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谷宏美

日本在住/フリーランス ライター

エディター/ライター。ファッション誌の美容エディターを経て、2017年よりフリーに。渋谷のワインバー「ローディ」で店の仕入れや現場でのサービスをやりつつ、ワイン&ビューティの分野で取材・執筆を行なう。J.S.A.認定ワインエキスパート。バタークリームとあんこは飲み物。

2022.07.20
column

フランス人ソムリエ、ダヴィッド・ビローがナビゲートする日本酒セミナー

ヨーロッパやアメリカにおいてSAKE=日本酒は、おそらく日本人が思っているよりもずっとポピュラー。日本食ブームも追い風となり、とくに食通が嗜む酒として定着している。もちろんソムリエにとっても、この米を醸す醸造酒は不可避の存在だ。ソムリエコンクールの常連でもあるダヴィッド・ビロー氏が、群馬の永井酒造のSAKEについて語るセミナーが開催された。

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■ダヴィッド・ビロー ソムリエが日本酒サブスクリプションのアンバサダーに就任

「SAKE」として海外のプレミアムなドリンク市場ですっかり根付いた感のある日本酒。2021年度の日本酒輸出金額は401億円で、数量ともに過去最高を記録。中でもフランスは伸び率において1位となり、フランス人のための日本酒コンクールKura Masterも年々エントリー数が増加、日本酒人気が高まっている国の筆頭だ。

そんなムーブメントの中、日本酒のサブスクリプション「サケイスト ボックス(Sakeist®Box)」のアンバサダーに数々のソムリエコンクールで成績を残すフランス人ソムリエ、ダヴィッド・ビロー氏が就任。世界のあらゆる飲料を研究する中でSAKEにも精通するビロー氏はフランスでも日本酒通として知られ、Kura Masterの審査員を務めた実績もある。勤務するマンダリン オリエンタル パリ内のレストラン「シュール ムジュール パール ティエリー・マルクス」では、シェフのティエリー・マルクス氏自身が日本酒好きということもあり、さまざまな日本酒をオンリストしている。

ダヴィッド・ビロー/David Biraud
マンダリン オリエンタル パリの
シュール ムジュール パール ティエリー・マルクス(Sur Mesure Per Thierry Marx)ソムリエ。
2013年 ヨーロッパ最優秀ソムリエコンクール 第2位、16年 世界最優秀ソムリエコンクール 第2位。
MOF(フランス国家最優秀職人賞)でもある。/© Kô Oda

ビロー氏が3位となった17年ヨーロッパ最優秀ソムリエコンクールのファイナルで、アペリティフとして「SAKE」をサーブする課題があったことを覚えている方もいるだろう。当時ASI会長だった田崎真也氏と森覚ソムリエが仮想客として着座し、スパークリング日本酒やアルコール度数低めの日本酒が入ったクーラーの中からふさわしいものをすすめるという内容。いまや日本酒の出題は予想されるべきもので、コンクール常連のビロー氏にとっても日本酒は長く取り組んでいる飲料のひとつであるといえる。

■ビロー氏と群馬・永井酒造の長年にわたる交流

そんなビロー氏が講師を務める群馬の蔵元「永井酒造」のウェビナーが実現。ビロー氏自らがワインと比較しながら日本酒の造りや味わいを解説し、ティエリー・マルクスのスペシャリテとのペアリングも披露するなど、日本酒愛好家のみならずワインファンにもアプローチする内容で実施された。紹介されたのは、スパークリング日本酒「ミズバショウ ピュア(MIZUBASHO PURE)」と、永井酒造のフラッグシップともいえる「水芭蕉 純米大吟醸」の2アイテム。

2本のSAKEとビロー氏による>テイスティングシートが届けられる。
ウェビナー冒頭ではSakeist®代表の秋月杏奈氏が挨拶。

日本の蔵元をたびたび訪れ、その製造工程も識るビロー氏は、冒頭で酒造りの要素である水=Water、酒米=Rice、技=craftmanship について解説。「水の重要性が極めて高く、水質が酒の質を左右する。またワインのセパージュ同様に酒米にもさまざまな産地と品種があり、酒の味わいを特徴づける。そして自然が生んだ素材に人の手を介し、その手法は職人の技である点はワインと同じように文化である」と語った上で、水を使わないワインにおいてはテロワールが鍵となり、ブドウが育つ土壌や風土がワインの大きな要素であると付け加えた。

■ビロー氏のSAKEテイスティング

発泡の日本酒は外国人にも受け入れられやすく、SAKEの中でもとくに世界で人気が高まっている。ミズバショウ ピュアは、一般社団法人awa酒協会が定める厳格な基準をクリアした瓶内二次発酵による「awa酒」として認定されており、Kura Masterにおいても受賞実績のある高品質なスパークリング日本酒。

Kura Master純米大吟醸酒部門で金賞受賞実績のある「水芭蕉 純米大吟醸」、
スパークリング部門でプラチナ賞を受賞している「ミズバショウ ピュア」。

ビロー氏テイスティングコメントは以下。

「ミズバショウ ピュア」
酒米/山田錦、精米歩合/非公開、アルコール度数/13%
外観:やや曇ったシルバー。繊細な泡がゆっくり立ち上る。ワインの涙のようにグラスの内壁に脚が残る。涙のような脚が残る
香り:春の花のように繊細でフローラル、メロンや白桃の甘やかでデリケートなアロマ。
味わい:生クリームのように柔らかなテクスチャー、口中に甘みとともにうま味も感じ、アフターにかすかな苦み。泡のフレッシュさと酒の柔らかなさが調和し、印象的な余韻をもたらす。

「水芭蕉 純米大吟醸」
酒米/山田錦、精米歩合/50%、アルコール度数/17%
外観:クリアなシルバーの色調、粘性も充分。
香り:熟したハニーデューメロンやミツロウの芳醇で甘さのあるアロマ。
味わい:しなやかで柔らかいアタック、酸が爽やかさを感じさせ、まろやかな味わいが広がる。余韻が長く、ピュアで質の高い日本酒。

■SAKE×ティエリー・マルクスのペアリング

続いて、シュール ムジュール パル ティエリー・マルクスのシグニチャーと、ふたつのSAKEとのペアリングのプレゼンテーション。ティエリー・マルクス氏といえば、斬新な素材の生かし方で舌のみならず視覚や嗅覚、嗅覚にアプローチするイノベーティブキュイジーヌであまりにも有名。その豊富なスペシャリテの中から、ビロー氏がマッチすると考えるメニューを紹介された。

ティエリー・マルクスのスペシャリテ。

〔ミズバショウ ピュアとのマッチング〕
・大豆のリゾット
大豆を米に見立ててリゾットのように仕立てた一品。ジロール茸が香り高いスパークリングを引き立てる。
・貝のジュレとキャビアのバゲット
貝のスープのジュレに、キャビアをのせた焼きバゲットを添えて。うま味が凝縮されたクリーミーな食感のジュレが、ふくよかなスパークリングSAKEと好相性。

〔水芭蕉 純米大吟醸とのマッチング〕
・卵とパルメザンのフランを野菜のコンソメとともに。
・アカザエビのクリスピーボール。 味噌入りのクリームで味付けし、酒とのペアリングをより魅力的に。

このほか、石平目のグリルやスペシャリテである斬新なルックスのオニオンスープ、スパゲティ型にまとめた仔牛のリー・ド・ヴォーなどはいずれの酒にも合うと紹介。また定番のデセールであるソバ粉のビスケットに栗と抹茶のクリームを挟んだスイーツも、ふたつの酒にマッチすると紹介された。

ワインとアルコール度数はさほど変わらず、同じ醸造酒である日本酒。ビロー氏は、そんな日本酒をフランスのフードシーンで普及させていくにあたり、「ワイン同様、酒造りは長い歴史をもっているものであり、歴史と伝統を重んじるフランス人に対してアピールできる。また、原料が米と水だけであるという点においては、ヘルシー健康的な飲み物であるとのイメージもある」とポテンシャルについてコメント。

■さらなる起爆剤として期待されるスパークリングSAKE

瓶内二次発酵で造られるスパークリング酒に関しては「製法がシャンパーニュと類似し、よりSAKEをアピールできる飲み物。アルコール発酵したベースが二次発酵することにより、さらに素晴らしい味わいに変貌を遂げる。ソムリエはアペリティフとしてスパークリングワインやシャンパーニュを勧めるが、スパークリングSAKEはその代わりになり得る。この発泡酒が日本酒への入り口となり、そこから純米大吟醸などの本格的な酒に興味をもってもらえるようなるのではないか」と期待を寄せる。

スパークリングワインになじみの深い欧米人に向けて、
スパークリングSAKEは日本酒導入のきっかけになるとビロー氏は期待。

6代目蔵元の永井則吉氏も登場し、マンダリン オリエンタル パリでの日本酒テイスティングのことや、ビロー氏の来日時に永井酒造の蔵を案内したときの様子を紹介。産地やブランドにより味わいが異なるキャビアと、さまざまな造りの日本酒をペアリングさせての試飲は非常に興味深かったと語った。

コロナ禍以前はパリと日本を行き来し、交流していたビロー氏と永井則吉氏。

「サケイスト®ボックス」日本酒セミナーの第2回目では、ルーマニア出身のジュリア・スカヴォ氏が大分の中野酒造を紹介(実施済み)。6月には、エデュケターやコーディネーター、ジャーナリストとして活躍するクロエ・C・グランピエール氏が八鹿酒造を紹介するセミナーも開催。ワインラバーにとって、ワイン同様に知っておきたい日本酒。本ウェビナーでは、今後は蔵元による造りの解説やペアリングについてもっと掘り下げるとのこと。外国人ソムリエがワインと比較させつつ語るSAKEのセミナーは、一聞に値するだろう。

ウェビナーはアーカイブ視聴(無期限)も可能で、筆者もアーカイブにて取材。

サケイスト®ボックス
https://sakeist.com

Text & Photo : Hiromi Tani