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山田マミ

日本在住/ワインフィッター®/
La coccinelle 代表

フランス留学をきっかけに、ワインとの出会い。フレンチレストラン店長、ワインインポーター、webワインショップのライターを経て独立、2013年よりワイン販売業を開始。これまでになかったワインの職業名【ワインフィッター®】を商標登録。企業向けワインイベントのプロデュースや、店舗をも持たず在庫を持たず、お一人おひとりのニーズに合わせた全く新しいシステムのワイン小売販売を行っている。自身の経験を生かし、ワインフィッター®という新しい働き方の普及にも力を注ぐ。 https://www.lacoccinelle-vin.com/

2021.02.10
column

【連載 第17回】CAVE D’OCCI 掛川 史人 × JULIA 本橋 健一郎 ゼロから挑むシードル造り〜 摘果で探るサステイナブル 〜 「遅摘果」は、シードル用の新たな原料リンゴとなりうるか?

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2020年11月初旬、掛川史人と本橋健一郎が9月上旬に仕込んだ「摘果シードル」の仮詰めボトルを持って長野のリンゴ農家である小林孝徳と町田栄二を訪問したのは本誌101号誌面でレポートしたとおり。そのわずか3週間後、町田からまた新たな原料リンゴとしてシナノゴールドが新潟のカーブドッチワイナリーに到着した。しかしそれは、よく知る生食用のシナノゴールドとも摘果果とも様相の異なるリンゴだった。

町田いわく、「じつはこのシナノゴールド、摘果作業が遅れて果粒が小さいままになってしまったものなんです。収穫はしたのですが生食用として販売するわけにもいかず、摘果果でもないのですが、何か使えますか?」というものだった。

大きさも形もバラバラ、しかし確かに摘果果よりは全体的にはやや大きめだった。受け取った掛川、「摘果が遅れたリンゴ?!それは”遅摘果”とでも呼ぶのだろうか?」と思いながら、まずは採寸、そして大きさ順に並べそれぞれのサイズの試食をすることにした。


いちばん小さな果粒で直径約6.5センチ、高さは5センチほど。4つのサイズを順に並べたいちばん左の大きいものは掛川が用意した一般的なサイズの市販されているシナノゴールドで、今回長野の町田から送られてきたのは右側3つのサイズだった。採寸が終わったところで試食。

大きい方(左)から、以下掛川のコメント。

1. 普通のシナノゴールド。軽やか。バランスよし。瑞々しい。
2. 少し味が濃くなる、香りより味が口の中に広がる。
3. 2とあまり変わらない。
4. 味が濃い。かすかな渋みあり。洋梨のようなニュアンス。これはビックリ!

掛川が驚いたのは4番のいちばん小粒な遅摘果の凝縮感。「これはビックリ!」とおもわずコメントした掛川、さらに「これは昨年よりおもしろいシードルが造れるかもしれない」と、原料から想像される可能性を醸造家として直感した。

通常シードル造りの原料となるリンゴは、生食用リンゴとして販売されないいわゆるハネモノであっても、摘果作業を経て完熟期に収穫されたものであることが主流である。その摘果後の果実の味わいはハネモノといえども甘くジューシーで瑞々しいが、それを原料にしたシードルの味わいには何かの要素が足りない、と苦悩した昨年。

今年掛川が造るシードルは、8月の摘果作業によって収穫された「摘果果」と、11月まで摘果がされずに樹に残されたままの「遅摘果」または「無摘果」とでもいえるリンゴ。どちらも小粒で硬さがあり、タンニンと渋みを多少なりとも感じることができる。生食用には不要でもシードル用には必要な要素。この2種類の原料によるシードル造りは、昨年の苦悩を解決することができるだろうか。そんな期待を胸に、掛川は早速「遅摘果」の仕込みを始めた。

2種類の原料リンゴの可能性


掛川&本橋 明けましておめでとうございます!

2021年、年が明けてもなお続く新型コロナウィルスによる緊急事態宣言下、新潟と東京で直接会うことが叶わないふたりはzoomによるオンラインミーティングを開催。近況報告と製品化へ向けての今後の方向性を話し合った。

本橋 掛川君、その後「遅摘果」の状態はどう? うまく発酵した?

掛川 はい、発酵はもう完全に終わりました。正直、生食用のシナノゴールドのようなあのよい香りは発酵後やはりあまり残らなくて、でも遅摘果はやっぱり中心部の味わいにリンゴ感があってタンニンがしっかりしていると思います。摘果をせずに残ってしまったことで、逆にギュッとした味わいになっているのはやっぱり大きな違いだと思います。色合いは、こんな感じ!

本橋 おー、いい色! 早く飲みて〜!!

掛川 結局今年は3種類仕込んだことになりますね。まず9月に本橋さんと一緒に仕込んだ「ふじの摘果」、いちばんたくさん造ったのがこれです。そして、11月末に仕込んだ「シナノゴールドの遅摘果」。これは2種類に造り分けたのですが、ひとつはシードル用酵母を使用したロット、これが250リットルくらいあります。そして、ワイン用酵母を使用して酢酸系に造ったロット、これが少量ですが20リットルくらいあります。酢酸特有の酸味やうま味がなにかしら味わいの補完として活かせるかもしれないと思って少しだけ造ってみました。

ちなみに、一緒に仕込んだ赤い実のドルコクラブは個性があってよかったのですが、少量すぎるので今回製品化は見送ることにしました。

本橋 オッケー! それをどういうブレンドにするか、比率はどうするか、そして発泡にするかどうか、これから相談する感じだね。

掛川 はい、そうですね! 近々、3種類を仮瓶詰めして東京のJULIAさんに送りますね。試飲した感想を聞かせてください。それからブレンド比率などを決めましょう。

本橋 でもさ、無理してブレンドしなくてもいいよね? 3種類とも造っちゃった! とかどう?

掛川 おー! それもアリですよ!! そうですね、それもおもしろいかも。その判断は本橋さんの舌に任せます。3種類ともやっぱり別の液体と考えて、ブレンドしない方向もアリだと思います! 僕としては多くの人が「おいしい」と感じるものができるに越したことはありませんが、それ以上に「摘果」と「遅摘果」のシードル原料としての可能性を単純に知りたいとも思っています。

本橋 いいねー! 楽しみだ!! 3種類のサンプル、待ってるね!!!

掛川 はーい!



次回は……
3月5日発売 ワイナート103号
連載 第18回「新潟↔︎東京 リモートブレンド会議」

Text&Photo:Mami Yamada