• Top
  • Column
  • ヌーヴォーだけじゃない! ボージョレワイン

綿引まゆみ

日本在住/ワインジャーナリスト

会社員を経て、フリーランスのワインジャーナリストへ。ワイナート本誌のほか、ライフスタイル誌、オンラインメディアなどに執筆。ビアソムリエ(JBSA)、チーズプロフェッショナル(CPA)、コーヒー&ティーアドバイザー(ADRJ)。公式ブログ:https://blog.goo.ne.jp/may_w/

2020.12.03
column

ヌーヴォーだけじゃない! ボージョレワイン

11月第3木曜日は、フランス・ボージョレ地区の新酒ワイン「ボージョレ・ヌーヴォー」の解禁日である。世界最大のボージョレ・ヌーヴォーの輸出先である日本では、毎年の解禁日にはボージョレ委員会から会長らが来日し、解禁イベントを開催していた。しかし、今年は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、ボージョレ委員会の会長や生産者らがオンラインで2020年の収穫状況やボージョレワインの魅力を紹介した。

  • facebook
  • twitter
  • line



多様性が魅力の
ボージョレワイン

ボージョレ委員会の現会長は、ボージョレのモルゴンで14代続くドメーヌを経営するドミニク・ピロン氏である。

ボージョレ委員会会長のドミニク・ピロン氏。



ボージョレのワイン生産量のうち3分の1がヌーヴォーで、3分の2はヌーヴォー以外のワインである。ピロン会長によると、2019年の世界の赤ワイン消費が12%ダウンした中、ボージョレ全体では6%の成長をみせたという。その理由を会長は次のように説明する。

「ヌーヴォーは年々品質が向上し、ロゼも加わって多様化し、お祭り的な要素がいつもあるため人気で、解禁日の週は2500万本が売れます。ヌーヴォー以外のワインは、ここ20年で高品質化が進みました。

また、ボージョレには、AOCボージョレとAOCボージョレ・ヴィラージュ、10のAOCクリュ・ボージョレがあります。前者ふたつには、赤だけでなく、ロゼや白もありますので、ワインに多様性があります。10のクリュ・ボージョレワインにも、ボージョレのテロワールの豊かさから来る多様性があります」。

「現代の消費者は、ワインに凝縮感を求めるのではなく、フレッシュさ、上品さ、エレガントなものを求めています。12のボージョレのAOCワインには、フィネスやエレガントさがありますので、世界の嗜好に合っている、それが成長の理由だと思います」。

ワインの品質が上がったことと多様性が、ボージョレ躍進の鍵といえよう。

2020年のボージョレ・ヌーヴォーは
究極のミレジム?


新型コロナウイルス感染拡大の影響があり、生産者には大変苦労した年になったが、ワインは素晴らしい年になったという。

ピロン会長いわく「20年は大変成功した年です。いわゆる典型的な年ではないが、素晴らしい年なので、飲まないと残念なヴィンテージです」。

20年は春から暖かかったことでブドウの成長が早く進み、夏が暑く乾燥していたこともブドウの成熟を促した。

「ブドウの熟し方は素晴らしく、例年より3週間早く収穫が始まり、9月中旬までにすべて収穫が終了しました。早く収穫できたので、11月19日の解禁日までには充分な時間があり、いいボージョレ・ヌーヴォーができたと思います」。

ボージョレ・ヌーヴォーは1951年に初めて商品化され、半世紀で拡大したワインである。

「フランス国内ではお祭り気分で楽しむお酒で、とてもよく売れます。20年はコロナの影響で大きなイベント、パーティーができませんが、家族や友人、同僚などの小さなグループで、何回かにわけて楽しんでください」とピロン会長。

日本にはさまざまな生産者の多彩なボージョレ・ヌーヴォーが輸入されているが、今年は少人数で1本ずつていねいに楽しむ飲み方がよさそうだ。

10のクリュ・ボージョレから
ふたつを紹介


ボージョレのワイン産地はマコンの南からリヨンの北の間およそ南北55キロメートルにわたって広がっているが、地域名アペラシオンはボージョレ南部に、10のクリュ・ボージョレは北部に集中している。

クリュ・ボージョレのワインはそれぞれに特徴があるが、今回はサンタムールとモルゴンのふたつにフォーカスし、サンタムールのレストラン「Au 14 Février」のソムリエとして活躍する石塚裕介さんとワイン生産者が紹介してくれた。

「地質の性質をデリケートに反映するガメイ種の特性により、ボージョレには多種多様なワインが存在しています。2009 年からボージョレワイン委員会の依頼で行なわれた10 年に渡る地質調査により、以前は経験的に感じていた隣人のワインとの違いがより鮮明にわかるようになりました」と石塚さん。


■Saint-Amour サン・タムール

10のクリュの最北部に位置し、2番目に小さいクリュである。複雑でバラエティに富んだ15の地質が見られるが、傾斜度はあまり強くない土地である。
ワインは、花や赤いベリー類の華やかなアロマがあり、軽やかで喉ごしがよいタイプ、キルシュやスパイスのアロマがあり、力強くて複雑味のあるタイプの2種類がある。

18年ヴィンテージは、おもにイチゴ、キイチゴ、カシスの風味があり、やわらかくキレイな酸が特徴。キレイな酸があるので、色々な料理に合わせやすく、豚、鶏などにおすすめ。

17年ヴィンテージは、量も質も揃った大変素晴らしい年。ブドウがよ良く熟し、バランスよく、つねに素晴らしい酸がある。黒い果実の風味があり、より味わいがリッチで、熟成が進んだ服雑味が出ている。

「18年ヴィンテージは、フレッシュでキレイな果実味があるので、少し冷やして飲むのがおすすめです。ひとくち、またひとくちと飲んでほしい。飲み疲れしないワインです。豚バラ肉の焼いたもの、焼き鳥に合うと思います」と、石塚さん。

筆者が試飲したサン・タムールは18年。香りが非常に豊かで、若々しい果実味が魅力的な、チャーミングなスタイル。タンニンの輪郭がクッキリとして引き締まり、酸がキレイでフレッシュ。これはたしかに飲み疲れしない。

■Morgon モルゴン

クリュ・ボージョレの中で2番目に広い耕作面積をもつクリュで、大きく3つのテロワールで構成される。土壌は多種多様だが、花崗岩が多く見られる。しっかりしたワインができるCôte du Py(コート・デュ・ピィ)では、ピエール・ブルーと呼ばれる青い石が特徴的。
モルゴンのワインは、サクランボや赤い果実、スパイスの香りがあり、肉付きがよく、濃厚でコクのあるものになる。早くから飲めるが、力強さがあるため、長期熟成にも向いている。

17年ヴィンテージは嵐や雹の害があり、むずかしい年だったが、素晴らしいワインができた。しっかりしているのに飲みやすく、シンプルに楽しめる。ジビエ、鴨、サッと焼いた牛肉などにおすすめ。

筆者が試飲したモルゴンは、15年のコート・デュ・ピィ。深みのあるグリオットの香りがあり、果実味も濃厚。酸が太く、骨格がしっかりしている。タンニンも充分だが、よく溶け込んでやわらかく馴染んでいる。時間とともに、だんだんと甘みが出てきて、飲みごたえたっぷり。熟成のうま味が出つつあり、非常に満足度の高いワインである。

新しいボージョレワインの
楽しみ方


日本では、ボージョレというと、やはりヌーヴォーのイメージが強いが、「ボージョレは高品質なワインである」ということを、ピロン会長は世界に伝えたいという。

ボージョレ委員会によるボージョレワインのカテゴリは以下の3つである。

1)お祭り的にみんなで楽しめるボージョレ
2)12のAOCの多様性を楽しむ個性豊かなボージョレ
3)特別な機会のための熟成を重ねた傑出したボージョレ

ボージョレ・ヌーヴォーは、1)お祭り的にみんなで楽しめるボージョレであり、よく知られているが、ほかふたつの認知度は、残念ながら高くない。

「ボージョレでは、若い造り手などによる色々な動きがあり、新しい物語が育っています。
若い造り手は我々にとって大事な存在で、色々な挑戦をしている彼らは、大きな可能性、能力をもっています」とピロン会長。

石塚さんも「ボージョレの造り手たちの方向性は明確です。品質がよくなければ激しい世界のワイン市場で生き残ることができないと、しっかり認識しています。ボージョレでいかに高品質ワインを造るか? 小さな造り手や若い造り手が、いかに個性を出し、自身が思う理想のワインを生み出せるか? 日々戦い、醸造方法や熟成方法は色々と試行錯誤されています。その造り手一人ひとりの思いが、ボージョレワインの多様性、多面性に繋がっています」と言う。

1年でもっともボージョレワインが注目されるボージョレ・ヌーヴォーの解禁日を迎えたが、今年は新型コロナウイルスの影響で人と会って酒を飲むのが容易ではない状況にある。

「現代社会は携帯が発達し、人と人が直に会わずとも支障のない時代になりましたが、ぜひできることならみんなで集まって、ボージョレワインを飲んでほしいと思います。ボージョレのワインは、つねにやわらかいタンニンがあり、飲みやすいので、たくさんの人に受け入れられます。ボージョレは、たくさんの喜びがあり、友情をはぐくむワインです」とピロン会長が言うように、さまざまなボージョレワインを、友や仲間、大事な人たちと分かち合いたい気持ちが、ムクムクと膨らんできた。

ボージョレワインは、疲れた心をほっと癒し、人と人とをつないでくれる存在になってくれそうな気がする。

取材協力:ボージョレ委員会 日本事務局

Text & Photo:Mayumi Watabiki