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相田冬二

日本在住/ライター・ノベライザー

ライター・ノベライザー。映画を中心に、雑誌、ネット、劇場用パンフレットなどに、レビウやインタビュー記事を寄稿。ワイナートでは「WINE CULTURE REVIEW」の映画欄を担当。映画・ドラマのノベライズも手がけ、最新作は『さよならくちびる』(徳間書店)。ワインは白が好き。

2022.11.04
column

饒舌と沈黙。ワインをめぐる詩的なドキュメンタリー

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「私たちは“時”を飲んでいるんだよ」

ワイン醸造学の権威として知られるジャック・ピュイゼは、ワインの深淵をそう口にする。

映画『ソウル・オブ・ワイン』は、ブルゴーニュ地方の醸造家を中心に、ワインに関わる人々の姿を、あるときは饒舌に、あるときは寡黙に映し出すポエティックなドキュメンタリーだ。

ゆっくりと馬が進んでいく畑の光景を挿入しながらこの作品が紡ぐのは、ワイン造りにいかに膨大な手間がかけられているかの“時の重み”である。テイスティングしながら「吐き出すのが勿体無い。美味しすぎる」とワインの恵みを讃えるワインメイカーたち。詩人のように美しい言葉を捧げながらワインのフォルムから細部までを味わい尽くすソムリエール。そして、黙々とプロフェッショナルな技術でワイン樽を築き上げていく職人たち。こうした饒舌と寡黙とが、孤独に淡々と葡萄の木を手入れする醸造家の歩みと重ねあわされ、ワインという崇高な液体をめぐるポリフォニックな映像として結実している。

それぞれのこだわりや詳細なプロセスを追いかけるのではなく、俯瞰的に、大らかに、ワインを支える関係者たちの肖像を掴まえる懐深い一作。

ワインに魅せられる人の反応は様々だが、あらんかぎりの言葉を費やしたくなる高揚感も、沈黙のままその世界に浸りたくなる陶酔も、この映画は等しく受けとめてくれる。パリジェンヌ、マリー・アンジュ・ゴルバネフスキー監督の眼差しは、ブルゴーニュワインのみならず、あらゆるワインに通底する抱擁の美を浮き彫りにしている。

 ■『ソウル・オブ・ワイン』
11/4(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー。

監督・脚本:マリー・アンジュ・ゴルバネフスキー 
2019年/フランス/フランス語/102分/カラー/1.85:1/5.1ch 
原題:L’âme du vin 字幕:齋藤敦子 字幕監修:情野博之
協賛:株式会社ファインズ 後援:在日フランス大使館、アンスティチュ・フランセ日本、一般社団法人日本ソムリエ協会 
配給:ミモザフィルムズ
©2019 – SCHUCH Productions – Joparige Films – 127 Wall 

【公式サイト】 http://mimosafilms.com/wine/ 

Text:Toji Aida