綿引まゆみ
日本在住/ワインジャーナリスト
会社員を経て、フリーランスのワインジャーナリストへ。ワイナート本誌のほか、ライフスタイル誌、オンラインメディアなどに執筆。ビアソムリエ(JBSA)、チーズプロフェッショナル(CPA)、コーヒー&ティーアドバイザー(ADRJ)。公式ブログ:https://blog.goo.ne.jp/may_w/
新レギュレーションで品質向上&多様化したCavaを楽しもう
スペイン伝統製法の瓶内二次発酵で造られるカバ(Cava)は、世界中で飲まれているスパークリングワインである。その規則が2020年に変更され、21年から新規則が適用となることから、カバ原産地呼称統制委員会(本部:スペイン、会長:ハビエル・パジェス)による説明会が、オンラインで行なわれた。
カバの新レギュレーションが2020年に制定
カバの伝統的な瓶内二次発酵製法が誕生した1872年からまもなく150年。DOに認定されているカバの原産地保護措置と規則は1991年11月の省令が直近であったが、20年に新しい規則が制定された。
カバに許可されているブドウ品種は以下9種で、変更はない。
白品種:マカベオ、チャレッロ、パレリャーダ、シャルドネ、スビラ・パレン
黒品種:モナストレル、トレパット、ピノ・ノワール、ガルナッチャ・ティンタ
カバの味を決めるのはドザージュ(リキュール添加)である。ドザージュ・ゼロのブルット・ナトゥレから、エクストラ・ブルット、ブルット、エクストラ・セコ、セコ、セミ・セコ、ドゥルセ、の7タイプで、こちらも従来通りである。
新規則として追加されたのは「地域」である。
カバの原産地呼称をより正確に理解するため、DOカバの産地にサブエリアの分類が20年に承認され、4つのゾーンが特定された。
①コムタッツ・デ・バルセロナ
スペイン東北部カタルーニャ地方のバルセロナ周辺で、元々カバが生産されていた地域。カバの生産量の95%がこのゾーンで造られている。広いゾーンのため、5つのサブゾーンがある(セラ・デ・マル、バイス・ダノイア、コンカ・デル・ガイア、セラ・デ・プラデス、プラ・デ・ポネン)。
②バリェ・デル・エブロ
スペイン北部、赤ワインで有名なリオハに近いエブロ川流域。離れたふたつのサブゾーンがある(アルト・エブロ、バリェ・デル・シェルソ)。
③ビニェドス・デ・アルメンドラレホ
スペイン西部、ポルトガルに近いエクストラマドゥラ州。
④レバンテ
スペイン東部、バレンシア地方。
4つの地域ゾーン設定の背景には、「カテゴリー」の変更がある。
カバは瓶内熟成の期間の長さでカテゴライズされており、最低法定期間は9カ月、15カ月以上がレセルバ、30カ月以上がグラン・レセルバだった。この瓶内熟成期間が変更され、熟成期間が長くなったのに伴い、4つの生産地を明確にした新規則が20年に発表された。以降、瓶内熟成期間のカテゴリーは4つになり、21年から初めて適用される。
各カテゴリーの認証マークが色分けされた。左より、
カバ・デ・グアルダ:9カ月以上
カバ・デ・グアルダ・スペリオル・レセルバ:18カ月以上
カバ・デ・グアルダ・スペリオル・グラン・レセルバ:30カ月以上
カバ・デ・グアルダ・スペリオル・パラヘ・カリフィカード:36カ月以上
注目は、36カ月以上の「カバ・デ・グアルダ・スペリオル・パラヘ・カリフィカード」(略パラヘ・カリフィカード)である。
パラヘ・カリフィカードは、パラヘ(スペイン語で「場所)の意味」という言葉が表すように、36カ月以上という熟成期間だけでなく、「小さなエリア、とくにその土壌と気象条件が特別でユニークであると認識されている土地」が必要条件となる。また、ボデガ(ワイナリー)自体に属するブドウ樹からのみ生産されること、最低10年以上のブドウ畑から手摘みで収穫したブドウを使用すること、1haあたりの最大収量は48hℓ 以内であることが求められる。さらに、カバはボデガ(ワイナリー)の敷地内で造られることが加わり、ブドウ畑から市場まで完全なトレーサビリティが求められる。味わいは、ブルット・ナトゥーレ、エクストラ・ブルット、ブルットの3つのタイプで、同じヴィンテージで造られる。
パラヘ・カリフィカードは、上記の非常に厳しい品質基準をクリアした高い品質と、独自の個性をもつ特別なカバなのだ。今後、パラヘ・カリフィカードは、25年までには100%オーガニックとなる。これは、伝統製法の高品質スパークリングにおいて、世界でもっとも厳しい基準である。
21年10月現在で認証されているパラヘ・カリフィカードは、6ボデガの10のカバのみ。ひし形の中にPのパラヘ・カリフィカードの認証マークはまだ付いていないものもあるが、21年秋の収穫からはすべてのボトルに付くと聞いた。
※6ボデガ:Alta Alella、Codorniu、Juvé & Camps、Pere Ventura、Vins et Cep、Vins Familia Ferrer
なお、パラヘ・カリフィカードに限らず、ひとつの生産者が圧搾から醸造まで100%統合的に生産していることを認める「INTEGRADOR ELABORADOR」と記載された新検査スタンプが作られている。この新検査スタンプも、今後のカバ選びのひとつの指標になる。
多様なカバを料理と楽しむペアリングのコツ
4つのゾーンに4つのカテゴリー、7つの味わいに9のブドウ品種。これらの組み合わせで造られるカバは、非常に多様性のあるスパークリングワインといえよう。そこで、カバの第一人者である菊池貴行ソムリエが、カバの選び方、食との多様なペアリングのコツを紹介した。
「新レギュレーションになったことで、消費者にもわかりやすくなったのではないでしょうか。瓶内熟成期間が9カ月のカバ・デ・グアルダはフレッシュな香りが華やかで、味わいもフレッシュです。18カ月熟成になると、より風味豊かになり、ポテンシャルが楽しめます。30カ月熟成は色調がゴールドになり、深みのあるリッチな味わいになってきます。36カ月熟成は、いまのところ限られた地域の6ワイナリーなので、飲むチャンスはまだ少ないと思います」と菊池ソムリエ。
4つのゾーンについては、「カバの生産地域のキャラクターが、ようやくカテゴライズされました。コムタッツ・デ・バルセロナは海沿いの産地なので、ミネラル豊富なカバになります。バリェ・デル・エブロは、果実味豊かで長期熟成可能なスタイルが多くなり、バレンシア地方のレバンテはトロピカルなカバになります。ビニェドス・デ・アルメンドラレホは、ポルトガルに近い内陸部の非常に小さな産地です」と説明する。
菊池ソムリエいわく、「カバと食とのペアリングは、食材とソースがポイント」。食材ごとのペアリングのコツを紹介してくれた。
■魚介類
塩とミネラルがポイント。海の魚は塩とミネラルの影響が強く、運動量が多いので肉質がしっかりしているが、淡水魚の川魚は運動量が少なく、餌の影響も肉質に出る。白身魚は繊細で淡白な味なので、フレッシュで繊細なカバが合う。
イワシの鉄板焼きを塩とオイルで食べるなら、塩とカバのミネラル分が合うので、フレッシュなカバがお勧め。小エビなどの小さな甲殻類はミネラルの要素が強く、ロブスターや伊勢エビなどの大きな甲殻類はうまみの要素が強くなるので、前者はミネラリーで繊細なカバを、後者は熟成感のあるしっかりした味わいのカバと。
■野菜
フレッシュな生野菜はフレッシュなカバを、火入れして甘みの出た野菜は、泡がやわらかでしなやかなカバが合いやすい。キノコ料理は、キノコの熟成香がカバの熟成香に似ているので、熟成感のあるカバを。
■肉類
鶏肉や豚肉には、白身肉のふくよかさやゼラチン質、脂の甘みを壊さないカバと合わせて。ピンクの肉質の羊にはロゼ、赤身肉には熟成タイプのカバを大ぶりのグラスで。肉料理の場合、カバの提供温度が低すぎると、香りも味わいも弱くなるので、10~12℃がお勧め。
「調理法では、火を入れると素材のうまみを引き出すので、より複雑なカバを合わせるのがコツ。カバは多様性があるので、食との組み合わせが楽しめるワインだと思います」と、菊池ソムリエ。
「銀座 カバ ディスカバリーウィーク #1」が11月に開催
カバ原産地呼称統制委員会の主催によるキャンペーンイベントが、11月1日(月)~11月12日(金)までの約2週間、東京で開催された。
カバ原産地呼称統制委員会は、カバの魅力を啓発するプロモーション活動を世界各国で実施している。新規則が初めて適用される今年、カバの輸出先第5位の日本(年間出荷数約1000万本)においてジャパンキャンペーンを行なうことを決定した。
その一環として実施されたのが、「銀座 カバ ディスカバリーウィーク #1」である。カバの魅力と新たな食との調和を提案するため、美食の街・銀座の名店22店舗が参加し、オリジナルのペアリングメニューを提供した。24ワイナリーから40アイテム以上、上位カバを中心に各店がセレクトし、カバのグラス2杯と料理のペアリングメニューを用意。このジャパンキャンペーンの監修も菊池貴行ソムリエが行なった。
<DO CAVAデータ>
●3万8000ha以上のブドウ畑
●6800軒以上のブドウ農家
●370のワイナリー数
●スペインでもっとも輸出されている原産地呼称ワイン(国際市場での売上比率60%)
●100カ国以上に輸出
Text & Photo:Mayumi Watabiki