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谷宏美

日本在住/フリーランス ライター

エディター/ライター。ファッション誌の美容エディターを経て、2017年よりフリーに。渋谷のワインバー「ローディ」で店の仕入れや現場でのサービスをやりつつ、ワイン&ビューティの分野で取材・執筆を行なう。J.S.A.認定ワインエキスパート。バタークリームとあんこは飲み物。

2022.04.13
column

ボージョレワインを徹底的に楽しむペアリング 〜シャルキュトリーからデザートまで

偉大なるワイン産地のひとつであり、熱意ある造り手を輩出し続けるボージョレ。その楽しみ方を提案するディナーイベントが開かれ、アペリティフからデザートまでを通してボージョレのアペラシオンをペアリング。多様性と懐の深さをあらためて体感した。

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■ワイン通を惹きつけてやまないボージョレワインの魅力

目下ニューワールドでも盛んに植えられているガメイ・ノワール。表情が豊かでときにチャーミング、ときに大胆、かつ熟成に耐えうる偉大なワインもたくさん。ワイン通の中にはこのガメイを愛するあまり自称「ガメラー」もいるくらいだ。このブドウを語るのに避けて通れないのがボージョレである。

1万3500ヘクタールからなる広大なボージョレ地区には、広域アペラシオンとクリュ・デュ・ボージョレを合わせて12の原産地呼称があり、多種多様なキャラクターを誇る。また2018年にユネスコ世界ジオパークのひとつにボージョレ地区が認定されたこともあり、地質学的的にも注目を集める産地。

ガメイがその本領を発揮するとされる花崗岩土壌はいまや多岐にわたり細分化されるほか、火山岩質土壌の中にはコルヌ・ヴェールやピエール・ブルーと呼ばれる青みがかった特徴的な石の層、シストなどじつにさまざまな地質が入り組んで構成されていることが、近年の研究で明らかになっている。土壌マニアならワクワクする話だ。

■ボージョレ通しのペアリングディナーが実現

そんなボージョレワインの多様性を検証すべく企画されたのは、洗練されたフランス郷土料理を楽しめるビストロ「ブノワ」の野口貴宏シェフと、ボージョレ地区のサンタムールにある「AU 14 FEVRIER Saint-Amour Bellevue」にてソムリエ・支配人を務める石塚裕介さんのコラボディナー。

前菜からデザートまで4品にすべて異なるボージョレのアペラシオンのワインをペアリングしつつ、ボージョレの石塚ソムリエをオンラインでつなぎ、生産者やAOCの特徴、ペアリングのポイントを解説するという、インタラクティブで臨場感あふれるイベントだ。

用意されたワインは以下。


1.
ボージョレ・ブラン テール・ド・ロワズ 2017
ドメーヌ・ローラン・ペラション・エ・フィス
Beaujolais Blanc Terre de Loys 2017
Domaine Laurent Perrachon et Fils
AOC:ボージョレ

2.
Saint Amour Cellier des Cros 2019
Mainson Louis Jadot
サン・タムール セリエ・デ・クロ 2019
メゾン・ルイ・ジャド
AOC:サン・タムール

3.
ボージョレ 2019
シャトー・カンボン(マリー・ラピエール&J.C.シャヌデ)
Beaujolais 2019
Château Cambon M. Lappiere & J. C. Chanude)
AOC:ボージョレ

4.
ブルイィ 2019
ヴィニュロン・ド・ベレール
Brouilly 2019
Vignerons de Bel Air
AOC:ブルイィ

5.
コート・ド・ブルイィ クロ・ベルトラン 2018
シャトー・ティヴァン
Côte de Brouilly Clos Bertrand 2018
Château Thivin
AOC:コート・ド・ブルイィ

6.
モルゴン コート・デュ・ピュイ ジャヴェルニエール 2019
ドメーヌ・ルイ・クロード・デヴィーニュ
Morgon Côte du Py Javernières 2019
Domaine Louis Claude Desvignes
AOC:モルゴン

これらのワインに合わせて用意されたメニューはこちら。

冷前菜/ジビエのテリーヌ イチジクのコンディモン
温前菜/フォアグラのポアレ ビーツとカブ ポルトソース
主菜/牛ホホ肉の赤ワイン煮込み ブルゴーニュ風
デセール/タルト・オ・マロン カシス

■ディナーの模様は……

まずは、ボージョレワインの生産量の3%というボージョレ・ブランがグラスに注がれる。爽やかな酸味とミネラル感が特徴的。この日はコースディナーがスタートする前の食前酒としてサーブされたが、現地ではマコネ産のシェーヴルチーズや鶏肉、豚肉料理に合わせたりするそう。

生産者のドメーヌ・ローラン・ペラション・エ・フィス は現当主が5代目の老舗で、古木から滋味深い味わいのワインを造る。2017年は酷く乾燥した年で、樹齢が若いと根が下まで届かずうまく水分を吸収できないほどだったと石塚さんが解説。畑はサン・タムールとサン・ヴェランに囲まれた区画の粘土石灰質土壌。

ジビエのテリーヌが運ばれる。エゾジカと京都のイノシシにラルドを加えてコクを出し、中央にフォアグラが仕込んである。

そこにサーブされたのは、ルイ・ジャドのサン・タムール セリエ・デ・クロ 2019。クリュ・デュ・ボージョレの最北に位置するアペラシオン、サンタムール。花崗岩、シスト、粘土質と変化に富んだテロワールで、総じてフレッシュで優しい味わいに。現地では郷土料理であるアンドゥイエットと合わせたりするが、野趣と洗練が同居する端正なテリーヌの味わいに見事に同調した。

続いて、シャトー・カンボンのボージョレ。ボージョレのみならずフランス中のナチュラルなワイン造りに大きく貢献した故マルセル・ラピエールの妻マリーと、マルセルの幼馴染みでもある共同経営者ジャン・クロード・シャヌデによるドメーヌ。マリーはマルセルの遺志を受け継ぎ、ふたりの子供たちと真摯な栽培と醸造を続けている。

2019年のボージョレは酷暑でダメージを受けたエリアも多いが「どんな過酷な状況でもブドウは自分で調整をする」と極力人的な介入を避けたという。その結果、赤い果実の香り豊かで上品な仕上がり。フレッシュさもありながら熟成の可能性も大いに感じられる。

フォアグラのポアレがサービスされる。フレッシュなフォアグラを焼きあげ、脂のうまみと溶け合うコクと甘みとあるポルト酒のソース。冬の根菜のビーツとカブの甘みとともに合わせて楽しめる料理。シャトー・カンボンのボージョレにも合わせられるし、次のワイン、ブルイィ 2019にもいい。

1200ヘクタールの面積を誇り、ボージョレの中でももっとも大きなエリアであるブルイィは、チャーミングな木イチゴの香りが前面に出て、フレッシュなうちから気軽に楽しめる。協同組合ヴィニュロン・ド・ベレールが醸造したこのワインは、暑く乾燥したヴィンテージゆえに色濃く、豊かな果実味が感じられ、フォアグラのうま味、キメ細かな肉質と好相性。

メインであるブッフ・ブルギニョンに合わせられたのは名門シャトー・ティヴァンのコート・ド・ブルイィ 2018。4つの村から成るコート・ド・ブルイィは山の斜面に畑が並び、過酷な作業が強いられるが、畑の40%の表土はピエール・ブルーと呼ばれる硬くキレイに割れた青い石に覆われ、ブドウ樹が深く根を下ろすのを助けている。ワインは相対的にしっかりした骨格と力強さを兼ね備え、スパイシーでミネラル感もあるため、熟成させてこそ真価が出るとされる。

中世から続く優良畑クロ・ベルトランから生まれたワインは、熟したイチゴやチェリーにアプリコット、ピオニーの花にヨードのニュアンスと複雑なアロマ。牛ホホ肉を香味野菜と赤ワインで3時間煮込み、煮崩れる前に取り出して肉質もしっかりと残し、スープを煮詰めてまとわせたメインディッシュとは思わずうなずいてしまうペアリングだ。

デセールはクリのタルト。岐阜の銘菓・恵那川上屋の栗きんとんとブノワ定番の甘みを抑えたクリ、さらにフランス産のクリの3種のペーストを使い、中にカシスのマルメラードをしのばせた。この複雑なアントルメとともに、なんとモルゴンが注がれた。

クリュ・デュ・ボージョレの中でも生産量が多く、銘醸ワインも多いモルゴン。斜面にある花崗岩質土壌から、骨格があり、キレイな果実味と豊富なミネラル感のあるバランスのよいワインが生まれる。老舗ドメーヌであるルイ・クロード・デヴィーニュは少しだけ粘土質土壌のガメイを混ぜ、より力強いタイプに仕上げた。赤い果実と黒い果実のニュアンスが、クリとカシスのデザートを味わい深くなめらかに受け止める。

ユニークな土壌、気骨ある生産者。ことナチュラルな造りに関してはフランス全土に影響を及ぼすほど注目される産地でもある。知れば知るほど、飲めば飲むほどハマるボージョレ。アペラシオンごとに飲み比べてみてはどうだろう。

Text & Photo : Hiromi Tani