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谷宏美

日本在住/フリーランス ライター

エディター/ライター。ファッション誌の美容エディターを経て、2017年よりフリーに。渋谷のワインバー「ローディ」で店の仕入れや現場でのサービスをやりつつ、ワイン&ビューティの分野で取材・執筆を行なう。J.S.A.認定ワインエキスパート。バタークリームとあんこは飲み物。

2017.12.26
column

ヒストリカルな8つのワインで紐解く カリフォルニアワインの多様性

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カリフォルニアの生産者団体 ワインインスティテュート主催の「カリフォルニアワイン グランドテイスティング」が、2017年10月11日(水)に東京・渋谷で行なわれ、アメリカを代表する2名のソムリエがカリフォルニアワインの歴史をテーマにセミナーを開催。カリフォルニアワイン史を象徴する8種類のワインを試飲しつつ、多様性をもって時代のニーズに応えてきたその歴史を紐解いた。

ゲストスピーカーのジェフ・クルスはNPO ギルド・ソムの会長を務め、ロシアン・リヴァー・ヴァレーのロスト&ファウンドのディレクターでもある。カリフォルニアワインガイド『Napa Valley Then & Now』の著者として知られるケリ・ホワイトはギルド・ソムの上級スタッフライター。ふたりがセレクトしたワインを交互に解説しながら試飲がスタートした。

(1)
ブエナ・ヴィスタはゴールドラッシュの時代にワイン造りを始めた歴史的なワイナリー。
創業者のアゴストン・ハラジーはハンガリーからの移民で、ソノマのロス・カーネロスに200ヘクタールの畑を買ってワイン造りを始めた。ハラジーがヨーロッパから持ち帰った400種ものワイン用ブドウの切穂はカリフォルニア各地に植えられ、アメリカワイン界に大きな業績を残している。
彼がサンディエゴの初代保安官(=Sheriff)であったことに因んで名付けられた「ザ・シェリフ」は、ソノマ各地の黒ブドウ品種をブレンドし、フレンチおよびハンガリアンオークで熟成。濃いガーネット色にリッチな樽香と果実味、14.5%の高アルコール度からくる濃厚な味わいに、カリフォルニアワインのイメージを重ねる人も多いだろう。

(2)
ベッドロックを取り上げ、アメリカを代表するブドウ品種、ジンファンデルにフォーカス。
カリフォルニアで1980年代後半に盛んに植えられたジンファンデルは、その源流をクロアチアにもつとも言われている。エヴァンジェロ ヴィンヤードはジンファンデルとムールヴェードルを主体に、25品種以上がパッチワークのように植えられた混植の畑。糖度が充分に上がってから収穫するオールドスクールの造りながら、ライトでエレガントな味わいに仕上げている。

(3)
ルイス・M・マルティーニは、禁酒法が明けた1933年からワイン造りを開始。1938年に標高400メートルのモンテロッソ・ヴィンヤードを購入してカベルネ・ソーヴィニヨンを植樹、これがカリフォルニアにおける単一畑ワインの先駆けとなった。9割近くを新樽で熟成し、アルコール度数は15.5%。果実味豊かでパワフルなアタックは、誰もが馴染みのあるアメリカのワインの典型だ。

(4)
カリフォルニアのシャルドネの歴史は意外に新しく、1950年代に設立されたハンゼル・ワイナリーのジェームズ・D・ゼラバックがその祖とされる。彼はそれだけでなく、初めて温度制御機能付きのステンレスタンクを採用するなど技術革新の分野でも功績を残した。
「ハンゼル シャルドネ」は樽の使用を25%に留め、残りをステンレスタンクで発酵。酸を基調としたバランスを重視している。

(5)
アメリカワインのクオリティを世界に知らしめたことであまりに有名な、1976年の「パリ・テイスティング」。カベルネ・ソーヴィニヨンとシャルドネを比較試飲した結果、カリフォルニアがフランスを制し、アメリカがワイン界の表舞台に躍り出た。白ワイン部門トップのシャトー・モンテレーナを造ったマイク・ガーギッジは、その勝利の翌年に自らのワイナリーを設立。
厚みがあってフルーティ、シフォンケーキのようなニュアンスは当時世界をうならせ、その味わいはいまも健在だ。

(6)
カリフォルニアではむずかしいとされていたピノ・ノワールや、イタリア品種を用いたクオリティワインが続々と生まれている背景に基づき、6番目以降は、それまでと異なる新しいスタイルのワインがセレクトされた。
「ドメーヌ・ド・ラ・コート」は、ブルゴーニュに造詣が深いラジャ・パーと、日系二世の醸造家、サシ・ムーアマンがサンタ・リタ・ヒルズで立ち上げたワイナリー。
淡いルビー色の液面に澄んだエッジ。レッドベリー系のチャーミングなアロマ、ブラウンマッシュルームのような香りとうま味、キレイな酸味。秀逸なバランスを誇るピノ・ノワールだ。過熟を避けて適切かつ早めの時期に収穫し、50%全房発酵。12.5%の低アルコール度で、2014年ヴィンテージでは新樽は使用していない。

(7)
アメリカではビッグなシラーがポピュラーだったが、ローヌ品種をエレガントに仕上げる造り手が増えつつある。
パックス・マールは糖度19で収穫するなど早期の収穫を実施し、北ローヌのスタイルを目指す。仕込みは全房発酵で一部足による破砕を行なうが、これはブドウが健全であることが前提となるため、丁寧な畑仕事が必要とされる。熟成はフレンチオークの古樽とコンクリートタンクを使用。スパイシーなキャラクターが穏やかに熟成し、強すぎず深みのあるシラーに変貌している。

(8)
最後はイタリアのフリウリ品種から造る軽やかな白ワイン。フレッシュで爽やかなだけでなく、豊かな果実味とテクスチャーを感じさせ、フリウラーノからくるほろ苦いフィニッシュが全体を引き締めるという見事なバランスを構築している。

ケリ・ホワイトは「カリフォルニアワインは、目覚しい進化を遂げつつ品質を上げてきた。消費者の好みにフィットさせるため、またジャーナリズムで評価を得るために、初期はパワフルで重厚なスタイルが定番だった。けれどいま、新しい生産者が想像力を武器に革新的なワインを次々と生み出している」とカリフォルニアの新潮流について言及。
ジェフ・クルスは「カリフォルニアは実にエキサイティングな産地。適切な場所を選び、それにふさわしいブドウを植えて醸造方法を考えれば、どんなワインでも造ることができる」と締めくくった。歴史を辿りながら、時代を象徴するワインとともにトレンドに触れたこのセミナー。どんなスタイルをも生み出すことができるカリフォルニアワインのポテンシャルを実感させる内容だった。

Text : Hiromi Tani