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谷宏美

日本在住/フリーランス ライター

エディター/ライター。ファッション誌の美容エディターを経て、2017年よりフリーに。渋谷のワインバー「ローディ」で店の仕入れや現場でのサービスをやりつつ、ワイン&ビューティの分野で取材・執筆を行なう。J.S.A.認定ワインエキスパート。バタークリームとあんこは飲み物。

2022.04.18
column

伝統製法を斬新な造りに再現した最古のコニャックハウス「オージエ」

世界最古のコニャックハウス「オージエ」のウェビナーが開催された。セラーマスター自らが蒸留所や熟成庫、ブレンド室を案内しながら自社のアイテムとその造りを紹介し、テイスティングではシガーとのペアリングも提案。コニャックの魅力とメゾンのユニークネスを伝える興味深い内容であった。

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■380年の歴史をもつメゾンの再建

本誌108号「ワイン好きのための食後酒入門」でも書いたとおり、ブランデーはいま、コントによる格付けにとらわれず、その個性を楽しむのも一興とされる。「コニャック オージエ」は、そんな時流のなかで紹介するのにふさわしいコニャックハウスだ。

ワイン商のフィリップ・オージエが1643年に創業したこのメゾンは長く休眠状態にあったが、2015年にアルドリック・デヘクをセラーマスターに迎えて再建。最古の歴史をもつコニャックハウスとして新たなステージの幕を開けた。脈々と受け継がれたコニャック造りの伝統と蓄積されたノウハウをもとに380年前の製法を復活させ、ユニークな3種のコニャックをリリースしている。残っていた書類ベースの資料は積み重ねると1キロメートルに及ぶ量だった。

セラーマスターとしてメゾンを率いる
アルドリック・デヘク。

「味わいの中に老舗メゾンの歴史を感じてもらえるようなコニャック造りに努めている」というアルドリック・デヘクの挨拶でセミナーがスタート。シャンパーニュ地方・エペルネに生まれ、ワインとシャンパーニュ醸造のキャリアをもつアルドリックは日々のテイスティングに加え、目下の目標と中長期的な視点に基づいたストックの管理と品質の管理を行なう。マスターブレンダーでもあるアルドリック、マスターディスティラーのダヴィッド・フロラック、約15のワイン農家が協業しつつ、380年を超えるメゾンの伝統を守っている。アルドリックはブドウの品質を重視し、ブドウ栽培段階から介入。コニャックのために良質な原料を作ることを目指しているという。

ウェビナー用に届けられた3種のミニボトルと
ロゴ入りコニャックグラス。


■ユニークな3つのメソッド

オージエのコニャックのポートフォリオは「オセアニック」「サンギュリエ」「ソヴァージュ」の3種で、そのバックボーンとなっているのが「シングルテロワール」「シングルグレープ」「シングルディスティレーション法」の3つメソッド。3種の商品をそれぞれ異なるテロワールで栽培された単一のブドウ品種を使い、熟成や使用する樽、蒸留方法を変えて造り分けている。

・シングルテロワール

コニャックのブドウ生産地区は、最良とされる石灰岩土壌のグランド・シャンパーニュから6エリアがある。

サンギュリエのAOCは良質なグランド・シャンパーニュとプティット・シャンパーニュをブレンドしたフィーヌ・シャンパーニュ、ソバージュはプティット・シャンパーニュ。ユニークなのはオセアニックで、ボワ・オルディネールの中でも大西洋に浮かぶ小さな島、オレロン島のブドウを使用している。このためブドウが海の影響を色濃く受けており、オセアニックは潮のアロマと塩味のある味わいが感じられる。

・シングルグレープ

AOC法で認可されているブドウは6品種ありブレンドも可能だが、コニャック全体の使用量の80%〜90%はユニ・ブランが使用される。オージエでもオセアニックとソバージュはユニ・ブラン100%。しかしサンギュリエだけは、現在生産量が少ないフォル・ブランシュという希少品種を100%使用する。栽培がむずかしい上に蒸留や樽の影響を存分に受けるデリケートな品種で、 オージエのパートナーであるワインメーカー約15軒のうち、5軒がこのフォル・ブランシュを扱っている。

・シングルディスティレーションメソッド

3アイテムそれぞれに蒸溜方法や澱の量を変え、個性をより明確にしている。オセアニックとサンギュリエはスーティラージュを行ない、1リットルあたりの澱がオセアニックで0〜2%、サンギュリエは2〜6%、ソヴァージュは澱を足して7〜15%程度の量となるように調整。ブドウ本来の味わいを残すため清澄は行なわない。また熟成樽も古樽、新樽、赤ワイン樽を使い分けている。

■バーチャルツアー

マスターディスティラーのダヴィット・フロラックは
シャラント出身。

アルドリックによるコニャックメイキングの説明のあとはメゾン内のバーチャルツアー。まずはマスターディスティラーのダヴィット・フロラックが蒸留所を案内する。

オージエには21基ものシャラント式蒸留器がありそれぞれの蒸留器で異なる蒸留方法がとれる。3種の製品それぞれに澱の量などを調整できるのはこのためだ。このときはちょうどやソヴァージュにブレンドされるプティット・シャンパーニュの原酒を蒸留していて、 フルーティな香りが辺り一帯に立ちこめている状態だという。

大樽、新樽、古樽とさまざまな樽が並ぶ熟成庫。

熟成庫に移動し、再びアルドリックがナビゲート。オージエでは5カ所の熟成庫を有し、ここはその中のひとつ。さまざまな種類の樽が並び、3つの製品で樽の種類も変えて熟成させる。

ピペットで樽から出したのは去年収穫され、今年樽に入ったばかりのボア・オルディネール。オセアニックになる原酒だが、繊細な香りを生かすために樽香の影響を受けにくい古樽のみで熟成させる。オージエでは加水はブレンド時に行なうため、この時点でのアルコール度数は64%。非常に高いのでテイスティングはしないが、まだクリアでフルーティさが存分に残っている状態だという。レモンのようなニュアンスも感じられる。サンギュリエは酒質が強いので新樽と赤樽を使いパワフルな味わいに。ソヴァージュは古樽、新樽、赤樽をすべて使用して複雑さを表現する。

マスターブレンダーの主たる仕事場は実験室のよう。

続いてブレンド室へ。ワインも同様だが、ブレンド室はさまざまな原酒のボトルやシリンダーがずらりと並ぶラボだ。セラーマスターはブドウやワインの質を管理し、蒸留段階の檻の状態も含めてすべてをチェック、日々熟成庫で原酒の状態を確認する。そして最後のいちばん大切なプロセスがブレンドという作業だ。たくさんの原酒をテイスティングし、パーセンテージを変えながら何をどのくらいの分量で入れたかをメモするというシンプルな作業の繰り返し。「こうした地道でアナログな過程が、オージエの味わいを守るための大切な作業」とアルドリックは語る。

■3アイテムをテイスティング

左からオセアニック、サンギュリエ、ソヴァージュ。

最後にオージエの3種のコニャックをセラーマスターとテイスティング。製法を確認しつつ、味わいやフードペアリング、おすすめの飲み方とともに、シガーのペアリングが語られるのはコニャックならでは。筆者は嫌煙家だがシガーの薫りは嫌いではなく、それぞれ試してみたい衝動にかられた。

〔オセアニック〕(写真左)
クリアで淡いイエローゴールド。フレッシュなレモン、グレープフルーツの柑橘のアロマ、スワリングすると海のミネラリーなキャラクター。イキイキとしたアタックに続いて、白い花のフラワリーな印象。スパイシーかつ塩味を感じる。

テロワール:ボワ・オルディネール/オレロン島
ブドウ品種:ユニ・ブラン100%
蒸留時の澱の量:0〜20ℓ/kℓ
熟成:古樽
飲み方:ストレートまたはオンザロック、ハイボールやカクテルにも
ペアリンング:魚介の料理
シガー:Romeo y Julietaなどの柔らかなタイプ
アルコール度数:40.1%
容量:700mℓ
希望小売価格:7,700円

〔サンギュリエ〕(写真中)
美しいアンバー色。フォル・ブランシュの特徴であるフローラルなニュアンスが、ボリューミーでふくよかに立ち上る。華やかな果実感、シナモンの甘やかなスパイス。余韻も長く続く。

テロワール:フィーヌ・シャンパーニュ(グランド&プティ・シャンパーニュ)
ブドウ品種:フォル・ブランシュ100%
蒸留時の澱の量:20〜60ℓ//kℓ
熟成:新樽、赤樽
飲み方:ストレートまたはオンザロック、サゼラック(カクテル)
ペアリング:天ぷら、チキンやポークのグリルにコニャックのソース添え。餡をつかった餅菓子とも相性がよい。
シガー:CAO Pilon Robustoなどのリッチなタイプ
アルコール度数:41.7%
容量:700mℓ
希望小売価格:9,570円

〔ソヴァージュ〕(写真右)
濃い麦わら色。フルーティさもありながら樽の印象も充分。ジャムのような凝縮された果実感、ブラックペッパーなどのスパイス。3製品の中でとくに注意を払って造る。 蒸留、熟成ともに3製品を包括する造り。

テロワール:プティット・シャンパーニュ
ブドウ品種:ユニ・ブラン100%
蒸留時の澱の量:70〜150ℓ//kℓ
熟成:古樽、新樽、赤樽
飲み方:ストレートまたはオンザロック、オールドファッション、サイドカー、マンハッタン
ペアリング:ジビエや赤身肉、チョコレート。ソース焼きそばや肉じゃがなども。
シガー:Partagas D No.4など強めのタイプ
アルコール度数:40.8%
容量:700mℓ
希望小売価格:7,700円

オージエのヴィンテージボトル。
左から順に1800年代後半のコント8、1930年代、1930年代のXXX、
1960年代のV.S.O.P.、1980年代のV.S.O.P.。

2015年以前の原酒は残っていないとのことで、熟成年数でいうといずれもコント4のV.S.O.P.にあたり、ブランデーとしては長期熟成を謳ってはいない。しかし、オージエのコニャックは、ボワ・オルディネールの中でも海のニュアンスをもつ島部のブドウや希少なフォル・ブランシュを採用したり、澱の量をコントロールするなど、明確にその個性が際立つような造りを実現している。よりワインに近い、いまどきの楽しみ方のように感じるが、これが創業当初のレシピをベースにしているというから原点回帰ともいえるだろう。セラーマスターのアルドリックは、ブランデーであってもやはりブドウが大事だと言い切る。ワイン愛好家だからこそわかるブランデーのおもしろさに浸ってみてはいかがだろうか。

輸入元:都光
https://www.toko-t.co.jp/

Text & Photo : Hiromi Tani