るため、しばしこのまま冷蔵環境で清澄する。というわけで、本橋とnaoが参加してのこの日の作業は無事に終了した。

本橋 掛川くん、おいしく造ってね! よろしくお願いします!!

後日、掛川レポートより

【9月11日】

搾汁5日後、無事に果汁清澄が終わったので、これから発酵に入ります。長野ふじ摘果、青森ふじ摘果、それぞれを混ぜたもの、赤いドルコクラブ、の4ロットに分けて発酵スタートします。

【9月17日】

発酵から約1週間、テイスティングしてみました。
長野摘果:リンゴジュース、カリン、綿菓子の香り。まだ糖分を感じるけど酸味がしっかりある。渋みあり。
青森摘果:香りおとなしい。リンゴジュース。トマトジュース感は無くなりました。糖分が高いのか、酸味はそんなに感じない。味の密度が高い。アフターにかすかな渋み。
ドルコクラブ:濃密な香りと味わい。リンゴタルトの香り。酸が高い。

【9月21日】

まだ還元していますが、その奥にはリンゴの香り。味は糖分ほぼなくなって、予想通りの太い酸、真ん中のタンニンがいます。

【10月5日】

よい感じがします! 香りはまた還元になってしまいましたが、ミドルにしっかりとしたタンニン由来のボディとキレイな酸があります。これにシナノゴールドで香りをつけられたら最高ですね。

次回は……
12月4日発売 ワイナート101号
連載 第16回「摘果シードルを農家さんと飲む!」

(※1) シードル専用酵母「SafCider」
お問い合わせ:インサイダージャパン 
https://www.inciderjapan.com/

Text & Photo:Mami Yamada