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谷宏美

日本在住/フリーランス ライター

エディター/ライター。ファッション誌の美容エディターを経て、2017年よりフリーに。渋谷のワインバー「ローディ」で店の仕入れや現場でのサービスをやりつつ、ワイン&ビューティの分野で取材・執筆を行なう。J.S.A.認定ワインエキスパート。バタークリームとあんこは飲み物。

2022.04.08
column

“標高、樹齢、品種”が生むポルトガル北部「ダオン」の味わいを探る

ポルトガルの中でも標高が高いところに畑があり、多雨で冷涼な産地であるダオン。ポルトガルワインのエデュケイターである別府岳則氏がモデレーターを務め、このダオンの生産者とソムリエの井黒卓氏を迎えてのウェビナーに参加した。ダオン産の5種のワインのテイスティングを通して、歴史あるこの産地のいまを垣間見ることができた。

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■別府氏によるダオンのレクチャー

ワイン造りの長い歴史をもちながら、1930年代の独裁政権下で鎖国同様の状態が続き、閉ざされた産地であったポルトガル。EU加盟後のワイン産業への投資によってその品質は著しい成長を遂げ、その品質の高さに注目が集まっている。実際、ポルトガルは地域ごとに多様な土壌と多くの固有品種を有し、古木が多く残されている、魅力的なワイン生産国だ。

そのポルトガルの中で北部の内陸に位置するダオンは、生産量は多くないものの古くから名声を誇る産地。

理由としてまず、この地域特有のユニークな地形が挙げられる。カラムーロ山脈、ブサコ山脈、ナーヴ山脈、エストレーラ山脈という山に囲まれ、その内側に盆地がある。山により大西洋からの冷たい風や大陸の嵐から守られ、さらに地域内を流れるダン川とモンテゴ川というふたつの大きな川が水の影響を与える。こうした地形がミクロクリマを生む。

標高の高い山に雲が当たって雨が降るため、山地では年間1200ミリから1300ミリと多雨。土壌は岩のまま残っている花崗岩が主体。隣接するヴィーニョ・ヴェルデでも花崗岩が見られるが、風化して砂になっているのだそう。

岩がちな花崗岩の畑(Quinta da Pellada)。


土着品種によるブレンドワインがスタンダードな造り。黒ブドウは、ボルドーのアペラシオンで認められたことでも話題になっているトゥーリガ・ナショナルが代表的で味わいの骨格をつくる。ほかにアルフロシェーロやティンタ・ロリス(=テンプラニーニョ)、ジャエン(=メンシア)などがある。白ブドウは、単一で造られることも多いエンクルザードを始め、マルヴァジア・フィナ、ビカル、セルシアル・ブランコといった品種が栽培されている。

地理的にダンは、濃厚でアルコール度数の高いワインを造るドウロに隣接するが、冷涼な上に多雨で日照量が少ないためにキャラクターは異なる。ドウロの赤は熟したベリーが前面に出るパワフルなイメージでアルコール度数も14〜14.5%が標準的。一方ダオンでは赤ワインでもアルコール度数が13%前後のものが多く。赤系ベリーに加えてフローラルなニュアンスと酸を合わせもつスタイルになる。

■テイスティング〜生産者と井黒氏のコメント

テイスティングは、現地から生産者によるワイナリーとワインの紹介のあとに、井黒氏が試飲コメントを述べ、別府氏が補足説明をする形で進められた。



1
Quinta dos Roques Encruzado 2019
Quinta dos Roques
キンタ・ドス・ロケス エンクルザード 2019
キンタ・ドス・ロケス

単一品種のパイオニアである生産者がエンクルザード100%で造るリッチな白。

当主ルイス・ローレンソ氏は単一で造ることについて、「ブドウ品種の特徴をダイレクトに表現することで味わいがわかりやすくなり、消費者への説明もしやすい。品種の個性を価値として重要視しているからであり、それをダオンのワインとしてリリースすることが大切だと思っている」と語った。

【井黒氏のテイスティングコメント】
「熟れた白桃や黄桃、ハニーデューメロン、シナモンなど樽由来のスパイス。酸味を基調とするリニアで引き締まった味わい、ビターなフィニッシュ。 オイスターシェルや海風を思わせ、ダオン地方のテロワールを感じる白ワイン」。

2
Cabriz Colheita Selecionada Tinto 2018
Global Wines
カブリス コレイタ セレクシオナーダ ティント 2018
グローバル・ワインズ

アルフロシェーロ40%、トゥーリガ・ナショナル30%、アラゴネス(=テンプラニーニョ)30%という、ダオンの赤ワインの代表的なセパージュによるブレンド。

カブリスは年間200万本を生産するグローバル・ワインズにおける主力ブランドで、赤、白、スパークリングやスタイルの違うレゼルヴァなどを展開。有力ワイン雑誌で高評価を得ているほか、ポルトガル国内のコンクールでも複数回受賞するなど一貫した高い品質が認められている。

【井黒氏のテイスティングコメント】
「クランベリーやラズベリーといった赤系果実の明るい感じ、ピオニーのように華やかなフローラルのニュアンス。空気を含ませるとシナモンのスパイシーさ。ミディアムでタイトかつしなやかなボディ。味わいは軽やかだが、酸味からくるイキイキとしたテンションを感じさせる。優しい抽出を確信させる穏やかで溶け込んだタンニン」。

3
Invulgar Tinto 2017
UDACA
インヴォルガー ティント 2017
ウダカ

トゥーリガ・ナショナル75%、アルフロシェーロ25%の樽熟成の赤。

ウダカは1966年にダオンの生産者10社により設立された協同組合。代表のカルロス・シルヴァ氏は「各ワイナリーのワインの商業化を目的に作られ、現在は輸出に注力、生産量の70〜80%をアメリカやブラジル、ロシア、アジア、アフリカ、EU圏へ輸出している」と語り、別府氏が「小規模生産者が多いポルトガルでは協同組合の役割が大きく、品質もクラシックで安定したワインを造っている」と補足。

【井黒氏のテイスティングコメント】
「熟したブラックベリーやプラム、チェリー。スミレのニュアンス、オレガノなどドライハーブやスパイス感も。しっかりしたボディだがアルコール度数は13.5%と現在の標準では低め。果実のボリュームを酸が下支えする。パウダリーかつチュウイーなタンニン、長熟のポテンシャルもある」。

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Adega de Penalva Reserva Tinto 2017
Adega de Penalva
アデガ・デ・ペナルヴァ リゼルヴァ・ティント 2017
アデガ・デ・ペナルヴァ

トゥーリガ・ナショナル、ジャエン、ティンタ・ロリスの3品種による樽熟成のリゼルヴァ。

アデガ・デ・ペナルヴァはダオンで最大規模の生産者協同組合で1960年に設立。生産者代表のアントニオ・ピーナ氏は「ワイン以外のブドウを原料とする製品も多く生産し、地域の経済活動に貢献している。このワインは樹齢40年で、品種ごとに醸造して最後にブレンド。フレンチオーク樽で1〜2年熟成させたあとセメントタンクで貯蔵することで、ナチュラルでなめらかな味わいになる」と醸造方法を解説。

【井黒氏のテイスティングコメント】
「グラマラスでリッチなボディ、しっかりした樽のニュアンスを感じさせ、甘やかなトーンもあって凝縮度が高い。2のカブリスや3のインヴォルガーと比較すると非常にパワフルなイメージ」。

5
Ladeira da Santa Grande Reserva Tinto 2018
Ladeira da Santa
ラデイラ・ダ・サンタ グラン・リゼルヴァ ティント 2018
ラデイラ・ダ・サンタ

トゥーリガ・ナショナル80%、アルフロシェーロ20%のグラン・リゼルヴァ。

10ヘクタールの畑をもつ家族経営のワイナリー、ラデイラ・ダ・サンタのジョアン・ エクーニャ氏は「1997年に父がワイン造りを始めた。花崗岩がほとんどのダオンにおいて、我々の畑には片岩が混じり、それがワインの味わいに影響している。このワインはトゥーリガ・ナショナルの複雑さの中にアルフロシェーロの存在感を感じる、自分としても好きな割合のブレンド」とコメント。別府氏によると、ダンは花崗岩土壌の畑が98%を占めるが、南端の地区にわずかに片岩が見られるそう。

【井黒氏のテイスティングコメント】
「濃厚で凝縮感のあるワイン、赤系果実と黒系果実の双方のニュアンス、みずみずしいフルーツ感がレイヤーとなった複雑な香り。スパイスやハーブ、鉛のような鉱物的なミネラルが渾然一体となっている。イキイキとした酸味、しなやかでソフトやタンニン、長い余韻。多角的な要素をもつワインで個人的にも好みのタイプ」。

ダオンワイン委員会会長のペドロ・メンドーサ氏(画面上)、
モデレーターを務めた別府岳則氏(画面左)、
テイスティングコメントを担当した第9回全日本最優秀ソムリエコンクール優勝者で
「ロオジエ」ソムリエの井黒卓氏。



■ダオンの優位性とトレンド、展望

ダオンのワインの優位性について、井黒氏は「冷涼な畑から造られる低アルコールのワインはトレンディであり、ブレンドによるおもしろさや食事との合わせやすさといった点でユニーク。品質に比してコスパが高く、市場でのポテンシャルも充分。避暑地のイメージも魅力的」とまとめた。

また別府氏によると昨今のダオンのワインの傾向として、世界の潮流に則ってエレガントなスタイルが増えているという。樽感のあるふくよかな味わいが主流だった白品種のエンクルザードは、香りが華やかで酸を感じさせつつタイトに仕上げる生産者も増え、まったく樽を使わないものも。クラシックなスタイルの赤ワインも新樽比率が下がったり、収穫のタイミングも変わってきたりしている。世界の産地がそうであるようにここダオンでもマウンテンエリアが注目され、とくに南東部のエストレーラ山脈の畑で生まれるワインは人気だそう。

一方で、「そうしたトレンドによって造りの幅は広がっているが、“標高、樹齢、品種”という3つの要素がダオンのワインのキャラクターを形成し、ダオンにしかない味わいを生む。そのことは変わらない」と語る別府氏。標高の高さと高樹齢、バラエティ豊かな土着品種がつくるダオンらしいワインとはどんなワインなのか。

筆者は縁あってポルトガルワインの執筆が続いているのだが、その魅力を掘り下げることはいまとてもホットで、興味深いと感じている。


Text & Photo:Hiromi Tani