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山田マミ

日本在住/ワインフィッター®/
La coccinelle 代表

フランス留学をきっかけに、ワインとの出会い。フレンチレストラン店長、ワインインポーター、webワインショップのライターを経て独立、2013年よりワイン販売業を開始。これまでになかったワインの職業名【ワインフィッター®】を商標登録。企業向けワインイベントのプロデュースや、店舗をも持たず在庫を持たず、お一人おひとりのニーズに合わせた全く新しいシステムのワイン小売販売を行っている。自身の経験を生かし、ワインフィッター®という新しい働き方の普及にも力を注ぐ。 https://www.lacoccinelle-vin.com/

2021.05.06
column

【連載 第19回】CAVE D’OCCI 掛川 史人 × JULIA 本橋 健一郎 ゼロから挑むシードル造り〜 摘果で探るサステイナブル 〜 想いの原点をカタチに。ラベルデザインミーティング 

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「やっぱり混ぜない方がいいよね!」

2年目の今年は「摘果」に焦点をあてた2種類のシードル造りに挑んだ掛川史人と本橋健一郎。長野県産ふじの「摘果果」そのものを原料にしたものと、摘果のタイミングを逃したまま樹に放置され生食用ほどの大きさにならなかった長野県産シナノゴールドの通称「遅摘果果」。ブレンドをして味わいの均一化を図ることも考えたが、最終的にふたりは「混ぜない」と判断し、2種類をそれぞれ100%でリリースすることに決めた。

そして1年目は「スティル(泡なし)」という斬新な選択をしたふたりだったが、今年の造りは2種類ともに「微発泡」に仕上げる。ワインでペティアンと言われる1.5気圧ほどになる予定だ。仕込みの手順、酵母、気圧は同じ2種類、違いは純粋に原料が摘果果か遅摘果果かだけという興味深い仕上がりになる。

3月中旬、掛川は新潟のカーブドッチワイナリーでこの2種類を瓶詰めし、瓶内二次発酵の作業を完了させて4日後、まだ二次発酵が始まらない状態ではあったがそれらを東京・JULIAの本橋へ送った。いまだコロナ禍で対面のミーティングが叶わないふたりは、再びオンラインで繋がり今年のラベルデザインの話し合いを、できたばかりのこの2種類を味わいながら行なうことにした。

すべての始まりはここから

掛川 本橋さん、いいですねこの樹のイメージ!

シードルが掛川から本橋へ送られるのと同時に、本橋からは掛川へラベルのイメージデータが送られていた。じつは本橋は、飲食業に従事する以前は建築士だったという異色の経歴の持ち主。自身のレストランJULIAの内装や椅子のデザインも手がけたというそのセンスを活かし、今回のラベルデザインに関しては本橋が主導で行なうことになった。

本橋 色や大きさのバランスなどはこれから話し合うとして、まずメインのイメージとしては「畑」、それを象徴する「樹」を使いたかった。やっぱり僕らが初めて長野のリンゴ畑で地面に落ちている摘果を見たときの衝撃が大きくて、「何かできるんじゃないか?」と考えたことがすべての始まりだったから。

本橋が衝撃を受けたと語る、2019年7月の長野・小林果樹園へ初訪問のときの「地面に落ちている摘果」の写真がこちら。

よく見ると雑草の陰に紛れてゴロゴロと、摘果作業で落とされた小粒のリンゴが無数に転がっていた。あまりの量の多さに足の踏み場もないほどだった。レストランJULIAでも食材のロスを極力減らすメニュー考案に努める本橋は、この光景に誰よりも衝撃を受けたのだった。

本橋 メインイメージの樹の下に摘果リンゴを散らして、この樹自体よりもその下に落ちている摘果に目線を向けてもらえるように「FROM SCRATCH(フロム・スクラッチ 2020)」という商品名も下に配置して、そこからリンゴが転がっているイメージにしたの。

と、全体的なデザインのコンセプトを語った。

掛川 コンセプトがしっかり詰まっていながら、デザイン全体は落ち着いていてスタイリッシュでいいですね!
本橋 メッセージがシンプルに届くようあれこれ要素を入れないように、そしてカジュアルすぎても本気度が伝わらないからね。僕たちっぽい雰囲気も出したいなと思って、どうせやるならカッコよくしたいでしょ(笑)。

掛川 そうですね。色やサイズはどうしますか?
本橋 色も多く使わず白地に黒、または黒地に白とか黒地に金色かな。個人的には黒地に金色がいい気がするけど。サイズはね、A4の4分の1くらいの大きさの横長と思っている。バランス見るために、この仮のデザインをプリントアウトしてボトルに実際に貼ってみてみようか。

掛川 うん、確かに白地より黒地で、絵柄は金色がいいですね。ボトルは緑色なので、黒地は光沢があるよりマットな黒がいい気がします。ちょっと和紙みたいな質感もいいかも。金色は箔を使わなければコストもほかの色とさほど変わらないと思います。あと、記載義務のある文言を入れる裏ラベルですが、表ラベルと一体化しているタイプがいいと思います。

ワイナリーの醸造長としてこれまで数々の新商品をリリースし、その都度ラベルデザインにも頭を悩ませてきた掛川、画面越しでも的確な意見を伝えていく。

掛川 デザインのパーツだけ商用利用可能な画像を有料で購入して、それらを組み合わせてちょっと僕の方で作ってみますね。

「ちょっと作ってみます」と、さらりと言い放った掛川だが、何を隠そうこれまでのカーブドッチワイナリーのラベルデザインも、彼がデザインソフトを使いこなして製作した商品がいくつか存在するという。デザインのイメージを本橋、それをカタチにするのは掛川、ここでも息の合った連携を見せたふたりだった。

まるで「ブラン・ド・ブラン」と
「ブラン・ド・ノワール」?!


「大まかなイメージが決まったところで、二次発酵中の2種類を飲んでみよう!」、ということで、ふたりはそれぞれの手元にある「摘果果」と「遅摘果果」のシードルを開栓し、グラスに注いだ。

(ふたり) 離れているけど……またすぐに会えることを願って、画面越しに乾杯!

本橋 おー!「摘果」は香りがいい! 上品でまるでワインみたいだね。
掛川 いまはまだ二次発酵の途中なので、この真ん中に残っている甘さが抜けて泡が多少強くなれば、味わいの後半がもっとシュッと爽やかに締まると思います。

本橋 「遅摘果」は焼きリンゴだね。ムルソーで表現されるようなバターのニュアンス、そして厚みととろみがある。この2種類、たとえるなら「ブラン・ド・ブラン」と「ブラン・ド・ノワール」だね!

白ブドウ品種から造られる白いスパークリングがつまり「白の白」を意味する「ブラン・ド・ブラン」、黒ブドウ品種から造られる白いスパークリングが「黒の白」を意味する「ブラン・ド・ノワール」と、おもにシャンパーニュなどで使われる言葉だが、「摘果果」と「遅摘果果」の原料の特徴の違いをあえてわかりやすくそう表現したソムリエ本橋。

掛川 その違いをラベルに表現するならば、基本のデザインは同じで「摘果果」の方は落ちているリンゴが緑色、「遅摘果果」は樹になっている方を赤色、とかにしますか?
本橋 なるほど、それいいね! リンゴ1個だけ色付き箇所が違う、というのもシンプルでお洒落だけど、売る人や買う人が2種類並べてパッと見たときに違いがわかりにくいのもよくないので、いくつか色を変えるのもありかな。
掛川 そうですね、僕、いろんなパターンで作ってみます!

その後、何度か画像イメージとメッセージのやり取りで微調整を重ね、最終的にふたりが揃って満足できるデザインが完成。裏ラベルに記載する2種類の名称も「摘果 ふじ」と、遅摘果という造語よりもわかりやすく「摘果が遅れた シナノゴールド」とした。

印刷会社から約1カ月後にはラベルが納品される。その頃には中身も二次発酵を終え微発泡となり、ボトルにそのラベルが貼付されてついに完成品リリースとなる。気になるラベル、そして味わいのお披露目は5月のゴールデンウィーク前後、いよいよシードルプロジェクト2年目も最終章を迎える。



次回は……
5月中旬リリース予定
web連載 第20回 「長野シードルの造り手たちによる<摘果の可能性>プロ座談会」

Text&Photo:Mami Yamada