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山田マミ

日本在住/ワインフィッター®/La coccinelle 代表

フランス留学をきっかけに、ワインとの出会い。フレンチレストラン店長、ワインインポーター、webワインショップのライターを経て独立、2013年よりワイン販売業を開始。これまでになかったワインの職業名【ワインフィッター®】を商標登録。企業向けワインイベントのプロデュースや、店舗をも持たず在庫を持たず、お一人おひとりのニーズに合わせた全く新しいシステムのワイン小売販売を行っている。自身の経験を生かし、ワインフィッター®という新しい働き方の普及にも力を注ぐ。 https://www.lacoccinelle-vin.com/

2021.05.31
column

【連載 第20回】CAVE D’OCCI 掛川 史人 × JULIA 本橋 健一郎 ゼロから挑むシードル造り〜 摘果で探るサステイナブル 〜 長野シードルの造り手たちによる“摘果の可能性” プロ座談会

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「僕、素人なのでお手柔らかにお願いします(笑)」。

4月某日、掛川史人は長野県の飯綱町にある「林檎学校醸造所」へやって来た。林檎学校醸造所は、飯綱町のリンゴ専業農家出身の小野司が発起人となり、日本初の小学校の廃校舎を活用したシードル専門醸造所として2019年2月より始動、委託醸造という形で周辺の農家とも連携し、地域全体の活性化を目指している。

このシードルプロジェクトがスタートした当初、掛川がシードル造りに対して右も左もわからぬときに本橋健一郎とともに訪れた場所だった(ワイナート96号に掲載)。小野はそれ以来ふたりのシードル造りを見守り、掛川も自作のシードルができたあかつきには小野にはぜひ試飲してほしいと望んでいた。

とくに2年目の今年は、本来廃棄されてしまう「摘果」に焦点をあてた2種類のシードル造りに挑んだ掛川と本橋。「おいしい」をあえて追求せずに原料の可能性をテーマとして仕上げたシードルは、シードルの主要産地やリンゴ農家と連携をせずには今後の発展性がない。「エシカル」や「SDGs」などの言葉が巷に多くあふれるいまだからこそ、にわかなソーシャルビジネスでは終わらせたくない。そのために、このできたシードルを囲んであらゆる視点から議論が交わされるべきだと考えた掛川は、再び小野を訪ねた。掛川の希望で小野のほかにも長野でシードル造りをする有識者たちに参加を呼びかけ、摘果の可能性についてプロ座談会を開催した。

参加を快諾してくれたのは、株式会社サンクゼールの醸造責任者 野村京平、同社の福田恵美、サノバスミスの取締役兼醸造責任者、池内琢郎。シードル界を牽引するそうそうたる顔ぶれを前に冒頭の一言、「僕、素人なのでお手柔らかにお願いします(笑)」から掛川のプレゼンテーションが始まった。

2年目の造りについて振り返り

本連載も20回を超え、いよいよ2年目も最終章へ突入というこのタイミング、掛川のプレゼンテーションからこれまでのシードルプロジェクトの経緯を読者にもぜひ、一緒に振り返ってもらいたい。

掛川 僕たちのシードルプロジェクトは一昨年、東京・神宮前にあるレストランJULIAのオーナーソムリエ、本橋健一郎さんとのとある飲み会からスタートしました。まずはJULIAの看板メニューである小さなハンバーガー「スライダー」に合うシードルを作っちゃう? というなかばノリで始まったのです。

僕は2003年からワイナリー経験はありますが、シードル造りに本格的に取り組むのは初めてだったので、まずやるべきことは農家さん訪問と思ってここ長野へ来ました。それは19年7月の1回目の摘果が終了した頃で、畑に落とされた摘果果の多さに僕も本橋さんも衝撃を受けました。

そんな摘果のことは心に残りつつも1年目のテーマはあくまでも「スライダーに合うシードル」だったので、試行錯誤の末、1年目のシードルは完成させました。しかし課題として残ったのは、味わいに複雑味や厚みが足らないこと。なぜだろうと考えたときに、原料である生食用リンゴはそのまま食べるにはみずみずしくておいしいけれど、醸造用としてはここまで肥大すると要素が薄くなるのではないか? という仮説を立てました。

そこで2年目は始めから「摘果」の可能性を探ろうというテーマでスタートしました。長野の小林果樹園さんの協力で、本来廃棄される摘果果と、それに加えて摘果が遅れたまま樹にならせておいた果粒も分けていただけることになり、今回の2種類のシードルに仕上げました。

摘果果は7月半ばくらいに収穫された「フジ」で、大きさはバラバラでしたが平均糖度は約10Brix、pHは3.45でした。思ったより糖度は高く、酸度もやはり生食用より高かったです。摘果が遅れた果粒は「シナノゴールド」で、直径7センチくらいのものは試食すると非常に濃くねっとりとしていてまるで洋梨のようでした。平均糖度は14Brixで、こちらは摘果をしなかったというだけで収穫のタイミングは通常の生食用と同じ10月中旬くらいだったと思いますが、思ったより糖度が低かったのが印象的でした。

飲み会からスタートしたこのプロジェクトですが、僕自身は2年目に突入して伝えたいことは何かといえば、正直「おいしいシードルを造る」ということにある意味あまりとらわれなくなりました。どうやったらおいしく造れるかより、いま現在利用されていないもの、もしくは価値の低いものの価値を高めて、それが広く利用されるような可能性を探る、というのがテーマになりました。

摘果は、「捨てられている」ということと「酸味がある」ということが魅力だし、摘果が遅れた果粒に関しては農家さんにとっての摘果作業の負担が軽減する可能性があり、さらにそれによって醸造に適したリンゴが生まれるならばおもしろいとも思いました。生食用のハネモノを醸造用の原料にするのではなく、醸造用専用の栽培方法を確立することで劇的に品質が変わることはすでにワインの世界で実証済みなので、リンゴにもその可能性はあるのではと思っています。

また生食用と醸造用、それらの複数の出荷先、販路が生まれることでその年の出来不出来のリスクを分散することができるかもしれませんし、収穫時期や作業時期が集中しないことで売り上げや収入のタイミングも分散できるかもしれません。もちろん課題やクリアしなければならない問題も多くありますので、農家と造り手双方のメリットデメリットを含めた可能性を、資料にまとめました。

右側の醸造する側のメリットとしては「低アルコール」商品の開発の可能性も挙げられます。糖分が足りない場合は足すことができても、もともとあるものを抜く方がはるかにむずかしくコストがかかるので、糖分が少ないことはこれからのマーケットにフィットする商品開発という意味でもメリットだと思います。

そして左側の農家さんの課題としては、落ちている摘果果を一体誰がどうやって回収するのか? コストは? というところ。その解決策の候補としては、地域教育の一環として子どもたちの参加や、障害者施設との連携が挙げられます。現在、僕たちのカーブドッチワイナリーでも自社の約95%の畑の収穫は障害者さんに協力を得ています。その僕自身の経験も踏まえて、障害者雇用と農業のマッチングはよいと考えています。

以上のような構想を踏まえた「摘果の可能性を探る」、が2年目のシードルプロジェクトです。それではみなさん、さっそく試飲をお願いします!

シードルのプロたちによる評価は?

この日に掛川が持参したシードルは、大きく分けると「摘果果シードル」と「摘果が遅れたシードル」の2タイプ。これらの「澱なし」「澱あり」、そして「他原料との相性のよさ?」と掛川資料にもあったように、その他原料とは具体的に「ホップ」を想定して、それぞれの「ホップ入り」も造り、合計6種類を持参した。

まずは「摘果果(フジ)」から試飲。

池内 泡が縦にツツツーっとのぼるのが特徴的ですね。僕が造るシードルはこのような泡立ち方はしません。液体のなかの水溶性のセルロースがストロー状になって、そのなかを二酸化炭素の分子が伝うので泡が線状になるのですが、この現象はおそらく摘果原料の液体には食物繊維が多いということだと思います。

池内は、信州大学大学院 総合工学系研究科を経て、専門は有機合成という化学のスペシャリスト。醸造、発酵の分野は独学ながらイギリスでシードル(サイダー)の醸造研修、アメリカでも醸造学を学んだ経歴をもつ。その知識から、この未知なる味わいを的確に分析、言語化していく。それはシードル造りに抱く多くの「なぜ」をワインと違ってまだ経験で補うことのできない掛川にとっては、大きな助けとなった。池内はさらに続けた。

池内 そしてこの液体にはおもしろい粘性がありますね。ねっとりしているから苦みや渋みを感じやすいです。苦みや渋みはその分子が舌から離れたときに感じるものなのですが、つまりこの粘性によってその成分が少しでも長く舌の上に滞在して、結果複雑な味と感じるのだと思います。そういう意味で、もし粘性をコントロールできるのであれば摘果という原料は非常に興味深いです!

そして、自らも摘果果でシードルを仕込んだことがあるという林檎学校醸造所の小野の感想は、

小野 私たちが造ったときはもっと渋く、余韻もあまりなく仕上がったのですが、掛川さんが造ったこのシードルは、通常の生食用のフジで造ったシードルにちゃんと酸があるなぁという印象で、摘果と言われないとわからないかもしれません。以前造ったときに取り寄せた摘果はとくにこだわりはなかったので、もっとその収穫の時期や農薬散布の問題も考慮したタイミングを模索できたらいいですね。

長野県を代表する食品製造販売会社で全国に140以上の店舗を展開するサンクゼールはこの飯綱町に本店を構える。飯綱町で地域おこし協力隊として農家との連携や地域活性プロジェクトに関わり、現在サンクゼールに籍を置く福田は、

福田 私も摘果作業に参加したことがあるのですが、そのまま落としているとやっぱりあまりにももったいなくて、お金を捨てているような感覚になるんですよね(苦笑)。

と話した。そして同社醸造リーダーである野村はこう続けた。

野村 「SDGs」がどの業種でもテーマの昨今の風潮を受けて、摘果の問題は農家さんからも、とくに若い世代の方々からやはりもったいないのではとの声が挙がり始めています。サンクゼールとしても昨年から摘果果を取り寄せて試験醸造をしているのですよ。今日も持参していますので、ぜひのちほど試飲してください! そして、摘果利用は「低アルコール市場」をターゲットにするにはとても有効だと思います。アルコールに馴染みのない若い世代の入り口商品の開発としてはとても魅力的ですね。

続いて、「摘果が遅れたシナノゴールド」の試飲へ。

小野 摘果をしない弊害というは農家的にすごく気になるし、勇気を出さないとできないことだと思いますが、摘果が遅れても、また減らしても有効に活用できる販路があるなら、農家の作業量軽減につながるかもしれませんね。とくにシナノゴールドは良品率が高く、シードル原料に回るハネモノが少ないので有効な仕組みになるかもしれません。

池内 こちらの方は後半にアーシーなニュアンスが出てきますね。いい意味での青さとか土っぽさとか。こういったアフターの味わいを出そうとすると他品種をブレンドして補完したりしますが、単一品種で栽培方法が違うことで違うニュアンスの味わいを造り出させるとしたらおもしろいですね。

野村 以前ほかのメーカーのシナノゴールドを飲ませてもらったときの印象は、最初柑橘系のニュアンスがきてそのあと後半の余韻は薄かったのですが、これはタンニンや余韻が残っていて驚きました。ブラインドで飲んだら、シナノゴールドとは思いませんね。この苦みや酸みはいま私たちサンクゼールでは外国系品種で補っていますが、池内さんのおっしゃるようにこれが日本の品種でできるなら、シードル商品のバリエーションが大幅に増えますね!

掛川 そうですね、僕としては「すでにいまあるもの」を利用する意味が大きい。外国品種をいまから植えるなど新しいことを始めると数年、数十年かかりますからね。

福田 先日ちょうど農家さんとも「摘果をしない」ということについて話したのですが、「ならしっぱなし」は一年おきに豊作不作を繰り返す隔年結果を起こす可能性を懸念していました。しかしそれであれば、摘果をしない圃場をふたつもてばいいのでは? 今年はこちら、来年はあちら、というふうに。という斬新なアイディアも出ていました。

その後、おのおのが「摘果フジ」「摘果が遅れたシナノゴールド」それぞれの「澱あり」「澱なし」などを自由にブレンドしテイスティング。池内はシナノゴールドの「澱あり」「澱なし」の味わいの違いに着目してこれらをブレンド、つまりは単一品種100%でありながら違った複雑味をもった味わいに仕上げることもできると提案。その発想は掛川を驚かせた。

同時にそれぞれが持参したサンクゼール、サノバスミス、林檎学校醸造所の各社シードルも試飲に加わり、さらに白熱した意見交換が続いた。野村が前述で試験醸造したというのはローズマリーラセットという外国系品種の摘果。それを、俗に「ニュートンのりんご」と呼ばれるフラワー・オブ・ケントという、こちらも外国系品種のベースに20%加えたシードルと加えないシードルだった。どちらが好みか賛否が分かれるところであったが、そもそも酒は嗜好品であり商品化のバラエティーが増えるという大きなメリットを全員が共有した。

掛川、「摘果✖︎ホップ」に心躍る

池内の醸造するサノバスミスのシードルは巧みなホップ使いが特徴的だ。その味わいに以前から感銘を受けていた掛川も、今回試験的にホップペレット1粒を約1カ月漬けたものを造って持参した。

掛川 摘果だけの後半の物足りなさをホップが補うことで、爽快感や疾走感が生まれると思うのです。摘果とホップの相性は非常によいと個人的には感じていて、香りと酸味のバランスが格段によくなります。ただホップ入りシードルとなると製造免許の要件がどうなるかですが……。

池内 僕たちもさまざまなレシピを作成して製造免許を管轄する税務署に提出し、最終的に得られた見解は、植物として認識されているホップは発酵中ではなく、発酵後に投入すれば発泡性酒類とはならずに甘味果実酒免許で製造できます。ですから瓶内二次発酵ではなく、炭酸ガス注入方式にすれば大丈夫ですよ。

掛川 なるほど! それは思いつきませんでした。今回はとりあえずの試作品でしたが、この摘果とホップの組み合わせはもっと「おいしさ」を追求した商品化を目指せる気がしています。

摘果利用こそ、日本らしいシードルの可能性

互いの作品を囲み試飲しながらの意見交換、プロたちにとってそんな有意義な時間は永遠に終わりが見えず、当初の予定を大幅に延長して数時間にも及んだ。最後に今回会場として場所とこの機会を提供してくれた小野からとても印象的なコメント。

小野 「摘果」という作業自体はそもそも良質な日本の生食用リンゴ栽培を支えてきた大切な文化です。それをさらにうまく利用することができればそれも日本らしいシードルになり得ると思います。このコロナ禍でもシードルを造りたい、将来醸造所を持ちたいという人の問い合わせも増えています。これからの世代の方々にとっても日本らしいシードルの新しいカタチとして、ひとつの選択肢になればと思いました。

掛川 みなさん、本日はたくさんのご意見をありがとうございました!



次回は……
連載第21回 6月5日発売予定 ワイナート105号
2年目最終回「完成シードルお披露目イベント」

Text & Photo:Mami Yamada