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吉田恵理子

フランス在住/ライター・エッセイスト

ライター・エッセイスト。フランス、パリ在住。 HEG(美食に関する最先端研究機関)卒、WSETアドヴァンスト、SSA酒ソムリエ。著書『ランチタイムが楽しみなフランス人たち』(産業編集センター)、『ワインを飲めばすべてうまくいく 仕事から恋愛まで起こる10のいいこと』(インプレスICE新書)。

2021.12.09
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ヨーロッパ最大の日本酒展示会 第7回「サロン・デュ・サケ」開催

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世界中で日本酒が人気を博しつつあるといわれるが、フランスも例外ではない。パリでは、従来からある寿司などの伝統的和食店に加え、地元の若者層をターゲットにした居酒屋スタイルのバル風店舗も急速に増えており、日本酒の需要はさらに高まっている模様。また、街中にあるワインショップでも、日本酒を置く店が出てきた。数年前までは、考えられなかったことだ。

ヨーロッパ最大の日本酒展示会「サロン・デュ・サケ」は、そんな日本酒熱の高まりを直に感じられる、毎年開催のイベント。今年で7回目となる。昨年はコロナ禍により中止となったが、2019年は世界45カ国から5000人以上の来場者が訪れたという。今年は10月2日より3日間、パリ15区のエッフェル塔にほど近い「New Cap Event Center」で行なわれた。

今年度は28の酒蔵、インポーター、企業、また都道府県の出展があった。試飲アイテムは、基本的に日本産のもので、日本酒、ウイスキー、焼酎、ラム、ジン、梅酒などリキュール、ビールを含め約250種類。

都道府県では、北海道、広島県、佐賀県、岡山県が出展。地域の魅力が打ち出されたアイテムを、来場者は入念に試飲していた。

日本以外からの出展者の姿も。こちらは、スペインで酒蔵SEDA LIQUIDAを経営するカンピンス夫妻。ピレネーの小さな村で、「絹の雫」という日本酒を醸している。佐渡、愛媛、灘で酒造りを学んだのだという。日本から酒米を輸入しているが、スペイン産のコメも使用。スペインでも山田錦が育てられているという。

5アイテムを試飲したが、全体に軽く飲みやすく、ワインに近い印象。日本酒ベースのベルモットは、地元のハーブを使用。甘さ控えめで優しく、あっさりした味わいだった。

筆者は、これ以前にアメリカ、ニュージーランド、フランス、イギリス、ノルウェー産の日本酒を試飲したことがあったが、それぞれ土地の味と解釈があり、とても興味深かった。世界中で、地酒として広まっていく日本酒。これから、どんな変化が起こっていくのか楽しみだ。

アルコール飲料以外の出展者もあり、さまざまな形で日本を楽しめるのも、このイベントの人気の理由。

日本茶のSETSUNAのブースでは、緑茶だけでなく玄米茶やほうじ茶も販売。100%日本産原料、またオーガニック認証を受けたものだけを販売というこだわりのティーショップだ。パッケージや配送ボックスにリサイクルペーパーを使うなど、エコも心がけている。

日本の調理器具を販売するCocktail7は、通販専門ショップ。なぜ店名がカクテルなのか? と聞くと、「もともとカクテル用品を販売していたが、日本の調理器具を販売しはじめたら当たって、こればかり売れている」とのこと。売れ筋は、スライサーと小型包丁。フランスでは、日本の調理器具がプロはもちろんアマチュアにも大人気だ。

「サロン・デュ・サケ」では、ペアリングなどに関するマスタークラスやアトリエも多く開催される。展示会の開幕前に、ネット予約で満席になってしまうイベントも。今回は、プロ向けのマスタークラス「福井県 日本酒と本物の越前そばの発見」に参加した。

日本酒に造詣の深いワインジャーナリスト、ソフィア・ラファイエとパリのミシュラン一つ星「アクサン」のソムリエ、エチエンヌ・ビラール、そしてこの展示会の主催者であるシルヴァン・ユエの司会により、福井県の日本酒5種類と越前そばの試飲・試食が進められた。

試飲アイテムは、左から、

「無の心 さかほまれ 純米大吟醸」(越の磯)
「梵 Born 特選 純米大吟醸」(加藤吉平商店)
「北の庄 九寿龍 純米吟醸 九頭竜米使用」(船木酒造)
「越前岬 特別純米 奥越前五百万石」(田辺酒造)
「花垣 貴醸年譜1年」(南部酒造場)

この日はプロ向け(ソムリエ、酒販店など)の講座だったため、日本酒に詳しい参加者も多かった様子だが、ソムリエのビラールは「山田錦はシャルドネのように応用力に富み、五百万石はマルサンヌのように素朴」とブドウに例えるなど、ワインに親しみが深いフランス人にも理解しやすい解説を行なっていたのが印象的だった。

オペラ地区に店舗を構える越前そばの専門店「東郷」が、冷やしそば、温かいそば、そばのデザートを提供。

とくに、貴醸酒「花垣 貴醸年譜1年」とそばのクレームキャラメル(プリン)の組み合わせは、甘さ、風味、やわらかでトロッとしたテクスチャーともに、素晴らしいペアリングであった。

また、「越前岬」はグラスだけでなく、少し温度を上げて越前焼のおちょこでもサービス。参加者たちは、提供する温度と器の違いによる味の変化を観察し、日本酒のさらなる奥深さを楽しんだ。

Text:Eriko Yoshida