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岩本順子 Junko Iwamoto

ドイツ在住/ ライター・翻訳家

ライター・翻訳家。ドイツ、ハンブルク在住。1999年にドイツの醸造所で研修。2013年にWSETディプロマ取得。現在ドイツの日本語新聞「ニュースダイジェスト」に「ドイツワイン・ナビゲーター」「ドイツ・ゼクト物語」を連載中。 http://www.junkoiwamoto.com

2021.01.19
column

短期連載/その3「気候変動に備えるドイツワイン バーデン・オルテナウ地域」〜ドイツ・ハンブルク発 世界のワイン情報 vol.30

ドイツは冷涼気候のワイン産地として、欧州連合が区分したAゾーンに属している。スカンジナビア半島諸国や英国、ベネルックス3国もここに含まれる。しかしバーデン地方だけがドイツで唯一、より温暖なBゾーンに区分されている。Bゾーンに含まれているのは、フランスのアルザス、シャンパーニュ、ロワール、ジュラ地方などだ。3回目は、ドイツ最南端のワイン産地、バーデン地方からお届けする。

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黒い森のワイン産地 
オルテナウ


バーデン地方のブドウ畑の総面積は約1万5800ヘクタール、ワイン産地は北のタウバーフランケン地域から南のボーデン湖地域に至るまで、弧を描くように約400キロにわたって連なっている。2020年10月上旬に訪れたのは、ちょうどその中央に位置するオルテナウ地域だ。ライン川の向こうはフランス アルザス地方のストラスブール。よく晴れた日には、高台からノートルダム大聖堂が見える。

オルテナウ地域の気候に大きな影響を与えているのが “黒い森(シュヴァルツヴァルト)” だ。オルテナウは広大な黒い森に隣り合うため、夜間に冷たい風の流れがあり、この冷たい風が温まった空気を押しやって気温を下げてくれる。そのため地域一帯はバーデン地方のクールクライメイト地帯として知られ、リースリングとシュペートブルグンダーの約束の地などと言われたりもする。

リースリングの南限

バーデン地方の栽培品種は、他地方と異なり、ブルグンダー品種(ブルゴーニュ品種/ピノ種)が主流だ。圧倒的に多いのがシュペートブルグンダー(約35%)で、これにミュラー・トゥルガウ(約15%)、グラウブルグンダー(約13%)、ヴァイスブルグンダー(約10%)、グートエーデル(約7%)、リースリング(約6.5%)が続く。オルテナウ地域でもやはり、シュペートブルグンダー(約44%)がもっとも多く栽培されているが、次いで多いのがリースリング(約23%)だ。

1782年、バーデン辺境伯カール=フリードリヒ・フォン・バーデンが、オルテナウのシュタウフェンベルク城の周囲の、かつて「クリンゲルベルク」と呼ばれた畑に、他地域から入手したリースリングの苗、計3700本をまとめて植えた。これが、バーデン地方における初めてのリースリング種の単独栽培だった。以来、オルテナウ地域ではリースリングを「クリンゲルベルガー(Klingelberger)」と呼ぶようになった。地元では「クリンゲルベルガー」は優れたリースリングの代名詞となっている。

オルテナウ地域に南接するブライスガウ地域では、リースリングの栽培割合はたったの2%。その南西にあるカイザーシュトゥール地域では1%程度で、リースリングの栽培は困難だと言われる。オルテナウ地域はどうやらリースリングの南限のようだ。

リースリングの谷「ドゥアバッハ」
ドゥアバッハ・ワイン協同組合醸造所


オルテナウ地域ドゥアバッハで、1928年に設立された協同組合醸造所の社長、シュテファン・ダナーさんにお話を伺った。

シュテファン・ダナーさん。


ドゥアバッハ・ワイン醸造家協同組合の会員は231農家、ブドウ畑の総面積は約330ヘクタールに及ぶ。組合員のブドウ畑の多くが、標高200〜300メートルの傾斜地にあり、うち75%が急斜面の畑だ。

「ドゥアバッハの谷では、黒い森に守られていることもあって、幸いなことに気候変動の影響はまだそれほど問題になっていない。温暖化でリースリングの繊細さや独自のアロマが失われるのではないか、という心配はあるが、猛暑だった2003年、09年、そして18年も、リースリングの品質や収量にネガティブな影響はなかった。当地のリースリングは、いまのところは気候変動にうまく順応できているようだ」、そうシュテファンさんは語る。

ドゥアバッハ・ワイン醸造家協同組合醸造所のクリンゲルベルガー。


ドゥアバッハの花崗岩の風化土壌のリースリングはイキイキとしていて、上品な果実味とシャープな酸味が魅力だ。凝縮感もあって、地元の肉料理にも合う。シュテファンさんの話によると、栽培家たちはリースリングの個性を維持するために、従来から畑の場所を慎重に選んできたという。リースリングの畑はおもに標高の高い斜面にある。地理的条件を考慮し、冷涼寄りの畑で栽培しているからこそ、現在の気候変動に対応できているのだろう。

ドゥアバッハ温暖化事情

しかし中には、水不足が大きな問題になっている畑もある。組合の取締役会長を務めるエミール・クラウスさんがプラウエルラインに所有するリースリングの畑がそうだ。勾配30%程度のゆるやかな斜面で、ブドウの根は水はけのよい花崗岩の風化土壌の深いところまで伸びているが、樹齢12年のリースリングには灌漑設備が必須だという。樹齢25年のリースリングはいまのところ灌漑設備を必要としていないが、近いうちに必要になるだろうとのことだ。

エミール・クラウス(右)さんと息子のユルゲンさん。


シュテファンさんは、03年の猛暑が温暖化の幕開けだったと言う。続く09年の猛暑がその傾向を決定づけた。ドゥアバッハでも、畑に藁を撒いたり、除葉の方法を変更したりといった対策を取るほか、植え替えの際にはフェンスの方向を変えるという措置もとっている。

灌漑設備(点滴式)が導入され始めたのは10年前からで、ここ数年、設置する農家が増えているそうだ。現在では、組合員のブドウ畑の20%くらいが灌漑設備を備えているという。組合員の畑はいずれも小規模なので、栽培家はそれぞれに貯水槽や貯水池を備え、雨水をためているが、年によって水不足は深刻だ。 ポンプで水を汲みあげるシステムなどはなく、個々の栽培家が灌漑のたびに集めた水をタンクで畑へ運ばなければならない。

点滴灌漑を行なっているエミールさんのリースリングの畑。


ドゥアバッハの谷では、ドイツで初めて雹除けのネットが設置されている畑を見た。気候変動の影響で、雹害についても耳にすることが多いが、被害が極めて局地的であるため、会員における雹除けネットの普及率は2%程度だという。

代わりに活躍しているのが「雹ハンター」だ。シュテファンさんの話によると、オルテナウ地域には雹害防御協会という組織があるそうだ。雹害はパイロットが小型飛行機で雹を形成する雲に近づき、ヨウ化銀を散布することで食い止めている。ヨウ化銀はマイナス5度くらいになると氷の核を形成するそうだが、自然に発生する氷の粒の何倍もの粒が雲の中に散布されることで、一つひとつの雹の粒の成長を抑えることができるという。南ドイツの幾つかの地域では、業種を超えたこのような組織が、雹対策を行なっている。

ドゥアバッハの谷。年々フランスからのツーリストが増えている。
今年はコロナ禍で国内旅行をするドイツ人が増え、
ワイン産地が脚光を浴びているという。



バーデン・ヴュルテンベルク州は
共同組合醸造所が主流


バーデン地方が属するバーデン・ヴュルテンベルク州のワイン産業はほかの産地と構造的に異なる点がある。それは協同組合醸造所が主流であることだ。

現在、ドイツワインの約30%が協同組合醸造所で生産されているが、バーデン・ヴュルテンベルク州ではブドウ畑の約75%が協同組合員のものだという。オルテナウ地域ではブドウ栽培家の75%が協同組合のメンバーなのだそうだ。

100年の伝統。
ドゥアバッハ・ワイン醸造家協同組合醸造所のセラー。


近年ドイツの協同組合は、多彩な製品を生み出すほか、ツーリズムやテイスティングイベントに力を入れている。多くの協同組合が改装を行ない、直営ショップも魅力的になっており、アポイントなしで、気軽に試飲やショッピングを楽しむことができる。

次回は……
ラインガウ地方の情報をお届けします。

Text&Photo:Junko Iwamoto