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    いばらきワインの可能性

谷宏美

日本在住/フリーランス ライター

エディター/ライター。ファッション誌の編集部を経て、2017年よりフリーに。国内外の産地を巡り、ノンアルワインからブランデーまで、酒と食と旅にまつわる記事を執筆。J.S.A.認定ワインエキスパート。バタークリームとあんこは飲み物。

2026.07.01
column

県産食材とのペアリングで探る
いばらきワインの可能性

2026年3月現在でワイナリー数13軒と、全国6位を誇る茨城県。農業産出額でも全国有数の規模をもち、奥久慈しゃもや常陸牛、那珂湊や大洗で揚がる魚介など、食材の宝庫としても知られる。そんな茨城のワインと料理を組み合わせる試みが、牛久市にある「牛久シャトー」で開催された。

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日本遺産を構成する
重要文化財「牛久シャトー」

牛久シャトーは、日本ワインの歴史を語るうえで欠かせない場所のひとつ。1903年に神谷傳兵衛が開設した牛久醸造場を前身とし、国の重要文化財に指定されていると同時に、日本ワインの歴史を伝える日本遺産「日本ワイン140年史」を構成する文化財のひとつでもある。

浅草で神谷バーを成功させた神谷は、日本にワイン産業を根付かせるべく、東京と鉄道で結ばれた牛久の地に着目した。ボルドーのシャトーに倣って広大なブドウ園を造成し、栽培から醸造、貯蔵までを一貫して行なう、当時としては画期的なワイン事業を始めたのである。

しかしその歴史は、戦後の農地改革によって歩みを止める。大地主制の解体により畑は分散し、ブドウ栽培は次第に衰退。ワイン造りも一時的に下火となった経緯がある。近年、この歴史ある牛久でのワイン産業を復興させるべく、牛久市や茨城にゆかりのあるワイン関係者が栽培や醸造の再興に取り組み、この地の気候風土を生かした品質重視のワイン造りを模索している。

安蔵光弘が監修した
茨城の食&ワインのペアリング

こうした歴史と現在が交差する場所で開かれたのが、県産食材と県産ワインを紹介するメディアイベント。国内外でフレンチのキャリアをもつ大野文彦が料理を考案し、水戸の出身で茨城の食文化にも精通する、日本を代表する醸造家 安蔵光弘がペアリングを監修した。

(左)ボルドーやパリでフレンチの研鑽を積んだ大野文彦。現在は服部栄養専門学校で後進の育成に携わるほか、
テレビ番組やドラマの料理監修、商品開発など幅広く活躍。
(右)メルシャン エグゼクティブ・ワインメーカーの安蔵光弘。茨城県水戸市出身でいばらき大使も務める。


【アミューズ】
人参のムース〔有機人参、奥久慈しゃも、霞ヶ浦キャビア〕
豚のリエット〔常陸の輝き(ブランド豚)〕
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武龍ワイナリー 瑞龍シャルドネ ペティアン 2022

人参のムースとうま味の強い地鶏のコンソメジュレに、豚のリエット。合わせたのは、常陸太田市の南向き斜面で栽培したシャルドネから造られたペティヤンである。穏やかな泡と柔らかな酸が特徴で、ニンジンの甘みやキャビアの塩味、リエットの脂と優しく寄り添う。安蔵は「酸は強くないが、柔らかな口当たりがスターターのよいパートナーになる」と解説。

【冷前菜】
常陸乃国まさば、常陸牛〔常陸乃国まさば(海面養殖魚)、常陸牛 煌(ブランド牛)〕
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Bee’s Knees Vineyards & Winery Nostalgia 2023

適度に脂が乗り、引き締まった身質のサバをハーブとスパイス、リンゴ酢でマリネし、しっとりと火入れした牛肉とともに盛り付け、柑橘を加えたタプナードを添えた。グラスに注がれたのは、熟度の高いシャルドネを醸し発酵させたオレンジワイン。アプリコットやビワ、紅茶、ハチミツを思わせる香りと、柔らかな果実感、かすかな苦みが特徴。安蔵はさまざまなワインを試したというが、「単独で飲むよりも料理が欲しくなるフードフレンドリーなワイン」と評価するこの1本が、魚にも肉にも絶妙にマッチしていた。

【温前菜】
常陸牛のしゃぶしゃぶ コンソメ仕立て〔常陸牛 煌(ブランド牛)〕
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牛久シャトー 牛久葡萄酒メルロー 2024

コンソメが注がれた常陸牛に、牛久シャトーのメルロ。牛久醸造所は創業後、いち早く栽培をメルロの栽培を始めたといい、現在の長野や山形とは異なる軽やかなスタイル。若いヴィンテージらしい青さをかすかに残しつつも、軽快な果実味と穏やかなタンニンがあり、コンソメのうま味をまとった薄切りの牛肉とは好相性だ。安蔵は「未熟果ではない青さはブドウの要素のひとつ。料理と合わせることで魅力になり得る」と評した。

【魚料理】
ひらめと常陸乃国いせ海老のムース ソースアルベール〔ひらめ、常陸乃国いせ海老〕
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つくばワイナリー TWIN PEAKS BLANC 2024

“常磐もの”のヒラメと伊勢海老のムースに、ベルモットやキノコの出汁、牛や魚介のフォンを重ねたソースを添えたひと皿。これに合わせたのは、シャルドネ主体にプティ・マンサンやアルバリーニョをブレンドしたふくよかな白ワイン。柑橘の香りと豊かな酸が、繊細な食材と複雑なソースを引き立てる。安蔵は「近年はシャルドネだけでは酸が不足しがち。ブレンドでバランスをとるという造りは、温暖化の影響を受ける現在における選択肢のひとつ」と語った。

【肉料理】
常陸国天然まがものロースト瞬間燻製 まがものコンフィとジュ〔常陸国天然まがも〕
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武龍ワイナリー 瑞龍ピノ・ノワール 2023

ビーツのピュレも添えた鴨のロースト。合わせたのは2023年のピノ・ノワールだ。暑いヴィンテージらしく赤いベリーの果実味が前面に現れ、軽やかなスタイルが鴨のうま味や燻製香を引き立てる。安蔵は「ピノ・ノワールはむずかしい品種だが、産地の素材と合わせて楽しめるレベル」と評価した。

【チーズとデザート】
新利根チーズ工房「月利根~神月~」、ひたちおおたチーズ工房「さとやま」
(地酒で洗ったウォッシュチーズ、セミハードチーズ)
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つくばワイナリー TSUKUBA ROUGE PREMIUM 2022

いばらキッスのロマノフ〔いばらキッス(イチゴ)〕
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牛久シャトー 2025青デラ初しぼり デラウエア

終盤には、熟成チーズとともに富士の夢100パーセントの強いボディをもつ赤ワイン、イチゴを使ったデザートに残糖を残したデラウェアが供され、コースは締めくくられた。

それぞれに緻密な味わいのマリアージュが展開された今回のペアリング。大野シェフが茨城県産食材から料理を組み立て、安蔵がワインを選定。試作と調整を重ねて完成させた。「県産ワインはまだ発展途上だが、農業県としてのポテンシャルは非常に高い。いまの姿を見て、これからに期待してほしい」と安蔵が語るように、茨城のワインには、料理と合わせたときの発見があった。太平洋に面し、変化に富んだ地形と国内有数の淡水湖を有する茨城県は、豊かな食資源に恵まれている。今回のペアリングイベントは、そうした土地の恵みがワインとともに食卓で結実する可能性を示していたといえる。

Text & Photo : Hiromi Tani