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綿引まゆみ

日本在住/ワインジャーナリスト

会社員を経て、フリーランスのワインジャーナリストへ。ワイナート本誌のほか、ライフスタイル誌、オンラインメディアなどに執筆。ビアソムリエ(JBSA)、チーズプロフェッショナル(CPA)、コーヒー&ティーアドバイザー(ADRJ)。公式ブログ:https://blog.goo.ne.jp/may_w/

2021.10.06
column

オンライントークセッション by シャトー・メルシャン ✕ コンチャ・イ・トロ

2021年9月、チリを代表するプレミアムワイン生産者、コンチャ・イ・トロ社のワイン造りを統括するマルセロ・パパと、日本ワインを牽引するシャトー・メルシャンの勝沼ワイナリー長 田村隆幸が、オンライントークセッションを行なった。

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グローバルリーディングワインカンパニーを目指す
コンチャ・イ・トロ

1883年、スペインのコンチャ家のドン・メルチョーがフランス・ボルドーからブドウの苗木をチリに持ち込み、マイポ・ヴァレーに畑を拓いたことから、コンチャ・イ・トロのワイン造りの歴史が始まった。現在のコンチャ・イ・トロ社はチリの10ヴァレーに55の畑をもつだけでなく、アルゼンチンとカリフォルニアにも進出し、3カ国合わせた栽培面積は、世界第2位となる1万2000ヘクタールにのぼる。輸出実績は世界140カ国で、日本でもよく知られるグローバルなワイン企業である。

「コンチャ・イ・トロはお客さまに喜ばれるワインを造ることをビジョンとし、安定したワイン造りと多様性を重視しています。国土が南北に長いチリでは、地域により地形、気候、土壌に多様性があるため、各地それぞれの最適品種を栽培しています」と、マルセロ・パパは言う。

マルセロ・パパ(Marcelo Papa)/コンチャ・イ・トロ テクニカル・ディレクター
1998年にコンチャ・イ・トロに加わり、2017年より現職。
同社のすべてのワイン造りを統括する。


シャトー・メルシャンが描く
世界の銘醸地としての日本


シャトー・メルシャンは、1877年に設立された日本最古のワイナリーである大日本山梨葡萄酒会社をルーツとしている。

「シャトー・メルシャンでは1970年代から産地と品種のペアリングを行なってきました。76年に長野県塩尻のメルロ、85年に長野県北信地区のシャルドネと、適地・適品種の栽培を進めてきました。“The first mover”として、また、“The pairing introducer”として、 コンチャ・イ・トロ社にシンパシーを感じます」と田村隆幸。

現在、シャトー・メルシャンでは、世界レベルの品質を生み出す重要ブドウ産地に3つのワイナリー(山梨県・勝沼、長野県・桔梗ヶ原、長野県・椀子)を構えている。

田村いわく、「シャトー・メルシャンのビジョンは、日本を世界の銘醸地にすることです。日本ワイン全体の品質向上をめざし、当社の技術を積極的に公開しています。そして、日本庭園のような完全調和をもたらすフィネス&エレガンスという、ワイン造りを目指しています」。

田村隆幸(Takayuki Tamura)/シャトー・メルシャン勝沼ワイナリー ワイナリー長
1999年メルシャン入社。2005 年より
海外のワイナリー(アルゼンチン、チリ)での醸造を経験。
研究および商品開発、醸造以外の部門も経て
17年4月にシャトー・メルシャン製造課長に就任。
18年9月より勝沼ワイナリー長に就任。


シャトー・メルシャンのゼネラル・マネージャーである安蔵光弘もトークセッションに同席し、「10年〜15年前は、日本のワインは世界に知られていませんでしたが、ようやく、日本にもいいワインあるよね、と言われるようになってきました。世界の銘醸ワイン10本を選ぶラインキングがあるとしたら、近い将来、日本のワインが入ってほしいと願っています」と語った。

Biodiversity〜生物多様性への取り組み

今回のトークセッションのテーマのひとつは、「生物多様性への取り組み」に関してである。

シャトー・メルシャンでは、ブドウ畑があることで地域が活性化すると考え、多様な産地において、地域、自然、未来とサステイナブルな関係を構築することを活動の根底としている。

自社管理畑のひとつである山梨県の天狗沢ヴィンヤードは、勝沼ワイナリーの北側の標高約800メートルに位置する垣根式ブドウ畑である。外来植物がはびこる荒廃地を16年から開墾し、ブドウ畑として環境を整えていくにつれ、徐々に在来の日本の草花も育ち始めてきた。

「在来の草花が育つと昆虫がやってきて、昆虫を捕食する鳥が来ます。土にはミミズもいます。天狗沢ヴィンヤードの生態系の推移を見ると、16年には蝶14種が確認でき、18年は蝶13種と在来植物が43種、20年には蝶19種と在来植物が88種も見られるようになりました。放棄地がブドウ畑に変わったことで、周囲の環境にいい影響を与えたといえると思います」と田村は言う。

広大な土地を管理するコンチャ・イ・トロも、積極的に自然環境の保護と保全に努めている。

「サステイナビリティは重要で、ブドウ畑とその周辺のエコシステムを保護することになります。当社のチリの9つの畑の周囲には森があり、その森も我々が保有しておりその面積は4000以上ヘクタールにもなります。ここでは植物相と動物相がすばらしい状態に保たれていますが、このような自然体系のある場所では、ワインづくりのオペレーションがネガティブな影響を与えないよう保護することが大事です。我々は、地球が与えてくれるものをボトル一本一本に込めることをポリシーとしています」と、マルセル・パパ。

コンチャ・イ・トロでは、この10年でサステイナビリティに関する賞を130も受賞しており、世界的に権威のあるHallbars Sustainability Awards 2020において世界3位を、ラテンアメリカでは1位を受賞している。また、19年に炭素固定という生態系サービスを認証する森林管理認証「Forest Stew- ardship Council(FSC® / FSC-C154029)」を取得し、CO2排出削減に取り組み、20年には国立森林公社との協力協定CONAFも締結。その中には森林をよりよくしていく活動も含まれている。

「日本の畑は規模が小さいが、このような取り組みは参考になります」と田村。

地球温暖化への対応

現在、世界のワイン産地の最重要課題といえるのが、地球温暖化による気候変動である。

シャトー・メルシャンでは、「より標高が高い涼しい場所に畑を広げています。前述の天狗沢ヴィンヤードは標高800~850メートルにあります。長野県塩尻市の片丘ヴィンヤードは標高800メートルにあり、メルロを植えています。標高800メートルでメルロを栽培する例はないと思います」。

一方コンチャ・イ・トロでは、「チリでは北部に砂漠があり、少雨の影響を受けこの50〜60年で砂漠が南に拡大しています。砂漠は水資源に大きな影響を及ぼします。チリでは水使用(ウォーターフットプリント)の効率化が重要です。当社では水資源の97パーセントを畑の灌漑(100パーセントドリップ式)に、3パーセントを醸造で使用します。地球温暖化の影響によるウォーターフットプリントの増加を効率化の努力で抑え、15年から20年までの5年間でウォーターフットプリント10パーセント削減を達成しました。125ミリリットルのワイングラス1杯あたりに使う当社の水の量は、業界平均の109リットルより48パーセント低い57リットル値です」。

「日本では雨が問題で、畑の水はけをよくすることに力を注いでいます。チリと反対ですね」と田村。

チリで今後注目される品種は?

適地適品種のブドウ栽培、ワイン造りを行なう2社。ワインメーカーとしてマルセロ・パパが今後注目している品種は何だろうか?

「私が注目しているのは、神秘的でフレッシュな起源をもつユニークな品種であるペドロ・ヒメネスです。日照は中程度、やや冷涼な場所に適しています。ペドロ・ヒメネスは、チリではアルコール度の高い蒸留酒ピスコの原料として使われます。しかし、石灰質の上に粘土層の場所をリマリ・ヴァレー(首都サンティアゴから約400キロ北)に見つけたことから、ここで育つペドロ・ヒメネスを辛口白ワインとして造りたいと思いました。この地の土壌がワインにストラクチャー、酸、ミネラル感を与えてくれます。また、畑は海から20キロ、標高200メートルにあり、シャルドネやピノ・ノワールにも最適な清々しい気候で、フルーツ豊かでフレッシュなワインをもたらしてくれます」と、マルセロ・パパ。

そこで、リマリ・ヴァレーのペドロ・ヒメネスを使ったワイン「カッシェロ・デル・ディアブロ ペドロ・ヒメネス」と、シャトー・メルシャンからは日本を代表する品種である甲州のワインをフィーチャーし、相互試飲を行なった。

コンチャ・イ・トロ カッシェロ・デル・ディアブロ ペドロ・ヒメネス 2020
Concha y Toro Casillero del Diablo Pedro Jimenez 2020

ペドロ・ヒメネス85%にシャルドネ15%をブレンド。
熟成はステンレスタンクで6カ月。アルコール度数12%。
1,738円(税込)


20年は世界中が新型ウイルスの影響を受け、業績が落ち込む企業が多い中、コンチャ・イ・トロ社では過去最高収益を達成した。その成功を牽引したブランドが、「カッシェロ・デル・ディアブロ」である。品質の一貫性、品種の個性の徹底をコンセプトとし、抜群のコスト・パフォーマンスを誇り、日本でも人気が高いブランドである。

「カッシェロ・デル・ディアブロのペドロ・ヒメネスは白桃やシトラスの風味があり、アルコール中程度のミディアムボディで、日本の甲州のスタイルに似ていると思います。ペドロ・ヒメネスの房の形状は甲州とよく似ているんですよ」と、マルセロ・パパは説明する。

ペドロ・ヒメネスをテイスティングした田村は、「柑橘やストーンフルーツの香りがあり、冷涼な気候を感じさせるフレッシュなワインです。スモークサーモンのサラダ、ユズをかけた野菜、シーフードなど、玉諸甲州きいろ香と楽しむフード類とよく合いそうです」とコメント。

安蔵も「素晴らしいミネラル感! 繊細なミネラルと酸があります。チリの伝統的な蒸留酒の原料だったペドロ・ヒメネスが辛口白ワインとして造られるようになり、日本の伝統品種である甲州のスタイルも時代とともに多様化し、どちらも古いけれど新しい品種という点で似ていると思いました」、と感想を述べた。

シャトー・メルシャン 玉諸甲州きいろ香 2020
Château Mercian Tamamoro Koshu Kiiroka 2020

甲府盆地の中央部に位置する山梨県甲府市玉緒地区の甲州種を使用。
栽培は棚式。アルコール度数10.5%。
ユズやカボスなどの和柑橘を思わせる香りと
フレッシュな酸のハーモニーが感じられる白ワイン。
2,640円(税込)


甲州種の果皮は紫系のモーヴカラーで、薄いピンク色がかった白ワインになることがある。

「シャトー・メルシャン 玉諸甲州きいろ香は、グリーンの色調になるよう、陽を当てずに育てました。21年の収穫は9月3日の夜にミッドナイトハーベストを実施しました」と田村は説明する。

玉諸甲州きいろ香をテイスティングしたマルセロ・パパは、「アルコールが低めで飲みやすく、飲むのが楽しいワイン。カッシェロ・デル・ディアブロ ペドロ・ヒメネスと似ていますね。柑橘のフレッシュな味わいが日本の食事とよく合うと思います。発酵はステンレスタンクを使用、熟成期間は短め、シトラスノート、繊細でミネラリティという共通点が、ペドロ・ヒメネスと甲州にはありますね」、とコメントした。

ペドロ・ヒメネスと聞くと、スペイン南部アンダルシア地方のシェリーが思い浮かぶ人が多いのではないだろうか? チリでは高アルコール度数の蒸留酒になるペドロ・ヒメネスを辛口白ワインに仕立てたのは非常に興味深い。それが日本の甲州種のワインと類似点が多いというのだから、2本を並べて飲んでみたくなった。どちらも手に取りやすいお手頃価格というのも嬉しい限りだ。

Text : Mayumi Watabiki