• Top
  • Column
  • 第12回IWSSイタリアワイン・ソムリエ・セミナーが開催。盛…

杉本 多恵

日本在住/ライター

ワインや料理、アートや茶道など、幅広いジャンルで編集、執筆。JSA公認ワインエキスパート、SSI公認唎酒師。イタリア好きが高じて、イタリアでホームステイをしながらイタリア家庭料理を学び、料理教室も主宰。スパークリングワインが大好き。

2021.07.09
column

第12回IWSSイタリアワイン・ソムリエ・セミナーが開催。盛り沢山のコンテンツで、充実度・満足度アップ!

例年7月に全国5会場で開催する日欧商事主催のIWSSイタリアワイン・ソムリエ・セミナー。昨年は、コロナ禍で緊急事態宣言明け直後の開催予定だったこともあり残念ながら中止に。今年は3週間にわたり、1週1回の3日(6月8、15、22日)に分け、さまざまな配慮がされたZoomオンライン講座として開催された。

  • facebook
  • twitter
  • line

毎年全国5会場で約500人が集まる非常に関心度の高いセミナーだが、初オンライン開催となった今年は、参加チケットの売れ行きが740枚という日本最大級のワインセミナーとなり、全国の都道府県からの参加が可能であった。また、下記の配慮がなされたおかげで酒類関連業者にも、一般愛好家にも参加のメリットが高い印象だった。

① 1アカウントにつき複数デバイスを使用し複数人で視聴が可能。
② 動画アーカイブを7月22日(木)まで繰り返し視聴可能。
③ 1アカウントにつき、以下のセットを事前送付。
試飲ワイン(750ml)6本
試飲ワインに合わせたリーデルワイングラス6脚
イタリアワインマニュアル2021を1冊
ワイン王国No.122 イタリア特集号1冊
④ Zoomに不慣れな人のための事前確認用サイトを用意。
⑤ 飲食業界のアイドルタイムに合わせて開催時刻と1講座あたりの所要時間を設定。
⑥ 開催予定前日にはURL入りのリマインダーを送付。

今年度のセミナーの案内がされた当初、1カウントあたり酒類関連業者15,000円、一般30,000円の受講費用はオンライン講座にしては割高な印象を受けたことは否めなかった。だが、ワインとグラス付き、そして1アカウントで複数人が受講でき、期限内に何度も視聴できることを考えれば、時間をかけて足を運ぶ例年の全国5会場での開催よりもむしろコストパフォーマンスにも優れ、気軽に参加しやすくなったのではないかと感じた。

少し下世話な話になるが、日欧商事ホームページの商品詳細を参考にすると、試飲ワイン6本で、すでに一般の受講費用を優に超えた金額になっている。

プログラムは3部構成で例年通りだったが、3日に分かれていたため、出演者の数を増やすことも可能になったと同時に、コンテンツ数も増加。またオンライン講座のため現地と簡単に繋げられるというメリットもあり、例年以上に充実した内容であった。その一部を紹介していこう。

第1部:イタリアワイン総論

例年、全国5会場の開催では、参加者の熱量を直に感じることができるのも取材の大きなメリットだ。残念ながらオンラインではその熱量を感じることができないが、画面を前にし、第1部イタリアワイン総論の講師、宮嶋勲氏の並々ならぬ熱量が、例年よりもさらに圧倒的な勢いで伝わってきた!

ここでは文化的経緯や地理的経緯から近年高品質化してきたイタリアワインの特長を、そして各州のワイン事情を歴史や文化、地理や国民性、地方性などを盛り込みながら1日目は北部、2日目は中部、3日目は南部を解説。その内容から州を抜粋してトレンドや新情報を簡単にまとめてみた。

ピエモンテ州:
高貴な香り、ツウ好みの香りがあるネッビオーロは、高騰しているブルゴーニュのピノ・ノワールに代わって世界的に人気が高まり、バローロやバルバレスコの畑の値段も非常に上昇している。

白ワインの評価も高くなり、注目はガヴィ、ロエロ・アルネイス、エルバルーチェ・ディ・カルーソ。そして消滅しかけていたティモラッソは現在ブームが起こっており、手がける生産者も増加。力強さがあり、熟成後のワインは鶏やウサギ料理によく合う。

トスカーナ州:
テロワールの刻印を刻む力が強いキャンティ・クラシコは、一様に近代的な味わいの方向に向かってきたが、いよいよ村別呼称が現実的になり、昔ながらの味わいや際立った個性を持つワインも目立つようになっている。

ボルゲリとブルネッロ・ディ・モンタルチーノは、生産者単位よりもDOCGとしてのブランド力が高く、現在改めて注目されている産地。

ウンブリア州:
濃い赤ワインのブームが下火になっているなかでも、サグランティーノは世界一ポリフェノールの含有量が多い品種で、すべての要素が凝縮された個性が際立っている。産業的に保守的なエリアであるが、現在はチリエッジョーロやトレッビアーノ・スポレティーノなどの固有品種で模索していて、今後に期待したい。

マルケ州:
マルケ白ワインの代名詞、ヴェルディッキオはカジュアルから熟成タイプまで、どのレンジでも力を発揮する品種。海と山、それぞれの産地でタイプは異なるが、いずれもシーフードをはじめとしたフードフレンドリーで近年注目度が高まっている。またペコリーノは白ワインながら肉にも合う力強さ、厳格さがあり、近年発掘された固有品種のなかでも生き残っていく品種と思われる。

アブルッツォ州:
モンテプルチアーノ・ダブルッツォが安価で安定した美味しさで代表的だが、近年トレ・ビッキエーリなどの受賞が増えているのがチェラスオーロ。赤ワインに近いロゼで、サラミや肉料理などにもよく合うと注目されている。

プーリア州:
アメリカマーケットの嗜好もあり、州全体のプリミティーヴォ化が加速。プーリアの力強い濃いワインとはタイプの異なるエレガントなワインを造る固有品種のススマニエッロも注目されている。

猛スピードで語られた総論のうち、この内容はほんのさわり。イタリアワインの歴史、テロワール、トレンドなどなど、時おり笑いを誘うようなトピックス、ツーリストでは知りえないディープな情報とともに、年に一度のイタリアワインのブラッシュアップとして、今年も覚えきれないほどの情報を得ることができた。

第2部:テイスティング&アッピナメント理論

総論に続き、第2部テイスティングと料理とのアッビナメント(ペアリング)の理論を、日欧商事主催のJETCUPイタリアワイン・ベスト・ソムリエ・コンクール(以下JETCUP)の歴代優勝者から、1日目の北部を永瀬喜洋氏、2日目の中部を田上清一郎氏、3日目の南部を塚元晃氏が担当した。

上から、永瀬喜洋氏、田上清一郎氏、塚元晃氏。

各回、まずは試飲ワイナリーからのビデオレターを見てワインの概要をつかむとともに気持ちを盛り上げ、続いてテイスティングへ。講師はそれぞれの経験を活かし、永瀬氏はコメントの要素や現地情報、ペアリング理論を詳細に視覚化しながら、田上氏はJETCUPのようなスタイルでコメントし、コンクール対策の勉強、トレーニングについても解説。塚元氏はワイナリー周辺の産地解説を交えてわかりやすい言葉でコメントしながら講義を進めた。ここでも講習内容が盛り沢山だったため、アッピナメントの料理だけ紹介する。

▼北部
1.
ワイン:
バローロ 2016
ボルゴーニョ

合う料理:(パスタ)イカスミの煮込み or スパゲッティ、(その他)麻婆ナス、味噌煮込み、ウナギのかば焼き、牛肉の寿司(にぎり)、ウニの軍艦巻き

2.
ワイン:
バルバレスコ 2018
カステッロ・ディ・ネイヴェ

合う料理:(肉料理)カルネ・クルーダ、ヴィテッロ・トンナート、ブラザート、(パスタ)アニェロッティ・デル・プリン、タヤリン、リゾット

▼中部

ワイン:
キャンティ・クラシコ 2018
バディア・ア・コルティブオーノ

合う料理:(トスカーナ料理)ホロホロ鳥のパッパルデッレ、ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ、(その他の国の料理)ハンバーガー、糖醋排骨、サムギョプル、和牛のたたき、マグロの寿司

4.
ワイン:
ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ 2015
ラ・ジェルラ

合う料理:(トスカーナ料理)ピーチ・イノシシのラグーソース、ジビエのグリル、(その他の国の料理)エイジング・ビーフステーキ、トルヌード・ロッシーニ、北京ダック、鴨鍋、黒豚の角煮

▼南部
5.
ワイン:
エトナ・ビアンコ 2019
プラネタ

合う料理:(プラネタ社おすすめ)インサラータ・ディ・アランチェ、アニェッロ・アル・リモーネ、(塚元氏おすすめ)じゅんさいとキウイの酢の物

6.
ワイン:
マイア 2019
シッドゥーラ

合う料理:(サルデーニャ人おすすめ)生ハム・サラミとチーズの盛り合わせとパーネ・カラザウ、フレーゴラのアサリの茹で汁風味、セアーダス or 焼きペコリーノ・サルドのハチミツかけ、(その他の国の料理)生春巻き(ライムやパクチーを添えて)、グリーンカレー、エビマヨ、油淋鶏

例年、第2部はひとりの講師がすべてを担当するスタイルで行われていたが、今回のように講師それぞれのスタイルで展開された講義は、視聴者それぞれの立場によって異なるニーズを満足させてくれたのではないだろうか。各講義の最後には、現地とオンラインでつなぎ、試飲アイテムの各生産者からのオンタイムでメッセージを聞くこともできた。

第3部:テーマ別講座

例年、「サービス模範実技」が行なわれているが、今回のオンライン講座では3日間でそれぞれテーマが異なり、各界のトップによる以下のコンテンツで構成された。

1日目:
2017年 AIS(イタリアソムリエ協会)ベストソムリエ、ロベルト・アネジ氏
「ワインコンクールのための勉強法」

2日目:
リーデル社(本社代表取締役・マクシミリアン・リーデル氏、リーデルジャパン代表取締役社長・ウォルフギャング・アンギャル氏、グラスアンバサダー・庄司大輔氏)
「リーデル社メソッドによるワイングラスの選定方法」

3日目:
2019年JETCUPチャンピオン瀧田昌孝氏
「サービス模範実技」

これら講義は、飲食従事者にとっては充分実践の参考になる内容で、一愛好家にとっては、トップソムリエの実技やテイスティング方法を実際に見ることができ、またグラスの世界を深く掘り下げることができた、とても興味深いものであった。

3日間という限られた時間の中で、これだけの内容による講習は参加者にとってとても有益なうえ、視聴者の都合やレベルに合わせて視聴・活用できるのが、大きなメリットだったのではないだろうか。

最終日、サービス模範実技の前に、JETCUP歴代チャンピオン全員の受賞シーンの動画が流れた。第2部と第3部を担当した4人の受賞者はもちろん、今回3日間にわたりナビゲーターを務めた若原美紀氏(第9回優勝)も登場。昨年は中止になったJETCUPだが、今年は開催される予定とのこと。今年も熱い戦いが繰り広げられることをぜひ期待したい。

2021年度JETCUP イタリアワイン・ベスト・ソムリエ・コンクール
開催スケジュール

1次予選:8月26日(木)/札幌、東京、名古屋、大阪、福岡の5会場にて
2次予選:9月16日(木)/東京・イタリア文化会館
本選(準決勝/決勝):10月14日(木)/東京・イタリア文化会館

https://www.jetlc.co.jp/event/39841/

Text : Tae Sugimoto