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杉本 多恵

日本在住/ライター

ワインや料理、アートや茶道など、幅広いジャンルで編集、執筆。JSA公認ワインエキスパート、SSI公認唎酒師。イタリア好きが高じて、イタリアでホームステイをしながらイタリア家庭料理を学び、料理教室も主宰。スパークリングワインが大好き。

2022.11.11
column

日欧商事主催のイベント、第13回IWSSイタリアワイン・ソムリエ・セミナー、第14回(2022年)JET CUP、今年は両者開催。

日欧商事が主催する、2つの大きなイベント。コロナ禍により2020年は両者中止、2021年はセミナーのみオンライン開催。そして今年はいよいよ両者が復活。JET CUP開催を前に、「ミネラリティ」「アパッシメント」「サステナブル」を深堀したセミナーをレポートする。

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コロナ禍2度目のオンライン開催となった13回目のセミナーは、1週1回、計3回に分けて、2022年の7月6、13、20日にZoomオンライン講座として開催された。

告知の段階で「今年はちょっと違うの?」という印象を受けた。例年はイタリアワイン総論と州ごとに産地のトレンド解説+テイスティング+アッピナメント(ペアリング)+実技・その他のテーマというプログラムだったが、2022年は3日間の日程各日に、それぞれのテーマを重点的に掘り下げ、その中からイタリアの産地特徴を捉えていくというものだったからだ。

各回とも総合司会は、イタリアワイン・ベストソムリエ・コンクール(以下JET CUP)第9回優勝 若原美紀氏(アンティカ・オステリア・デル・ポンテ)。3回にわたるセミナーの第一講義の総論とテーマ解説はワインジャーナリストの宮島勲氏が、第二講義のテイスティングとペアリングはJET CUP歴代優勝者から1日目を塚本晃氏(第7回/THE SORAKUEN KOBE)、2日目を田上清一郎氏(第12回/天草 天空の船)、3日目を永瀬喜洋氏(第8回/株式会社クアトロヴィーニ)が担当。テーマ解説に加え、テイスティングとペアリングの提案を行なった。テイスティングアイテムの生産者もそれぞれの日程で現地から出演し、メッセージを寄せ、また質疑応答にも対応してくれた。

第三講義では、初日にリッカルド・コタレッラ氏(国際エノログ連盟会長)が「イタリアにおけるサステナブルなワインづくり」を、2日目にサンドロ・ボスカイーニ氏(マァジ社オーナー)とアレッサンドラ・ボスカイーニ氏(マァジ社営業部長)が対談形式で「ヴェネト州ヴァルポリチェッラ地区の歴史と未来」を講演、3日目のワインサービス実技ではJET CUP第2回優勝者の佐藤隆正氏(パレスホテル東京)がコンクールで結果を出すためのノウハウを織り込んで実演した。
(以下、第一講義と第二講義の抜粋)

1日目:テーマ「ミネラリティ」

第一講義(担当:宮嶋勲氏)では、まずイタリアワインの特徴を駆け足で解説。
・地理的、地形的、土壌的に恵まれた環境、培われた歴史や文化
・立地的な理由で各国から受けた影響
・統一国家ではなかったために保持されてきた文化的多様性と地方料理
・地方色が強いが故に生まれたさまざまな多様性と、今やイタリアの財産と言われる土着品種
大まかと言いつつも、わかりにくいイタリアワインから個性のイタリアワインへと変貌した背景を充分に理解できる内容だった。

そして話題は「ミネラリティ」へ。
最近は話題になっているにも関わらず、わかりにくい「ミネラル」について、「定義はない、定義するためのエビデンスもない、感じ方や表現については抽象的で直感的」と、ズバッと切り込んだ解説に、非常にスッキリした気持ちになった人も多かったのではないかと推測する。「ミネラルが高く評価されるが故に、現在多くの人がそれを突き止めようと探索中で、多くの人の憧れの対象でもある」と解説ではまとめているが、ミネラルとして感じられる要素、酸とのバランス、土壌や海、気候との関係、ミネラルの食事への影響など、ミネラルを多角的に捉えられるよう、多くの例で示してくれた。

第二講義(担当:塚本晃氏)では、ミネラルの表現や伝え方を中心に解説。香りや味わいの要素、どんなときに「ミネラルを感じるのか」などを写真や図とともに解説。実際のテイスティングとともに、ミネラルの表現を整理してくれた。

[1日目のテイスティングアイテム]
ラ・スコルカ社
ピエモンテ州/ガヴィDOCG
ガヴィ・デイ・ガヴィ ブラックレーベル2020
品種:コルテーゼ100%
希望小売価格:8,000円

フェウディ・ディ・サン・グレゴリオ社
カンパーニア州/グレーコ・ディ・トゥーフォDOCG
クティッツィ2020
品種:グレーコ100%
希望小売価格:4,000円

2日目:テーマ「アパッシメント(陰干し)」

第一講義(担当:宮嶋勲氏)では、まずアパッシメントの成り立ちやイタリアにおける価値観、仕組みや種類などを、続いてアパッシメントで有名な地区であるヴァルポリチェッラにおける近代の技術や造られるワインの変化、そしてアマローネのスタイルと成功について解説。一方でイタリア各地にも言及し、アパッシメントを軸に、州ごとの産地特徴を取り上げながら、さまざまなタイプのアパッシメントワインについて理解を深め、その魅力を伝えてくれた。

第二講義(担当:田上清一郎氏)では、論理的アプローチと文化的アプローチを踏まえ、合わせることが多い肉料理とチーズを例に赤ワインとのペアリングを考察し、また郷土料理とワインのペアリングの深掘りなどを通してペアリングロジックを解説。テイスティングでは、アパッシメントがなぜこのエリア(ヴェネト州)のクオリティワインのアイデンティティとなったのか、その発展の背景にまで話が及んだ。

[2日目のテイスティングアイテム]
マァジ社
ヴェネト州/アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラ・クラッシコDOCG
コスタセラ2016
品種:コルヴィーナ70%、ロンディネッラ25%、モリナーラ5%
希望小売価格:8,800円
マァジ社
ヴェネト州/ロッソ・デル・ヴェロネーゼIGT
カンポフィオリン2018
品種:コルヴィーナ70%、ロンディネッラ25%、モリナーラ5%
希望小売価格:3,100円
マァジ社
ヴェネト州/ヴァルポリチェッラ・クラッシコDOCG
ボナコスタ2020
品種:コルヴィーナ70%、ロンディネッラ25%、モリナーラ5%
希望小売価格:2,800円

3日目:テーマ「サステイナブル」

第一講義(担当:宮嶋勲氏)では、まずワイン業界ではビオディナミや自然派と誤解されやすい「サステイナブル」の本来の意味を解説。そして「サステイナブルの基準を守ったワインとそうでないワインを飲み比べても、その違いはまったくわからない」というように、ワインの味わい、ブドウ栽培や醸造技術にはまったく影響しない環境、経済、社会的、倫理的など、それぞれの持続可能性に取り組むかどうかはワイナリー次第で、現在イタリアのワイナリーでどのような取り組みが行なわれているか、細かな情報を多数交えながら話は展開された。
よりよい社会を次世代に残すことを目的にするのか、利益を追求することを目的にするのか、またそれをどこまでを追求するのかという複雑な問題もあるサステイナブルだが、現在、とくにヨーロッパでは、消費行動の中にサステイナブルが取り込まれているかどうかの判断が働くことが多く、企業にとってもそれに対応せざるを得ない背景があり、ワイン業界においてもサステイナブルへの貢献度をアピールするワイナリーが増えている現状もある。しかしそのような中、環境に目を向ければ、結果的に「おそらくワインはよくなっていくだろう」と期待をもってワイナリーはサステイナブルに取り組んでいるのだと思うと締めくくった。

第二講義(担当:永瀬喜洋氏)では、この回のテーマ「サステイナブル」から少し離れ、日欧商事主催のJET CUPや日本ソムリエ協会主催のブラインドテイスティングコンクールなどにポイントをおいて講義を進めた。3日目のテイスティングアイテムについて、コンクールで求められる表現や答え方、分析方法、グラス、サービス方法、相性料理など、具体的な模擬コメントをしながらの解説となった。

[3日目のテイスティングアイテム]
ヴィッラ・ブッチ社
マルケ州/カステッリ・ディ・イエージ・ヴェルディッキオ・リゼルヴァDOCG
“ヴィッラ・ブッチ” リゼルヴァ・ディ・ヴェルディッキオ・クラッシコ2017
品種:ヴェルディッキオ100%
希望小売価格:7,300円
テヌータ・カステルブォーノ社
ウンブリア州/モンテファルコ・サグランティーノDOCG
カラパーチェ
品種:サグランティーノ100%
希望小売価格:4,500円

昨年までのような産地解説ではそれぞれのトレンドを一気にキャッチでき、即戦力として活用できる内容だったが、今回のようにテーマに沿ったイタリアの捉え方は、別の角度からイタリアを深掘りし、理解を深めるよい機会だったように感じた。

今回のオンラインセミナーも前回同様、1日2時間、参加費は1アカウントにつき一般30,000円、酒類関連業社15,000円。1アカウントにつき複数デバイスを使用し複数人で視聴が可能、動画アーカイブも期限付き視聴可能であることも同様で、今年は7本(フルボトル)の試飲ワイン付き。内容はもちろんのこと、利便性にもコストパフォーマンスにも優れたセミナーとして、来年以降の開催も期待したい。

また、期待はもうひとつ。
3年ぶりに開催される第14回JET CUP イタリアワイン・ベスト・ソムリエ・コンクール。すでに1次予選、2次予選は終了し、本戦は11月16日(水)、14:00〜17:00、東京・イタリア文化会館にて開催される。

本戦進出は以下の6名(五十音順/敬称略)。
内田 尚伸 ワインバー ディーヴァ・イタリアーノ
高木 晋二郎 ワインバー リュミエール
林 憲二 恵比寿アッカ
福元 幸佑 神楽坂アッカ
村尾 真幸 ワインバー M emme
山田 琢馬 パレスホテル東京

今回は日欧商事YOUTUBEチャンネルでのライブ配信もあり、オンタイム、オンラインで観覧ができるようになっている。
www.youtube.com/channel/UCCZryFMdR1jC9ouBD2QMlBA

3年ぶりとなる熱い戦いと、ニューフェイスの登場や新チャンピオンの誕生がとても楽しみである。

Text : Tae Sugimoto